児童ポルノ禁止を初適用 奈良県警、書類送検へ(共同)

http://www.excite.co.jp/News/society/20051109162021/Kyodo_20051109a499010s20051109162024.html

奈良県警少年課と奈良西署は9日、児童ポルノを所持していたとして、県の「子どもを犯罪の被害から守る条例」違反の疑いで同県生駒市の無職男性(23)を書類送検する方針を固めた。同条例の適用は初めて。
条例は、13歳未満の子どもに付きまとう行為や児童ポルノの所持などを全国で初めて禁止。昨年11月に発生した奈良市の女児誘拐殺人事件を受けて、7月1日に施行された。罰則は30万円以下の罰金か拘留、科料
調べでは、男性は自宅の部屋に、13歳未満の女児を撮影したポルノDVD1枚を持っていた疑い。県警は今月初め、自宅を家宅捜索し、成人のポルノを含む百数十点を押収した。
男性は「子どもに興味があった」などと供述しているという。

AMI NewS(10/9)より。


マジで適用しやがった……。しかも、条例の施行からわずか3ヶ月で。


ポイントは何か?


それは、単純所持である。*1


児童ポルノ法は、単純所持を禁止する規定を設けていない。*2
禁止規定を設けるべきでない理由については、ARC 平野裕二の子どもの権利・国際情報サイト児童買春・児童ポルノ法改正勉強会レジュメの説明が詳しいので引用する。

*日本が法的に拘束される可能性がある国際文書において、いまのところ単純所持の犯罪化は義務づけられていない。子どもの権利条約の選択議定書においても、「子どもポルノグラフィーを製造し、流通させ、配布し、輸入し、輸出し、提供し、販売し、または上記の目的で所持すること」を禁じるに留まっている(第3条第1項(c)号、下線部引用者)。サイバー犯罪条約においても、児童ポルノの譲受および単純所持に関する規定(第9条第1項d号およびe号)については留保が認められている(第9条第4項)。ただし、欧州連合理事会「子どもの性的搾取および子どもポルノグラフィーとの闘いに関する理事会枠組み決定」(PDFファイル)においては単純所持の全面不処罰は認められていない(第3条)。

*単純所持の犯罪化が市民のプライバシーに対する過度の介入につながりかねないことは、広く指摘されてきた。インターネット社会では、児童ポルノを所持しようという意思がなくてもいつのまにか所持しているという場合がしばしば生じうる(消極的所持)。次回見直し時に仮に単純所持が犯罪化されれば犯意がなくても捜査・起訴の対象とされることがあり、政治家や政治活動家・人権活動家に対するスキャンダル捏造に利用される可能性は否定できない。現に、単純所持を犯罪化している英米等においては疑わしい運用が行なわれているという指摘がある(連絡網AMI「『児童買春児童ポルノ禁止法』改正への要望書」2003年6月のうち「3 単純所持罪/単純製造罪の問題点」参照)。


また、こちらの意見も参考になりそうだ。

(2) 児童ポルノの単純所持の違法化について

Ⅰの「初めに」で述べましたように、私は署名において児童ポルノの単純所持規制にも反対してきました。

したがって、今回の自民党案のような「処罰なしの違法化」であっても、人権上問題があると考えています。
ましてや、自民党野田聖子議員が6/9の日本ユニセフ協会主催のセミナーでおっしゃったように、単純所持の違法化が罰則化への移行措置であるなら尚更受け入れることはできません。
 
私が単純所持規制に反対してきた理由は、児童ポルノの単純所持は具体的な人権侵害ではなく、また規制は国民のプライバシーの権利を過剰に侵害し、さらに規制に必然性・必要性がないと考えるからです。

名誉毀損」を例に取ると、児童ポルノ被害者が感じる「児童ポルノの単純所持によって、自らの虐待の記録を、他者に見られるかも知れない」と言う不安は、名誉毀損被害者の感じる「名誉毀損記事等の所持によって、不名誉な記事が他者に読まれるかもしれない」と言う不安と、原則的には同じものです。

ある者にとっての不名誉な情報を「流す行為」は具体的な人権侵害ですが、ある者にとっての不名誉な情報を「持っている事」は人権侵害とは言えません。
したがって、児童ポルノの販売・領布は具体的な人権侵害であると言えますが、ただ所持しているだけでは人権侵害にはなりえないと考えられます。

さらに、ただ写真や映像を所持しているだけの人間に、被写体の年齢確認は困難であり、また販売や領布などをしない限りその(被写体の年齢確認の)責任も生じないと考えます。

そして、児童ポルノの特定・少数者への提供や電子データの提供を処罰することによって、児童ポルノを合法的に供給する道は絶たれるので、単純所持の違法化・処罰化は必要ありません。

これらのことから、単純所持の違法化は過度のプライバシー権の侵害を発生させる危険性を増すだけであると考えます。

ただし、被害者保護の観点から、児童買春・児童ポルノその他の性犯罪に関して有罪判決が言い渡された場合に、当該犯罪に係る児童ポルノの没収・廃棄を義務づけることは必要であると考えます。
(現時点でこのことに対して立法上の担保は存在しません。ただし、実際には捜査の際に『証拠物』であるということで押収されている模様です)

また、自民党改正案が改正の論拠の1つにしているサイバー犯罪条約においても、児童ポルノの単純所持規制条項は留保可能です。


共同の記事は「子どもに興味があった」という理由以外を伝えていない。またDVDの女児が「13歳未満」であることをどのようにして警察が確認しているのかも伝えていない。*3



日曜のNHKスペシャル(http://d.hatena.ne.jp/bullet/20051106#p4)の放送は、この伏線だったのか?

*1:奈良県の「子どもを犯罪の被害から守る条例」の単純所持禁止規定はhttp://www.pref.nara.jp/somu-so/jourei/reiki_honbun/ak40110811.htmlの13条を参照。

*2:http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.htmlの7条2項、7条5項を参照。

*3:奥村弁護士の見解(http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20051109/1131523884)によると、「「関西援交シリーズ」の被撮影者が特定されているものの購入者じゃないですか?」という可能性があるらしい。すでに摘発された業者の顧客名簿から割り出したのかも。