ケータイマンガ品評 メモその5 ― 試し読みツールとしてのケータイマンガ

ためほんロゴ


日本書店商業組合連合会(東京都千代田区、六千店)は二十四日、今井書店グループ(米子市尾高町、田江泰彦社長)が携帯電話に着目して開発したコミック試し読みシステム「ためほん」の店頭実験を、山陰両県と都内の十一書店で始めた。ITを駆使して書店の販売力を高める試みで、全国への普及を目指す。
ためほんは、インターネットの普及などで書籍販売市場が縮小する中、IT化を逆手に取り書店の売り上げを伸ばそうと、同グループが開発した。
店頭ではビニール包装され、購入前に内容を確認しにくいコミックに着目。専用端末でコミック本のバーコードをQRコードに変え、専用モニターに表示されたQRコードを携帯電話で読み取ると、コミックの一部(十六ページ分)を読める。
店頭実験は、全国共通のサービスにし、消費者の利便性とスケールメリットを高めたい日書連が来年三月末まで、都内の五店と、今井グループのセンター店(松江市田和山町)や本の学校メディア館(米子市新開二丁目)など六店で実施。画像の提供で小学館集英社講談社が参画する。
当面は、少女コミック十五作品のQRコードをあらかじめ、パネルで掲示。近く、改良を重ねている専用端末などを置く。*1 二月以降は少年、青年コミックに切り替え、運用ノウハウを蓄える。
センター店でシステムを利用した松江市比津が丘四丁目の原田朋さん(25)は「とても便利で、面白い。読んだことがなくても、安心して買える」と感想を話した。

http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=508803004

QRコード対応のケータイで、店頭の「ためほん」ポスターの中から試し読みしたいコミックのQRコードを読み取れば、拡大やスクロールも自由自在、気になるコミックをご購入前にチェックできます。甘い恋のプロローグを、熱い戦いの始まりを、ケータイで試し読み! まずは、小学館集英社講談社少女コミック厳選15タイトルからスタート!
 「ヨルカフェ」 円城寺マキ
 「放課後オレンジ」 くまがい杏子
 「僕達は知ってしまった」 宮坂香帆
 「僕はキスで嘘をつく」 藤間麗
 「暁のARIA」 赤石路代
 「コイバナ!-恋せよ花火-」 ななじ眺
 「ストロボ・エッジ」 咲坂伊緒
 「お嬢様はお嬢様。」 葉月めぐみ
 「プライド」 一条ゆかり
 「デカワンコ」 森本梢子
 「ヤマトナデシコ七変化」 はやかわともこ
 「ライフ」 すえのぶけいこ
 「キス&ネバークライ」 小川弥生
 「本屋の森のあかり」 磯谷友紀
 「ちはやふる」 末次由紀

https://www1.imaibooks.co.jp/cgi/blog/log/eid387.html


都内でサービスが試せる最寄の書店は、神保町の書泉グランデ三省堂本店、渋谷の大盛堂書店の計3店。
3店の中だと一番よく足を運んでいるグランデへ、Let's Try。



階段を降り、音楽誌やギャンブル誌のコーナーの間を抜けて、コミック売り場へ。
階の奥まった一角が、天井の低い出入り口で仕切られたようになっている売り場で、棚や平台を一通りめぐってみるが、中々みつからない。
コミック売り場から外れたスペースなのかしら……、と思いながら、アイドル写真集のコーナーへ続く出入り口を抜けようとしたところで、一方の壁にようやく発見。



grande B1F



白いラックの1/3くらいにサービス対象の少女コミックが並び、ラックの上の壁に作品別のQRコードが印刷されたポスター。
そして、ラックの下2/3に並べられた「明日のよいち」「まりあほりっく」「かんなぎ」をむさぼるように立ち読みする学生服の男子。





「ためほん」の立場は?





いやいや、アニメ化作品の場合は今こそが売り時なんだから、1巻だけ立ち読みできるようにしておくことは珍しくないしね。
単行本段階の人気作とは、また話が違うから、そうそう。
……でも、せめて場所を分けておいてもよくね?



オタク分を吸収し終わった男子が去ったので、気を取り直して、ラックの前へ。
ケータイを取り出して、QRコードの読み取りモードをセット。
客や店員からは直接に視認されにくい位置とはいえ、傍目に「デジタル万引き」と勘違いされたらたまったもんじゃねー……と、内心、ちょっとびくびくしながら、QRコードにカメラをかざして読み取り開始。
少女コミックには不得手なため、まずは、今年の「このマンガがすごい!」を読んで単行本を試し買いしていた、

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

QRコードを選択。
マクロモードに切り替えたカメラで読み取りをスムーズに済ませ、「URLに接続しますか?」の表示で「はい」を選択。
「ためほん」のサイトへアクセスを試みる。









圏外。





……。





「ためほん」の立場は?









グランデでの仕打ちを引きずりながら、三省堂本店2Fのコミック売り場へ。
こちらはちゃんとアンテナの立つスペースにポスターを掲示
カーゴの中に並べられた対象コミックスには、シール形式のQRコードが貼り付けてある。
ほかに、手帳サイズの告知用チラシも並べてある(QRコードはなし)。
カーゴの向こうのポスターは、ケータイをかざして読み取ろうとするとちょっと遠くて焦点を合わせにくいので、シールのほうで試みる。
ただ、グランデよりは見通しがよく、客も多いので、やはり「デジタル万引き」と間違われないかびくびく。



ようやく接続すると、サイトのトップに三省堂書店神保町店の名前が出る。
どの書店からアクセスしたかが分かるようで、書店別の利用度測定をしているよう。
試し読みの中身については、箇条書きで。


  • 商用ケータイマンガで事実上の標準ソフトの「ブックサーフィン」は使っていない。試し読みの操作はテンキーで行う(ブックサーフィンは十字キー)。
    • 画像が商用ケータイマンガに比べると、粗い。おそらくだが、データではなく、コミックスから直接スキャンしたものではないか。出版社と協力体制を取っているということだが、データを直接に提供してもらうほどの協力体制ではないよう。あくまで無料の試し読みであり、書店として単行本を売るための取り組みと考えれば、多少粗い画像でも構わないとは言える。
  • 最初に1ページ全体を表示した後、コマ単位でズーム→カメラ移動していくという、商用ケータイマンガではお目にかかったことのない閲覧方式。そのまま表示してもケータイの小さい画面ではセリフの文字は読めないため、商用では、ページ全体を見せるという手順を踏むことはない。
    • が、この「ためほん」方式は、案外わるくない。ページ全体を最初に俯瞰させるため、コマ単位で追いかけさせられるよりも、構成が把握がしやすい。これも、あくまで単行本を買ってもらうためのサービスであるから、ページ全体=単行本と同じ形で見ることができる必要があるため、俯瞰させているのだろう(ただし見開きの場合は一度に片方のページしか見れない)。
    • 画像が粗い=データが軽いこともあってか、カメラ移動がさくさく出来て、商用のケータイマンガよりも可読性のストレスは小さい。が、ページが切り替わる際の読み込み時間は5-6秒あり、ここで大きなストレスを感じる。無駄にじっとケータイの画面を見つめる時間が伸びるため、はっきりいって店内に居づらい。第1話の冒頭16ページが試し読みできるわけだが、16ページすべてを読もうとすると、かなりの時間、店内に居座る必要がある。
      • なぜか、この1ページ全体の画像が「画面メモ」に保存できる(保存したデータもズーム→カメラ移動による読みが可能)。後でこうやって分析したりする分には好都合だが。
  • 「ためほん」サイトからリンクを辿って、他の対象コミックの試し読みもできる。いちいちQRコードを読み込み直す必要はない。
    • このため、「ためほん」トップサイトのQRコードをポスター等で大きく掲示してもらい(読み取りやすいように)、そこから各作品へ飛んだほうが手早く済むケースもあるかもしれない。

今後のケータイマンガ演出との関連で、注目しておいて損しないと思われる点を簡単にまとめると、「データが軽いためかページあたりの可読性が軽快」「多少の粗さは問題ない」「予めページ単位で俯瞰しておくと構成を把握しやすい」といったあたりになるか。







で。
一方の、試し読みツールとしての使い勝手はというと。



はっきり言って、普及しなさそう。
冒頭の記事で紹介されている、「とても便利で、面白い。読んだことがなくても、安心して買える」という原田朋(25)さんの褒め言葉は、おそらく非常に少数派の感想じゃないか。



なぜか?



「時間」と「お金」を読み手=顧客に負担させるという本末転倒に陥ってるように思えるから。



読み手=顧客は、どうして立ち読みしようとするの?
それがもっとも「時間」と「お金」をかけずに、自分好みの面白そうなコミックを見つける/見分ける手段だから。
確かに、いまどき、ちょっとネットで探せば、膨大な作品についての膨大な感想や書評が溢れている。
ダヴィンチの特集や「このマンガがすごい!」のようなランキング本でも買えば、自分の感性に響きそうなコミックの1冊や2冊はすぐに目に留まるんじゃないか。
でも、そんな手間もめんどくさい、日々が忙しいといった、手前勝手な理由のほうが、勝ってしまいがち。
それはそれで構わない。
そんな気分屋でめんどくさがりの大多数の読み手=顧客に、どうやって手に取らせ買ってもらうかということに頭を捻るのが書店の仕事。



その1手段が「ためほん」だとして、では、「ためほん」は立ち読みよりも優れたサービスか。
平台から1冊の単行本を手にとり、1〜2話分をパラ見する程度なら1-2分で済む。
気に入れば、レジで400-600円を支払う。後は家でも電車の中でも好きなように読めばいい。
でも、「ためほん」は、人目を気にさせながらQRコードを読み取らせるだけで1-2分をかけさせ、さらにそれ以上の時間をかけて読める量は、1話16ページの限定。
さらに画像のダウンロードにかかるパケット代は自分持ち(docomoの場合で「パケット定額の契約率は現在30%程度」という)。



立ち読みで「時間」と「お金」を節約したい読み手=顧客に、逆に「時間」と「お金」を負担させちゃう。
本来、書店側が負うべきコストを、読み手=顧客に転嫁しようとしている。
そんな客商売があるか。
優先されてるのはどっちの都合?
サービスしてもらうなら、書店員一人一人の工夫が凝らされたポップのほうが、一目で“売り”が分かってよほどありがたい。
最初はがっかりしたけど、グランデのあの扱いは、書店側のホンネ*2が表れたものなのかもしれないね。










*1:「改良を重ねている専用端末など」という点もよく分からない。端末の仕組みは当然だが、端末導入のコスト(端末代、設置スペース、メンテナンス費用など)まで書店側がわざわざかけるだろうか。出版社に用意してもらう試し読み用の小冊子や、単行本1冊を試し読み用にして→後で返品するほうが負担は小さい。シュリンクほどの費用対効果が見込めるとは考えにくい。

*2:【1/20追記】「書店側のホンネ」を誤解させるような書き方をしていた。ここで示したつもりの「ホンネ」は、今井書店グループが開発した「ためほん」システムの実験に協力させられた書泉グランデが、「ためほん」の有効性に疑問を抱き、あまり利用されなさそうな(しかもサービスの根幹を揺るがす致命的立地の)スペースにわざと設置した……、という意味。だから正確には「今井書店グループに対する書泉グランデのホンネ」である。