ケータイマンガ品評 補の5 ―― 携帯ゲーム機(PSP)によるマンガ配信の将来性

秋葉原エンタまつり2009 -AKIHABARA ENTAMATSURI 2009- 『コミック シンポジウム』
http://www.entama.com/comic_sym/



昨日、秋葉原UDXで開かれた、「本年中にSCEが開始する予定のPSネットワーク上での、PSPコミック配信サービスの概要を中心に、各社のデジタルコミックへの取組や将来展望について紹介」(シンポ要旨より)するイベントへ行ってきた。
壇上に並んだパネリストは計6人。左から順に、

と、ずらり並んだ。
聞きなれない社名のリブリカは、マンガなどの非デジタルコンテンツのデジタル配信ビジネスを手がけるため、大手出版を中心に共同出資された新設企業。主な出資元は、 パネリストでもある講談社小学館集英社角川書店や、今回のPSPを使ったマンガ配信事業で作品を提供するスクウェア・エニックスアスキー・メディアワークスエンターブレイン富士見書房のほか、大日本印刷凸版印刷、ゲーム受託開発最大手のトーセ、シャープになる。
リブリカが、今回のPSP配信でどのような役割を果たしているかについては、配信の準備や配信窓口となるプレイステーションストアの運営の手伝いといった説明が簡単になされただけで、具体的な内容についてはよく分からなかった。また、別の会場で行われていたPSP実機を使った配信デモンストレーションは、時間の都合で体験できなかった。



最初に、シンポジウム全体を通したPSPによるマンガ配信ビジネスの感想を述べておくと、「マンガのデジタル配信ビジネスにおいて、ケータイマンガで出遅れPCマンガが不発に終わった大手出版が、まだヒットコンテンツの少ない携帯ゲーム機のダウンロード事業に目をつけ、共同出資方式により互いに"抜け駆け禁止"の協定を結んだ上で、あわよくば海外マーケットの再展開を目論む」といったところになるだろうか。
PSPによるマンガ配信というサービスそのものには一定の可能性を感じる一方で、リブリカを軸とした共同出資システムに対しては、どうにも「船頭多くして船山に登る」という印象をぬぐいきれなかった。
理由は、大きく3つで、

  1. 急成長するケータイマンガ市場への対抗心が先走り気味
  2. 配信されるマンガに独自性が見あたらず、メジャータイトル頼り
  3. 海外マーケットの有望性が未知数に過ぎる

になる。
特に、1点目の理由では、ケータイマンガが伸びた要因(簡便な課金システム、エロ・BL・TLタイトルの充実、女性ユーザー層の厚さ、etc)などを分析した話がほとんどなく、PSPの特徴である大画面・高精細・大容量・有名作品という点ばかりが持ち上げられていたことが気になった。ケータイマンガが伸びた要因と、PSPの特徴はほとんど重なるところがない。PSPの特徴は、確かに読み手に良い環境を提供するものではあるけど、市場を広める決め手になるかというと、ケータイマンガが"それ"なしでここまで成長したことを考えると、なんとなくスローガン倒れになるような心配をする。
実際に配信事業が始まって、半年くらいを経ってみないとはっきりしたことは言えないのだろうが、現状ではどうにもスタートダッシュが見込めるようには思えない。






  • PSPの現状
    • 国内累計出荷台数は2009年9月時点で1,200万台以上
    • PSPからプレイステーションストアへのアクセスが可能になったのは2008年10月
    • 2009年7月からビデオ(アニメなど)配信を開始
    • 11月1日にPSPgoを発売予定
  • ケータイマンガとの違い(各パネリストのコメント要旨)
    • SCE……大きくてキレイな画面、操作性、大容量
    • 角川……ケータイマンガではメジャー出版社のメジャータイトルを一つの売り場で手にすることが難しかった
    • 講談……PSP発売日にスキャンしたマンガを画面に映してみたところこれは良いと思った、講談社作品のケータイマンガで(コマ毎に映す"紙芝居ビュー"ではなくページ上をカメラ移動する)"スクロールビュー"を採用するのは、いずれ大画面でマンガが配信される状況が来ることに備えておきたい理由があった*2、ケータイマンガの反応速度の遅さがPSPでは解消される
    • 集英……画面が大きくなるだけでこんなに変わるのかと驚いた、モノクロのマンガをフルカラー化する場合は100インチのモニターで映しても大丈夫なようにつくっている
    • 小学……小学館はケータイマンガをモノクロ+コマビュー(=紙芝居ビュー)で配信しているがやっぱりカラーはいい、(PSPで配信するにあたって)カラー化するだけのお金をかけられるかというところはあるが、(PSPは画面が大きいので、画面が小さい)ケータイマンガではやりたくないという作家も乗り気になっている
    • 講談……ケータイマンガはH系の作品がメイン、なんとか市場を広げたいが一旦そのような(H系がメインの)市場ができてしまうと……、ケータイマンガのサイトはアクセスの多いサイトほど(メニューリストの)上位に表示されるのでなおさら(H系に)傾向が偏る、そのような(H系が中心の)ケータイマンガは読みたくないという人もいる、(PSPのマンガ配信の意味としては)メジャーな作品やメインストリートの作品を中心にアピールしていける場が出来たことが大きい*3
  • 海外展開
    • 角川……生き残っていく上で海外は必須、現在の代理店+ロイヤリティービジネスでなく直販ができれば収益が拡大する、拡大した収益の一部を作家にも還元できる
    • 講談……(紙媒体は)翻訳や現地出版社との調整がいる、ケータイマンガは現地のキャリア別に交渉が必要、キャリアが取る手数料は日本と比べて高い、海外はゲーム機による配信事業のほうが有利
    • 集英……PCは左上から読んでマンガは右上から読むが(コマを切り替えて読む"紙芝居ビュー"なら)その不利がなくなる、マンガの読み方に不慣れな(海外の)読者にも届けやすい
  • デジタルと紙
    • 小学……(PCやケータイやPSPでの配信は)あくまで過渡期的なもの、最終的には今とまったく違う表現が生まれてくるだろう、けれども現状では作家が紙に書いて本で読む(ため、本で収益を出す形を優先している)




  • 個人的な見通し
    • 当初、1,000万台以上という出荷ベースでの市場規模を見込んでいたが、これは勘違いで、ダウンロードコンテンツを利用できる課金ベース(プレイステーションストアの有料アカウントベース)で推計しないと意味がないと分かったことは収穫だった。それに出荷ベースだと旧型・新型を所有するユーザーを重複カウントしてしまう
    • 利用料金の発表はなかった。すでに配信を始めている動画(=アニメ)は「72時間視聴可能な「レンタル購入」」「1話あたり200円〜600円で、SD画質版/HD画質版などで料金はそれぞれ異な」るというので、少なくともマンガ1話あたりの料金は動画最低料金の200円よりは安いと思われる。ケータイマンガの相場が1話あたり旧作30円〜新作50円なので、価格競争面を考慮して同程度か1.5倍くらいの料金だろうか?
      • 仮の客単価を300円〜1,000円に設定(ケータイマンガの毎月のポイント購入システムを参考)した上で、月110万のユニークアクセスのうち、1割が購入してくれたなら、月商は3,300万円〜1億1,000万円
      • 「ウォレット」にチャージする約96万人のうち、1割が購入してくれたなら、月商は2,880万円〜9,600万円
        • 上記2ケースで見込める年商は、ざっと3億4,000万円〜11億2,000万円。現状のPCマンガの市場希望よりちょっと小さく(ざっと1/2〜1/7)、ケータイマンガの市場規模よりずっと小さい(ざっと1/30〜1/100)
    • 今後の課題
      • 無線LAN環境が整わないとアクセスできない(室内・室外で共通、都市部・地方で格差)
      • 課金が面倒(現状でクレジットカード・Edy・専用チケットの3つのみ)
      • タイトル数が不足(既存の有名作品ばかりでわざわざゲーム機で読む動機に薄い)
    • おおまかな構図
      • ケータイマンガ……独立系、通信、パチンコ、印刷、中小出版
      • 携帯ゲーム機マンガ……ゲームハード、ゲーム開発、印刷、大手出版



おそらくゲームはしないので、カセット用のスロットは必要ない。軽くて、ちょっと小さい代わりに画面がキレイだという「go」のほうを新宿ヨドバシあたりで予約しようと思う。






*1:

*2:"スクロールビュー"の読みづらさに我慢ならなかった自分としては、この発言には「そりゃ負け惜しみじゃ?」とつっこまざるをえない。ケータイマンガの大勢が"紙芝居ビュー"となっていることを見れば、その急成長に乗り遅れた理由の一つをつくった責任のほうを感じるべきじゃないか、と。

*3:ケータイマンガはH系が主流という、この一連の発言も、どうにも負け惜しみに聞こえてしょうがなかった。それに、メジャー作品はメジャーだからこそ皆、雑誌や単行本で読む機会が多いため、わざわざPSPというイレギュラーな形式で読むものだろうかと思う。