「ガールズポップコレクション」に対する不健全図書指定のその後。

松文館の「ガールズポップコレクション」が狙い撃ち。
http://d.hatena.ne.jp/bullet/20091111#p1


ちょうど半年前に書いた上のエントリでは、松文館が発行していた、「ガールズポップコレクション」というTL(ティーンズラブ)等を収録したアンソロジーが、東京都による「不健全図書」指定を集中して受けていることを紹介した。それと同時に、この集中指定の延長線上には、「規制問題に比較的関心が薄いTL・BL・同人市場が、規制強化に向けた“突破口”にされる可能性」があるのではないかと触れた。
それでは、その後、「ガールズポップコレクション」はどうなったのか。
結論から言うと、上のエントリをあげた直後に、廃刊となっている。

○青少年課長 個別指定ですので、そういうことになります。それでご参考までに出版倫理協議会という自主規制団体に入っているところにつきましては、1年に5回なり、連続して3回なりの指定を受けた場合には、「18歳未満の方々には販売できません」と書いた帯紙を付けることになっておりますが、この株式会社松文館につきましては、出版倫理協議会ではない他の自主規制団体に入っておりまして、綱領はございますが、そういった自主規制は行っておりません。
○■■委員 何かお考えになったほうがいいと思います。これをシリーズでvol.50まで出ているということになると、我々のやっているのは、随分形式的なことなんだなというふうに思えてなりません。
○青少年課長 条例の第9条の3というのがございまして、知事は図書類のうち、定期的に刊行されるものについては、直近の時期に発行されるものから表示図書類とするように勧告することができるとなっておりますので、現在、松文館につきまして9条の3による勧告を検討しているところでございます。
○■■委員 松文館というのは、数えてみると毎月に近いくらい上ってきていますので、きょうその話が出たら嫌だなと思っていたんですけれども、vol幾つになっていますけど、多分、単行本の扱いなんですね。ですから、今、店頭に一月あるというのは立派なものです。ほとんどなくなりますから、文庫本を含めてご覧になっていればわかると思います。松文館については、どのぐらい前でしょうか、2年か3年か前でしょうか。『密室』というコミックで175条の適用を受けて摘発されて、最高裁まで行きました。罰金刑で決まりましたけれども、今、事務局の説明では、もちろん出倫協にも入っていませんし、それからアダルト誌関係の懇話会という協会があるんですけれども、これもごく最近に入ったというので私まだ詳しく聞いていないんですけれども、というくらいで、いわゆるアウトサイダーの出版社でした。ですから、最高裁までやりましたし、それなりの志はあるんだろうと思いますけれども、アウトサイダーでいる大きな出版社というのは何社かあります。組織といいますか、会に入っていれば、当然、いろいろ話はわかるんですけれども、そういう状態で、最近、要するに懇話会のほうに入ったということですので、大体様子がわかると思います。それから、以前ですと、出版社がこの指定を受けるというのは、実はすごいしんどいことなんですけれども、以前は都のほうで該当の出版社を呼んでご注意申し上げたことがあったはずなんですけれども、最近はそれはないんですか。
○青少年課長 毎回指定の際に、もちろん呼んで話をしております。
○■■委員 松文館なんかは毎月来ているわけね。
○青少年課長 そうです。
○■■委員 それは大したもんだ。毎月来ているわけですね、ほとんどね。
○青少年課長 はい。指定の際にはお話をしております。
○■■委員 その会社については、そういう会社ですので、私のほうでもちょっと聞いてみます。

次に8ページ、9ページをご覧ください。平成21年度不健全図書類指定実績でございます。 この中で、指定回数の多い■■に対しましては、指定告示後の話し合いの場において、条例第9条の2第1項に基づく「青少年に対し、性的感情を刺激し、青少年が閲覧することが適当でない旨の表示」をするよう告示のたびに毎回要請を行い、自主規制を促してまいりましたが、改善の見られない状況でございました。 前回、11月の指定図書類告示により、ガールズポップコレクション「危険恋愛H」シリーズについては本年3回目、同じく「バーニングラブ」シリーズについても本年3回目の指定となったことも踏まえまして、条例第9条の3第1項に基づき、「次号以降の発行に当たり、表示図書類とすること」を知事名で勧告いたしました。 この勧告を受けまして、同社はガールズポップコレクション「危険恋愛H」及び「バーニングラブ」並びに2回指定を受けております「背徳恋愛」シリーズについては本年12月から発売を中止することとし、また11月発売分には「成年コミック」マークのシールを貼り、表示図書にすることにしたとの報告を受けております。 以上、不健全図書指定後の経過についてご報告をさせていただきました。


条例を根拠とした勧告を行い、「成年マークをつけろ」という命令が下されたことで、指定を受けていたガールズポップコレクションのうち、「危険恋愛H」「バーニングラブ」「背徳恋愛」の3シリーズが廃刊となった。
松文館のアンソロジー一覧コーナーを確認すると、「危険恋愛H」は2009年11月14日発売の危険恋愛H Vol.51がを最後に発行が中断。
また、「バーニングラブ」と「背徳恋愛」の2シリーズは、2009年12月3日に発売されたバーニングラブ Vol.362009年12月3日に発売された背徳恋愛 Vol.9の2シリーズで、表紙の左上に「成年コミックマーク」がつけられた。この2シリーズも、マークがついた号を最後に発行が中断している。
その後、今年1月からホラーエクスタシーという成年マーク無しの新シリーズを開始。現在、「ガールズポップコレクション」で今年に入って新刊が発売されたのはこの新シリーズからのみとなっている。


都の「不健全図書」指定制度は、わいせつ罪で前科一犯を持つ松文館の「ガールズポップコレクション」というタイトルに対して、目論見どおりの成果をあげたと言っていいだろう。







そして、半年が経って、「非実在青少年」などの馬鹿げた考え方を持ち出した青少健全育成条例の改正案によって、マンガ業界が大きく揺れている。


「創」2010年6月号

創 (つくる) 2010年 06月号 [雑誌]

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の長岡義幸氏によるリポート「マンガの性表現規制を狙った都条例改定めぐる攻防」は、「ガールズポップコレクション」に対する一連の集中指定を引き合いに出して、

条例改定の準備が行われていた最中、東京都は「不健全」指定が2年間で13回に及んでいた松文館を呼び出し、都知事名の「勧告書」2通を手渡していた。その結果、松文館はTL(ティーンズラブ)もののシリーズを廃刊にした。善し悪しは別にして、「非実在青少年」なる指定事由を新設しなくとも、現行条例で対応可能であったことになる。条例改定の根拠の一部が崩れた格好だ。

と指摘する。

前回のエントリで自分は「規制強化への伏線」として「何度指定されても態度を改めないアクドイ出版社が居るんですよ!という叩きやすいネタを準備」するために、「ガールズポップコレクション」に対する集中指定があったのではないかと推測した。
けれども、松文館が意外にも白旗をあげて、「ガールズポップコレクション」を廃刊にしてしまったため、思わぬ形で「不健全図書」指定制度が“成果をあげてしまった”。長岡氏が指摘するように、現行条例でも、18歳未満に「不健全」な本を手に取らせないことは可能だということを証明してしまった。
では、条例の改正は何のために必要なのか?、ということになる。



さらに、「ガールズポップコレクション」を集中指定していた都は、廃刊で目的を達してしまったせいか、次なる“標的”を見つけあぐねている気配さえある。

そもそも、条例改正案とは別に不健全図書指定は少なくとも過去数年は問題なく機能してきています。まず、打ち合わせ会の席に都も揉めるような物を持ってきません。つまり出版社の多数が「やりすぎだろ…」と思うのくらいしかならない@2ndClasPasenger #hijitsuzai

昨年あたり、松文館がやたらと指定されていましたが、これは出版社の多数が「なんで成年マークつけないんだろ」と思っていたわけです。ところが、昨年後半から、松文館がその手の本を出さなくなりいよいよ指定する物がないという状況

にも関わらず、都は指定するものがないと仕事していないように見えるのがいやなのか、審議会での審査にかける図書を選ぼうとする。結果として、今年1月には審査予定のうち1冊を、打ち合わせ会の反対多数で取り下げています@2ndClasPasenger #hijitsuzai

「不健全図書」候補を反対多数で取り下げたという「打ち合わせ会」とは、業界関係者で組織する「諮問図書類に関する打合せ会」のことだ。これは青少年条例が出来た1964年当時から続いている会で、以来46年間、ある程度のけん制の役目を果たしてきているようだ。

条例案は,7月27日に公明党から修正案(図書類の範囲,自主規制団体の意見聴取,立入調査は知事部局職員)が提案され,修正案どおり可決成立し,10月1日に「東京都青少年の健全な育成に関する条例」が施行された。この条例の可決成立にあたって出倫協議長談話を発表し,出版物を規制する条例制定は「まことに遺憾に堪えない。…毅然たる態度で,この運用面を十分監視」する旨の態度を表明した。都青少年健全育成審議会委員には布川議長を推薦した。11月に東京都は,初の不健全図書に8誌を指定したが,「指定に関する認定基準」は(1)著しく性的感情を刺激するものとしてア〜エを,(2)甚だしく残虐性を助長するものとしてア〜エの細則が設けられた。そのうち,(1)ウの「医学的,民族的その他学術的な内容であっても」が問題となり,出倫協は都に条例の趣旨をふまえ編集面で制約とならないように,との意見を出した。12月からは条例15条の2にもとづき,都青少年対策部と自主規制団体である出倫協などとの懇談会を毎月開催することになった。その後,懇談会は「諮問図書類に関する打合せ会」として現在に至っている。


しかし、「非実在青少年」などのあいまいな概念を持ち出した都条例改正案が通貨すれば、これまでの「不健全」に関する判断基準の積み重ねは、ほとんど通用しなくなる。つまり、「諮問図書類に関する打合せ会」による反論も意味をなくす可能性があるということだ。審議会を手の平の上で踊らせることが出来る都の判断基準のほうが、優先されていく可能性が非常に高くなる。「諮問図書類に関する打合せ会」が骨抜きにされれば、「不健全図書」指定制度は、これまでとは比べ物にならないほど猛威を振るうことになる。



「諮問図書類に関する打合せ会」による反論が審議会の結論を左右したことは、過去に何度かあったようだ。

前回11月30日の第7回審理において、当社の「『テックジャイアン』(株式会社エンターブレイン発行)が2号連続指定されたが、内容は変わらないのに恭順の意を示したために3号目の不健全図書指定を免れた」という指摘に対し、都側が「内容が認定基準に該当しないため指定しなかった」と明らかに虚偽の回答をしたことをお知らせした。 ところが、12月に行われた不健全図書指定の過程で、再びおかしなことが発覚した。 都が出版業界団体との打合会に提出した諮問候補リストのうちの1冊が、最終的に告示された不健全図書のリストから消えてしまったというのだ。一体なにが起きたのか。 問題の一冊は打合会の全委員に反対されたが、都はそのまま審議会に諮問した。しかし、審議会でも反対され、結局リストから外されたというのが真相のようである。 第5回の審理で示された都の審議会で反対されても都知事は不健全図書指定ができるという公式見解での強弁はどこへいってしまったのだろうか。

○調整担当課長 諮問第809号の不健全図書の指定についてご説明いたします。
お手元の諮問文、2ページをご覧いただきたいと思います。諮問図書の一覧表でございます。
(中略)
その結果、1の「漫画オリンピア」、2の「話王」につきましては、否定的な意見がございました。具体的には、1の「漫画オリンピア」につきましては、表紙からして子どもが手に取る本ではないという意見が多く、また、表現が許容の範囲であるという意見でございました。2番目の「話王」につきましては、修正がなされている、袋綴じで肝心なところは見られない、大人向きであり工夫もなされている、基準ギリギリだが指定の必要はない等の意見がありました。そのほかは、指定やむなしとの意見が多かったのでございますが、3の「にっぽん話題スクープ」につきましては、修正がなされているとの意見が多くありました。4の「スーパー写真塾」でございますが、表紙を見て、大人向きとわかる、修正がなされている、この程度では青少年に影響がない等の意見がございました。最後の5番目の「DVD DELUX」につきましては、一部に、それほど激しくない、修正がなされているという意見がございました。
これらの意見を踏まえまして、事務局で再度検討を行いました。その結果、それらの雑誌が現実に青少年の手に取れる場所に置かれていること、成人向けであれば表紙などに18歳未満禁止の表示をし、区分陳列により販売するようかねがね要望しているところでございますので、そういったことから、この全5誌につきまして本審議会に諮問することといたしました。よろしくご審議をお願いいたします。
(中略)
○■■■■ 全誌指定でお願いしたいと思いますが、先ほどの自主規制の業界の方の理由というのが、速くおっしゃられたのでよく確認できないのですけれども、自主規制の側のコメントというのは、できれば文書でお見せいただけませんでしょうか。
○会長 先ほどの説明をもう一度繰り返したほうがよろしいですか。
○■■■■ 今日の今日で文書というわけにはいかないかもしれませんが。
○調整担当課長 では、次回から、出された意見につきましては、書いたものでお示ししたいと思います。
○■■■■ 先ほどの審議会の運営等に関する資料のご説明のところに、審議会の任務の中で、大きく三つあるうちの、いわゆる業界が自主規制をしているから本審議会での審査はしていないというご説明がありましたけれども、今諮問されております1番、2番というのが業界のほうで自主規制としてこれは認められる、許容範囲ではないかというような認識で(あるのに対し、都としては)自主規制の対象になっていないと(判断したと)いうことですね、先ほどのご説明では。
○都民協働部長 今のはわかりづらいことなので、ちょっとご説明しますと、自主規制をしているか、していないかの話がそのまま、審議会で指定すべきか、指定すべきではないかという議論につながるわけではございません。自主規制側として「それは規制しなくてもいいだろう」「十分自主規制している」と判断したとしても、審議会として「これはまずい」という判断をすれば(自主規制の中で引っかからなかったとしても)当然、指定になる、ということでございます「自主規制をしている」イコール「審議会で審査しない。」という意味では全くございません。
○■■■■ わかりました。あと、166冊購入されたうちで、今回この5冊が候補となっておりますけれども、諮問されていない書籍については、諮問されていないことについて審議することはないでしょうけれども、私、初めて出席して拝見させていただきましたが、諮問されていないものというのは、事務局のほうで全部ご覧になった上でということですよね。その諮問された雑誌と、されなかったところの基準の違いというご説明はないまま今、諮問されておりますけれども、そこのご説明をお願いできますでしょうか。
○調整担当課長 「認定基準」に照らして私どもは毎月審査しておりまして、いわゆる性的感情を刺激するというものは、見る人によって多少違いますので、基本的には担当者3人が一致して「基準」に該当すると認められたものについてのみ、審議会に諮問する、ということでやっております。
○都民協働部長 ちょっとつけ加えさせていただきますと、もともと購入の段階で、当然のことながら、健全な図書類を購入することはございません。書店なり、コンビニで中を見まして、これは引っかかる可能性があるなというのを購入しているのが百数十冊でございます。ですから、そういう意味では、もともと若干の疑義ありというのを買ってきております。その中で、この5冊とそれ以外を分けるのはどこかというのは大変難しいというのが正直なところでございます。「基準」はあくまで文書の形になっておりますので、著しいかどうかという価値判断になってまいります。ですから、その辺について、ここが一線であるというのを形であらわすのは大変難しいと思っております。ですから、諮問しなかったものが全てわれわれが100%許容しているかといいますと、この辺はあくまで相対的な問題ということになります。ただ、では100冊指定していくかということになりますと、これもまた程度の問題でございまして、結果としてこの5冊程度になっているということでございまして、今月の5冊というのは、毎月から比べますと、やや少なめというところでございます。その辺は、時代の流れとともに概念も変わっていくだろうというふうに思いますので、決してその時々でフラフラするわけではございませんけれども、一定の線をなるべく保とうという努力はしておりますが、では6冊目があるとした場合、5冊目と6冊目の境はと言われた場合は、やはり著しいかどうかということで判断せざるを得ないということでございます。

前者の引用では審議会も反対、後者の引用では最終的に審議会が賛成して指定、というように結論は異なる。が、都条例改正案が通過すれば、このような手続きで揺れることもなくなるかもしれない。最終的に都の結論が何事にも優先することになりかねない。あるいは、「不健全図書」指定制度を使うまでもなく、都が手を下すまでもなく、改正条例を根拠とした“善意の一都民”の要請で書店が自主的に書棚から「不健全図書」に該当しかねない本を外すことにもなりかねない。その場合も、やはり、「諮問図書類に関する打合せ会」の存在意義は失われる。





廃刊にさせられた「ガールズポップコレクション」こそが、条例改正が不必要であることを指し示している。