宝島社は間違いなく別冊宝島あたりで「進撃」解体新書を出す(タイトルは余談)。



進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)








諫山創進撃の巨人」を絶賛する「自称漫画好き」には右端脚を見舞うべき。 ≪ おれせん。
http://oresen.sakura.ne.jp/2011/01/23/4063842762/




ここ半年、購入ブツの台帳記録とプロレス観戦記になりはてているこの立ち枯れブロガーの自分がよ?(ここまで桃井かおり口調で)、なんでこの今話題のホットエントリ戦線にわざわざ参戦するのかって?


はい、自分がたきつけました。少なくとも、年末に「進撃」の単行本を渡して、「「進撃」が「このマンガがすごい!」1位を取っちゃったよ! 話題になってるし、ブログでなんか書いてくれよん!」と無理強いっぽく頼んだりしていました。


もともと、連載誌の別冊マガジンを創刊号から買い続けている中で、自分も注目していたんです(佐藤藍子風に)。
主に、人体模型ベースの巨人の造詣のキモさ、歯並びが良すぎる巨人の巨大スマイル、ミカサの裕木奈江っぽい憂いを含んだ表情、立体機動装置を使った見た目に新しいアクションの斬新さ、壁の向こうから押し寄せてくる巨人たちの意味不明さをともなった絶望テンションの表現の仕方、といった部分で。
それで、春に単行本の1巻が出て、マンガ系の読み手に認知が広まりつつあった夏頃には、今年、先物買いが好きなマンガ系ランキングの上位には入ってくるだろうなぁ、なんて話していたわけです。
そして、まさかの「このマン」1位。正直、「単行本が出たばっかりの初年度で、そこまでいかんでも……」という思いとないまぜでした。ただ、話題作であることには違いないので、単行本をむりくり押し付けてしまった、と。


もしも、こっちの酒の勢いも混じったプレッシャーがあったりして、釣りカラーで着色したエントリに辿り着いてしまったのなら、無理強いが過ぎたと先に頭を下げておきます。





で、「進撃」の中身。
こうやってブログの中でちゃんとした感想の形で触れるのは初めてになるけれど、自分の評価は「粗は目立つが面白い」。連載で読んでいるときから、その評価は今も大きくはぶれていない。
その点で

見事にというか絶妙にクソ漫画

という意見とは異なる。


もちろん自分個人の嗜好が大きく関わっているのは明らかに言える。
端的に言うと、その一つがコミティア補整。
「粗削りだけど何かしら光るものがある」的なオリジナル創作を、わざわざ電車賃とカタログ代を払って、20〜30ページのオフセットを1冊500円とかで集めてまわり、一度の即売会で3万円前後をざらに使い、青田買いマシーンと化す自分が、それと似た臭いがぷんぷんしている「進撃」に惹きつけられないわけはないので。
件のエントリについたコメントで言うと、

粗さ・下手さ といった本来マイナス評価である所が、味がある・目新しい とプラス評価に転化されている

http://b.hatena.ne.jp/entry/b.hatena.ne.jp/entry/oresen.sakura.ne.jp/2011/01/23/4063842762/

という評価をしがちなのは、まさにそう。
そういった個人的嗜好のせいで、粗さが逆転現象を起こして、他の人より余分に面白がれてしまっている面は否めない。



……とはいっても、実際に粗をほじくり出したらきりがないマンガだということも、おそらく満場一致疑いナシ、なんだよなぁ。

エントリで「クソ」の理由として挙げられてる、

1) 大人が考えなしのバカ、悪人として描かれる人間も考えなしのバカ
2) 巨人の設定(弱点)や行動原理がご都合主義
3) 本編で語っていない(かつ本来は重要なはずの)設定情報を単行本のおまけページで明かすというやり口
 等。

以外にも、ほじくって山積みできそう。


特に自分が個人的にギミック設定の面で気になってしょうがないのは、

  • ワイヤーロープを射出するためのガスボンベがそんなに小型じゃガスがすぐに切れて活動時間がすごい短くなってしまうんじゃないか
  • ワイヤープレー中、替え刃用の鞘が足とか腕とか建物にすごいガンゴンぶつかって邪魔そう
  • ワイヤーロープがただの鉄線という設定はさすがに投げやりすぎ(“軽量剛性ナノカーボン素材”とかそれっぽい名称でもつけておけばいいのにそれさえしない)
  • 「立体的で高速な機動が目的である装備は、徹底して軽量化の限りを尽くされている」(1巻、現在公開可能な情報コーナーより)という事情は分かるにしても、巨人と戦う際に手袋とヘルメットくらいはしておいたほうがいいんじゃないか、あーでもそれじゃミカサの顔が隠れちゃう……にしたって軽量化が不可欠というならやっぱり鉄線はない

といったあたり。
「進撃」世界の科学技術力は、20世紀中ごろ、真空管全盛期といった印象なのでそういった改良は無理ということなのかもしれないけど(設定では装備にブラックボックス要素があるとされていて、シナウォールの中で最新技術が稼動している可能性もあるけれど)、バトルシーンでこういった気になる要素が頭の中をちらちらしてしまうと、巨人のうなじを刃で削ぐ前にこっちのドキドキ感が削がれてしまうというか。


それにもっと前の巨人の攻略方法レベルの疑問として、大きな穴を掘って落とすんじゃダメなのかとか、街の中を流れてる川に落とすのは?とか、大砲用の爆薬があるならそれを使った地雷源で囲んでみては?とか、「ヘウレーカ」みたいにぶんぶん回転するギロチンを巨人の襟首の高さに設置してレールに沿って走らせてみたら?とか、先週末と先々週末に地上派初登場してた「レッドクリフ」みたいに火攻めしようぜ!とか、残り少ない貴重な人命をなるだけ危険にさらさずに済む土木・工学技術の活用手段はいろいろあるはずなんじゃないか、とは思わずにいられない。
「過去には何度か挑戦されたけど、どれもこれこれこういう理由で不発に終わったのです」なんて説明が、4、5巻あたりの「現在公開可能な情報」コーナーあたりで出てくる予定とか? 


「進撃」の、人によって目に余るだろう(絵のつたなさも含めた)粗さは、やっぱり人によってマイナスポイントになりやすい。
ただ、繰り返しになるけれども、自分の場合は、コミティア補整のせいもあって、こういった粗さが逆転現象を起こしたり、マンガとしての勢いに惹かれたせいで、面白度がプラスメーターに傾いてる。だから、ざっくりとネット上で「進撃」を語るときや、口頭で「進撃」について語るときは、そのあたりの事情や粗さをはしょってしまい、「とにかく読んでみて」といった省エネトークで労力をさぼっていた可能性は高い。
一応、一般論として、人を選んだ話し方はしているつもりなので、素人を相手にすれば一応の初歩的説明はするし、それなりの玄人と見ればポジショントーク上等でやりこめにかかる。そのあたりのオススメの使い分けは、もっと磨きをかけようと思う。


一方で、今回の「進撃」に関しては、

「クソ漫画と知りつつ頬かむりして絶賛していやがる『クソの周囲を飛び交うハエ共』がうぜえ」

といった、感情面を刺激する核分裂反応を一気に臨界点に押し上げるようなある現象が付加されてしまったがゆえに、話がややこしくなっている部分はある。


「このマン」1位選出問題である(まだまだ続くよ!)。









このマンガがすごい!」2011年版

このマンガがすごい! 2011

このマンガがすごい! 2011




このマンガがすごい! - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%93%E3%81%AE%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%AC%E3%81%8C%E3%81%99%E3%81%94%E3%81%84!


まず、Wikipediaで「このマン・オトコ版」の歴代1位作品を確認して分かるように、2006年版の「PLUTO」を除いて、2007年版以降の4作品、「デトロイト・メタル・シティ」「ハチワンダイバー」「聖☆おにいさん」「バクマン。」は、すべて単行本の1巻が出た年に初ランクインして、かつ1位に選出されている。つまり何が言いたいかというと、「このマン・オトコ版」の1位枠は、基本的にずっと前から青田買い・先物買いの投機マーケットになっているということだ。
だから、2010年に1巻が出た「進撃」が1位になったことも、その点では前例に倣った格好に過ぎないと言える。


ただ、決定的に違う点がある。
歴代の1位の作品の作者は、過去に作品をヒットさせたり単行本を出したことのある一定の実績を積んだ作者ばかり。「進撃」の作者は、「進撃」がデビュー作で本当にまっさらの新人だ。だからこそ、絵や構成の力のつたなさは当然といっていいくらいある。
そういった点で、2010年版の「このマン・オトコ版」1位に「進撃」が入ったことは、過去の1位作品の傾向と比べても、異例と言っていい。


それからもう一点、
マンガのランキングは、目利きの手によって掘り出し物を発掘する点に面白さの一つがある……とはいっても、優先順位としては、偏りが激しいマンガ読みのポジショントークを希釈・平準化して、誰にもとっつきやすい最大公約数に整理しなおす役割が担われてほしいところ。

(つーか宝島の「このマンガがすごい」も「このミステリーがすごい」も変に権威化しているのがおかしいんであってあの辺基本的に「そのジャンルに全然興味のない人向け」だってことはもっと認識されるべきだと思うの)

というランキングの本来の役目が、特に上位作品には期待されていい。


……なんか、文章が固くなっちゃったな。ちょっと体操してほぐそう。


たとえば、もしも2000年版の「このミス」で「バトル・ロワイアル」が1位をとってたりしたら、確かに話題作ではあるけどそれはどうかという意見はいろいろ出たんじゃないかしら、と想像したりはするでしょう?(しない? あ、そう……)。
うーん……ちょっと違うかな、「バトロワ」ほど「進撃」は一般にする知名度はない状態でランキングに入ってきたし。ちょっと極端かもしれないけど、えと、「六枚のとんかつ」とか「ガダラの豚」がトップ3に入ってしまったような感じ?
「進撃」が「このマン」1位に入れられちゃった事態には、そういったランキングの勇み足的な部分が三段跳びの要領で先走ってしまったような印象を持つ。確かに話題作だけど1位じゃなくても……的な印象は、個人的に強い。しかも2位の「テルマエ・ロマエ」に獲得ポイント数で1.5倍近い差をつけて1位になっちゃった。
でも、「このミス」における自分みたいな初心者は、そんなの気にしないですからね。1位なら問答無用で面白いんだろうと、そりゃー思っちゃいますよ。というか、思わせて買ってもらうためのランキングだし。まぁ別にそこの商業性は全く否定しませんよ。ただ、2010年版までのランキング1位の結果に比べると、偏りが厳しくなったんじゃないの?と。「進撃」は2012年版で1位とかでも、もうちょっと熟成させる時間は与えてあげても良かったんじゃないのかと。




それでは、ここからは、なんでこういう結果になっちゃったのかしら、ということを、「進撃」に投票した方々の属性傾向から見ていこうとおもいまーす。



    • 1位(10点)にあげた投票者 ×12=120ポイント
      • 「書店員が選ぶ」枠
      • 「各界のマンガ好きが選ぶ」枠
    • 3位(8点)にあげた投票者 ×3=24ポイント


すべて集計すると310ポイント。足りない3ポイント分は、「漫画家のタマゴが選ぶ」枠(×3校)で、京都精華大学、JAM日本・アニメ専門学校、代々木アニメーション学院の3校の生徒から投票があったものと思われます(京都は1票以下の作品、JAMは2票以下の作品、代々木は3票以下の作品の一覧が掲載されていないため。1票1点で集計)。


先に「進撃」への投票がなかった枠を確認しておくと、「このマン」を編集してるライターさんの「サルベージ座談会」枠(×3人)、小中学生に投票してもらう「Under-15が選ぶ」枠(×3校)、「大学漫研が選ぶ」枠(×4校)がそれにあたった。
芸能人やスポーツ選手、作家など中心に投票した「あの人が選ぶ」枠(×17人)からも、わずかに1票。それも投票できる順位中、一番低い5位で6点分。


だから、「進撃」の1位選出に果たした役割は、「書店員が選ぶ」枠(×23店舗)と「各界のマンガ好きが選ぶ」枠(×63人)で大きかったことになる。母数=票田が大きいから、当然と言えば当然だけど。


それでもって、「進撃」に投票した人のうち、1位と2位に投票した人の多さが、1位選出の原動力にもなっている。
1位もしくは2位に投票した人の数は23人。これで計219ポイントが集まった。総ポイント313の7割を占めていて、さらにこの時点で2位(188ポイント)の「テルマエ・ロマエ」に31ポイントの差をつけているから、やっぱり、それが言える。


で、その中でも、「書店員が選ぶ」枠の母数となった23店舗については、「進撃」を1位もしくは2位に投票した店が10店舗、母数に対して43%という高い比率を占めた。ポイントでは計94ポイントの票田。


「進撃」1位選出を後押しする力が、母数に対して顕著に多かったのは、書店員票です。


じゃあ、なんで書店員票が結構な量、なだれこんだのか?


ここで、この現象を解くキーワードになるのが、「紙屋研究所」の方が、「進撃」が「アイアムアヒーロー」や「自殺島」などとテーマを共通する部分があるとして提示した“絶望郷”というフレーズ。

ぼくは『アイアムアヒーロー』と『自殺島』は別の系統の「絶望郷」マンガであり、『進撃の巨人』はそのどちらの要素も兼ね備えている、と思っている。
アイアムアヒーロー』は、自分をおびやかすものが不可視であるとか、他者がまったく理解不能だという「見えない」不安を(少なくとも4巻までは)かかえているマンガだ。そしてその不安にたいして主体の抗力がきわめて小さい。『進撃の巨人』の巨人への不安もよく似ている。主人公たちが(少なくとも2巻までは)ほとんど無力に等しい存在であることも共通している。もちろん多少は抗える。しかし多少は反撃できることが、全体の狂奔ともいえる流れを押しとどめることはできそうにもないことを際立たせ、努力のちっぽけさを逆に浮き彫りにしてしまう。
生活が破壊されたり、将来が突然消えていたり、職がなくなったりする不安とともに、いきなり得体のしれない国が砲弾をぶっ放したりするような不安にさいなまれていることと重なる。
「自己責任」論へと最終的には「進化」していく、「強い個人」「個は輝き強くあらねば」という説教は、他者との共同や連帯を「依存」として否定し、他者を理解不能な存在として「モンスターペアレント」とか「ニート」とか「北朝鮮」とかいって塗りつぶしていく。

http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20101204/1291481444


さて、「このマン」に票を投じた「書店員が選ぶ」枠、「各界のマンガ好きが選ぶ」枠、「サルベージ座談会」枠、「Under-15が選ぶ」枠、「漫画家のタマゴが選ぶ」枠、「大学漫研が選ぶ」枠、「雑誌編集者が選ぶ」枠、「あの人が選ぶ」枠のうち、もっとも“絶望郷”に共感、あるいはリアル“絶望郷”に近い環境へ偏りが見られる枠はどれだろう?


そうです、次々に書店がつぶれ、大資本にモノを言わせた印刷会社傘下入りが相次ぎ、1,000円を下回る時給で夜遅くまでこきつかわれ、万引き被害や古書店対策に頭を悩ませ、忙しい時間帯に限って現われる出版の営業マンに愛想笑いで応じ、横柄な立ち読み客に本棚を荒らされる――今のマンガ業界でもっとも“絶望郷”を身近に感じている方が集中している「書店員が選ぶ」枠から、「進撃」に票が動くことは、或る意味、自明だったんです。




「お前も「進撃」読んで、いっしょに絶望しようぜ!」という書店員さんたちの叫びが、「進撃」を「このマン」1位に押し上げたんです。
(あれ、最後がなんで久米田っぽい……?)