出倫協は崖下を目指すのか?


「18禁でしょうか? いいえ誰でも」ついにロリマンガ消滅へ 業界団体が示した「自粛案」の苛烈さ
http://www.cyzo.com/2011/04/post_7037.html

7月からの改定・東京都青少年健全育成条例(以下都条例)全面施行を前に、出版業界内部で成年向けエロマンガを含めたロリコンものの自粛に向けた取り組みが計画されていることが明らかになった。一部の出版社からは、反発の声も挙がっており対立は深刻になっている。

新たな自粛の取り組みは、業界団体・出版倫理協議会(以下協議会)が設けた「児童と表現のあり方検討委員会」の席上で示されたもの。自粛案は「出版倫理協議会出版倫理懇話会の申し合せ(案)」のタイトルで

1: いわゆる第二次性徴期を迎える前の、13歳未満と想起させる子どもをモデルとした漫画(コミック)を出版する際には、性交又は性交類似行為を連想させる表現は自粛する。
2: いわゆる第二次性徴期を迎える前の、13歳未満と思われる子どもを大人が凌辱するような行為を描いた漫画(コミック)の出版は自粛する。

 以上の二点を求めている。

委員会から示された自粛提案に、出版倫理懇話会(以下懇話会)側の加盟各社は反発を強めている。協議会は64年に設立された日本雑誌協会日本書籍出版協会日本出版取次協会日本書店商業組合連合会の4団体からなる、いわば業界大手を中心とした組織。対して、懇話会は85年に設立された、茜新社コアマガジン辰巳出版などが加盟するアダルト系出版社の業界団体だ。

「都条例がターゲットとしているのは、秋田書店白泉社双葉社などから出版されている成年向けマークを付与していないにも関わらず、同等の性行為を描写をしている漫画。これまで、区分を徹底してきたアダルト系出版社が煽りを受けるのは納得できない。そもそも、この自粛案は都条例よりも厳しい規制案ではないのか」(懇話会加盟社社員)

昨年の都条例騒動は、あくまで「成年向けマーク」を表示していないにも関わらず「過激な」性描写が行われているものがターゲットで、アダルト系出版社にとっては、いわば「対岸の火事」だった。突然の自粛協力要請は寝耳に水ともいえる。

■「有害コミック騒動」の再現か

アダルト系出版社が自社で発行する雑誌・書籍の表紙に自主的に表示する「成年向け」マーク。このマークの導入も協議会の提案で導入されたものだ。

発案されたのは91年のこと。前年から大手出版社が発行する青年向けマンガの性描写への批判をきっかけに、アダルトも含めて、あらゆるマンガで性描写の自粛が余儀なくされた「有害コミック騒動」への対応の一環であった。ところが、大手各社はマーク付き=有害と見られることから二の足を踏み、結果的に主にアダルト系出版社が利用するものになった。

「アダルト系出版社の間では"再び大手が自分たちのツケを懇話会加盟社に押しつけてきている"との声もある。構図は、90年代の騒動と似ている。もし、懇話会加盟社に(前出の)自粛要求を飲めというならば秋田書店の『チャンピオンREDいちご』は廃刊、双葉社はエロ系をすべてエンジェル出版(成年向けマーク付き出版物を発行する関連会社)に移行するくらいの措置を取って貰わないと納得できない」(アダルト誌編集者)

協議会が自粛案を示した背景には、東京都と出版界の対立構造に警察が介入することへの危機感が伺える。「有害コミック騒動」の最中の91年には、神保町の書泉ブックマートの店長らがワイセツなマンガを販売した容疑で逮捕されエロ同人誌約5,000冊が押収される事件も起こっている。

「東京都は、未だに強硬な姿勢を崩してはいない。7月からの改定都条例の全面施行に併せて成年向けや同人誌も含んだ、みせしめ的な摘発が行われる可能性も否定できない」(業界関係者)

昨年の都条例をめぐる騒動の中で、多数の名の知れたマンガ家や知識人の発言は立派だったが、肝心のエロ表現の是否は見過ごされていた。果たして既に自主規制が徹底され、書店でも18禁コーナーに置かれ、東京都も従来は「問題ない」としてきたマーク付きの雑誌・書籍も含めた「自粛」は必要なのか、感情的な対立も含めて出版社間の意見は簡単にはまとまりそうもない。この問題を扱う懇話会の会合は今月14日に予定されている。
(取材・文=昼間たかし


「成年マーク」を付けている本の一部、具体的にはコミックLO等に代表されるロリエロマンガは今後出版・販売をするなと、出版倫理協議会(出倫協)内の組織「児童と表現のあり方検討委員会」が提言する案をまとめたという。



自分は昨年12/15の改正都条例可決の日、

18歳未満に売らない、完全に18禁の作品をつくっている制作者側で、「ある程度の規制は必要」という主張がちらほら目に入るのが気になる。ある程度の線引きを誰がするのかという考えにぱっと至らないのかもしれない。自分には、一般作品がエロを売りにするようになると18禁作品のシェアを脅かす可能性があるから商売敵を自重させたがっているようにも思える。ある程度の規制が入れば、相対的に18禁作品の市場価値が高まるとでも思っているのだろうか。ある程度の規制が入った後は、もっと踏み込んだ規制がはじまるものだということが想像できないんだろうか。区分陳列などのゾーニングだけでは不十分だからという理屈で、エロそのものも手をつけてくるに決まっているのに。

http://d.hatena.ne.jp/bullet/20101215#p1

と書いて、成年マーク付きの18禁ジャンルにも、規制の手はほぼ確実に及んでくると睨んでいた。その危険性に対して、成年マーク付きの本で生計をたてている業者の感度が鈍いのではないかと揶揄を込めて書いていた。



けれど、その規制の手は、あくまで行政の側、都庁、警察庁から伸びてくるものだと警戒していた。



それが、まさか、規制を受ける側の出版業界が自ら言い出すなんて。これが一番の衝撃。東電でなくとも想定外。業界団体が、ある会社の本を暗に念頭において、廃刊にしろ、と圧力をかけている。それも「お上が怖いから」という理由で。仮に、東京都=治安対策本部と警察庁による圧力があったなら、その圧力を表沙汰にするほうが先のはずだ。



確かに大手・中堅の出版社は、弱小出版をこれまで何度となくスケープゴートの生け贄にささげてきた。
最近のもっとも分かりやすい例が、去年の5月にエントリとしてあげた、松文館のTLアンソロジー「ガールズポップコレクション」の廃刊のケース(http://d.hatena.ne.jp/bullet/20100512%23p1)。


「ガールズポップコレクション」は、東京都による「不健全図書指定」を約1年半の間、ほぼ毎月のように受け、最終的には都の勧告を受けて、実質的な廃刊を選択させられた。
このとき、出倫協が構成メンバーの一つに入っている「諮問図書類に関する打合せ会」は、「ガールズポップコレクション」を「不健全図書指定」の審議会に諮ることを了承している。松文館という弱小のアウトサイダーなど、大手・中堅出版にすれば吹けば飛ぶような会社に過ぎない。松文館が「不健全図書指定」をずっと受けつづけてくれれば、その間は、自社の本がターゲットになる心配を避けられるし、都側も実績づくりが出来る。WINWINの関係が出来ていた。



しかし、こういった経緯があったにしても、「ガールズポップコレクション」の廃刊の直接のきっかけは、あくまで都による勧告であって、業界団体側が直接、廃刊を促したわけじゃない。少なくとも、この2009年末の「ガールズポップコレクション」の廃刊の時点では、目に見える形の悪者は都側だった。それも「成年マーク」を付ければ販売してもいい、という留保付きの。



それが今回は、業界団体が直接に、実質的な廃刊を要請するという。前代未聞すぎる。



90年代前半の「有害コミック騒動」を受けて、メジャー側の出版社の要請ではじまったという「成年マーク」にしても、明らかな力関係で強要された背景はあったにしても、あくまで販売規制だった。今回のは「出すな」ということで出版規制になる。限定ではなくて、完全な封殺。



コミック10社会に入ってる秋田書店が「チャンピオンREDいちご」を廃刊もしくは路線転換するから、お前たち弱小エロマンガ出版社もそれに習えと言うような、バーター取引で済む話じゃない。そしておそらくは、「13歳未満と想起させる子どもをモデルとした」という縛りは、アンドロイドや亜人種、1万10歳という設定で回避しようとしてもさせないだろう。そんな抜け道を残せば、警察に介入させる余地を残してしまう。
けれど、そんな、業界一丸となってレミングしましょう、なんて話をまともに聞く人間がいるのか。



改正都条例が可決された日、出倫協は「私たちは、この条例改正に今後も断固とした反対の姿勢を貫くとともに、平成23年7月の施行を見据えながら、さまざまな機会を捉えて行動を起こしていく所存です。」(http://www.jbpa.or.jp/pdf/documents/rinri_kougi20101215.pdf)という声明を出していた。その出倫協がどうしてここまでの手の平返しを内部に向けて出来るのか、アウトサイダーを人身御供にして自分たちは助かろうという態度と行為を出来るのか、全く理解できない。



自分は都条例改正案が可決した日、このようにも書いた。

6月の改正案否決で、流れは変わった。出版側が初めての「勝ち」を得たことで。
でも、歴史に刻まれる「勝ち」の代わりに、「自主規制路線の成れの果て」という危ういバランスをこれ以上、続けることは難しくなった。都と、知事と副知事と、警察庁の出向者で固められた治安対策本部に、これまでで一番明確な反旗を翻したということだから。
「今回はこのあたりで何とか収めておきましょう」といった、持ちつ持たれつは、難しくなった。
雑協などに加盟しないアウトサイダーの作品を指定して、メインストリームの被害を最小限に抑える手も、難しくなっていく。
いい感じの「落としどころ」として利用されきた、わいせつ罪で前科一犯を持つ松文館の本は、連続指定の末、昨年末に自主的な廃刊が行われ、新たにめぼしい候補を探す必要がでてきた。
必要がでてきていたところで、都側と出版側が改正案をめぐって決定的とも言える決裂に6月、至った。
6月に「勝ち」を得て、ガチンコ勝負に切り換わった。
ガチンコ勝負での譲歩は、つぶされるだけに違いない。
刷り合わせの道はなくなった。
だから、治安対策本部は「非実在青少年」を削除しただけで年齢制限を撤廃し、同性愛や不倫などを想定したもっとひどい改正案を提出し、出版側はアニメフェアをボイコットした。
「成れの果て」で譲歩しても、その先には崖下しかないから。

http://d.hatena.ne.jp/bullet/20101215#p1

譲歩の後には崖下しかない。