「あきそら」に「成年マーク」をつけても解決にはならない。


Togetter - 「あきそらは、近親相姦をモチーフとしていたがゆえに重版禁止のお達しを受ける」
http://togetter.com/li/126497


近親相姦シーンが多目だったという1巻と3巻は、改正都条例が施行される7月以降、重版をかけないことを版元の秋田書店が決めた、とのこと。


おそらくは、「以下、ソースは文化通信。出版倫理懇話会で東京都青少年・治安対策本部の櫻井美香青少年課長は新条例による指定対象の可能性のあるコミックスを例示していたとのこと。(続く)」「都によると『恋人8号』、『彼氏シェアリング』(以上2点は強姦描写のため)、『碧の季節』(強姦と近親相姦描写)、『あきそら』(近親相姦)、『花日和』、『奥サマは小学生』(以上2点は反倫理的な性交場面)の7点は施行後重版すれば指定を検討。(続く)」という事態を受けての措置と思われる。


秋田書店は、出している雑誌や本に対して、「不健全図書指定」を少なくとも過去10年は受けていない(おそらくは過去一度も受けたことはない)。今後も、指定を受けたくはないはずだ。つまり、「あきそら」の1巻と3巻を重版しないのは、指定を受けて都と正面からやり合いたくないということになる。


しかしあえて言うが、秋田書店は、コミック十社会と連帯して、不健全図書指定候補として審議会へあげられる動きがあったり、実際に指定されたら、指定取り消しの行政訴訟を起こす、もしくは規制を憲法違反で提訴する、くらいの意気込みでいてほしかった。
もしくは、6月までに、7月以降の重版が必要ないくらいの大量部数を刷るくらいのことをしてほしい。


「不健全図書指定」を頻繁に受けている非雑協加盟出版社に対して、都が勧告をはじめたという件も、重版回避の決定の背後にあったと思われる。「知事は1年間に不健全図書指定6回受けた事業者に対し必要な措置を勧告だって。もう4月から始まってるってさ。」という。
「不健全図書指定」を頻繁に受ける出版社への勧告は、2009年末に、松文館に対して行われ、これを受けて、松文館は「ガールズポップコレクション」を廃刊にした。松文館に対する指定は、過去1年間で6回どころではなかったので、4月から過去1年間に6回の指定を受けた出版社に勧告をはじめたとすれば、それはハードルを下げてより強硬な締め付けを都が行うようになってきた、ということになる。


重版しないという決定は、改正都条例で新たに導入された、「近親相姦等著しく反倫理的な性交または性交類似行為を不当に賛美しまたは誇張するもの」を「不健全図書」に指定する、という規定に基づく。
この規定のポイントは、「あきそら」の作者本人が言う「性的な描写が規制されることと、あきそらが規制されること、これは必ずしも一致しないということ。つまり、あきそらはエロの基準ではないということ、これはご理解いただければと思います。」「エロいから規制されるのではなく、近親相姦だからいけないと言われた、これが最大の問題。」が、本質をそのまま突いている。
そして、「条例の文章を読む限り「刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為」の一文も含まれていいるので、レイプや痴漢などの行為も描きづらくなるのは間違いありません。」という指摘も、その通りだと思う。


11月に都条例の改正案が出た際、自分も、以下のように指摘していた。

現行の施行規則は、18歳未満が読んだ場合に非常にエロく感じるかどうか、が判断基準として重視されていると見られる。


これに対して今回の改・改正案は、さきに紹介したように、施行規則の上の条文の中に入れる形で、「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は性交類似行為を、著しく不当に賛美し又は誇張する」ものを追加しようとしている。


ここで、この追加案をよく読むと、現行の施行規則とはあるズレを持っていることが分かる。


何かと言えば、「非常にエロいかどうか」は勘案されていない点だ。「非常にエロ」くなくとも、強姦等の違法行為や近親相姦等の反倫理的行為を「不当に賛美」していたり「誇張」して描いていれば、「不健全図書指定」が可能にしようとしている。


したがって、これは言い方を換えれば、例えば、互いに相思相愛関係にある兄妹・姉弟・同性同士・不倫などのラブラブバカップルの正常位SEXを愛情たっぷりに描いた作品であっても、18禁マークをつけて区分陳列を強制することができるようにすることを意味すると思われる。

http://d.hatena.ne.jp/bullet/20101124#p1

心配していたことが、ほぼそのまま現実化した。



「あきそら」の1巻と3巻は、7月以降は、「成年マーク」をつけて発売すればいいという意見がある。
確かに、90年代前半の「有害コミック」騒動時には、「さくらの唄」や「いけない! いんびてーしょん」が、「成年マーク」をつけて発売されたことがあった。
しかし、これはあくまで緊急措置であって、また、当時は書店で「成年マーク」用の棚がなく、一般のマンガといっしょに売られていた。
今、「成年マーク」をつければ、そもそも「成年マーク」付きの本を並べる棚がない多くの書店には搬入がされず、売り場が非常に制限されるという不都合を強要することになる。


また、「成年マーク」をつけて発売すればいい、という意見は、「あきそら」の作者本人による「成年向けなら、成年向けの描き方をします。当然です。需要と供給が違います。表現形態が違います。土壌が違います。読者層が違います。全て異なるのです。」「成年向けで描くなら、最初からそのつもりで描く。でも違うのです。あくまで青年誌のフレームで、描こうと思った。だから、決定的に、成年誌とは異なる描き方になっていたはずです。それも、個人の判断ですが。」「成年誌で描いている方は、「成年誌じゃなければできるのに」と思う表現はたくさんありますよね。逆もまた然りです。私自身が成年誌で描いた経験があるから言えることでもあるのですが…これは勘違いでしょうか。」との発言から窺えるように、作者が作品に込めた意図を踏みにじる可能性もある。
確かに、「有害コミック」問題でバッシングを受けた「いけないルナ先生」シリーズがその後、「成年マーク」付きで再販されたり、最近では逆に、「成年マーク」付きで発売された犬の「初犬」シリーズがマーク無しの新装版で発売されたりしたケースはある。
が、それらのケースはおそらくは作者本人も納得の上であって、それを無視した「成年マーク」をつけては?というアドバイスは意味をなさない。下手をすると、表現のテーマや方法の修正を迫る、規制推進側の根本にあるものと同質の考え方さえちらついて見える。


また、「成年マーク」はエロの過激度をレーティングの基準にしたものであって、近親相姦等における「倫理」の在り方を基準として含んでいない。
だから、仮に、マーク方式による問題の回避にこだわるなら、エロ基準の「成年マーク」とは別に、「倫理」や反社会思想の在り方を基準にした、たとえば「不健全マーク」といったものを新たに設けるのが筋になる。
そして、もし、この「不健全マーク」が導入されれば、ハードな強姦物のエロマンガには、「成年マーク」だけでなく「不健全マーク」も貼れ、ということが筋になる。
こうやって、これがどんどんエスカレートしていき、ヤクザ物の作品には「マル暴マーク」、銃や刀を振り回す作品には「ウェポンマーク」といった具合に、際限がなくなりかねない。
「マル暴マーク」や「ウェポンマーク」は冗談半分、と済ませたいが、石原が4選を達成した今、あまり笑ってもいられない。


電子書籍なら?という意見もあるだろうが、過去、そういった似たような後退をつづけてきた結果が、今回の「あきそら」1巻と3巻の7月以降の重版回避につながっている。
いいかげん、出版社は腹をくくってほしい。