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  • 科学 12月号
    • 特集は「核と原発」。
      • かつて福島第一原発の3、5号機や女川原発浜岡原発の格納容器の設計に携わった、渡辺敦雄・沼津工業高専特任教授の論考が、今回の福島第一原発爆発事故で崩壊したGE製Mark1型原子炉における「冷却材喪失事故(LOCA=loss of coolant accident)」をケーススタディに、原発の“安全神話”が依拠していた「定量的リスク評価法(QRA=quantitative risk assessment)」および「確率論的安全評価(PSA=probabilistic safety assessment)」の非科学性について、非常に分かりやすく指摘していた。

QRAでは、故障や事故のシナリオを作成し、「最終事故確率を定量的に解析する」という部分が特に重要である。
原発のPSAではこのとき、機器単体に、他の機器に依存せず独立して故障が生じる単一故障基準を割り当ててゆく。
たとえばディーゼル発電機他の機器の単一事故確率を10のマイナス3乗とし、他の機器の故障と同時に故障しない、という考え方を採用する。
よって、ディーゼル発電機の2台が同時に故障(原因は問わない)する確率は、10のマイナス6乗となる。
そこで、10のマイナス6乗は起こりえない確率であるから、「ディーゼル発電機2台が同時に故障することは考えない」とするのである。
同様に、「LOCA+地震荷重」の場合は、LOCAの単一故障確率は10のマイナス4乗で、地震は1000年に1回、すなわち10のマイナス6乗であるから、「LOCA+地震荷重」の生じる確率は10のマイナス7乗となり、これも確率的には生じないと考える。斑目証言をPSA的に解説するとこのようになる。
しかし、福島原発事故では地震により、「単一故障基準」が破綻し、共通の原因で「ディーゼル発電機2台または3台が同時に故障」し、「2系統のすべての緊急炉心冷却系(以下ECCS)が同時故障する」という「共通原因故障」が生じたのである。
つまり、現在の原子力発電システムの最も基礎となっている設計哲学が間違っていたのだと言える。
もともと単一故障基準の根拠となる故障率という考え方は、ほとんどの場合は天災などではなく初期故障や経年劣化などで機械的な故障を生じた過去の事例を集積して統計的に求めた故障率である。
結論として今回の事故で、単一故障基準の根拠である故障率の算定条件となる前提を覆すような自然現象、テロ、航空機の墜落などによる事故解析に関し、「単一故障基準を原発に適用してはならない」、「共通原因故障を前提にしなければならない」ということが残念ながら実証的に示されてしまったのである。

      • リスクとリスクヘッジ要素を細分化し、その倍率の掛け合わせで、リスク発生率の極小化を図るという、まるで金融屋のような手口を、科学の徒が行っていたという指摘。
      • このテキストの前には、原発リスクヘッジの設計思想を“全部組み合わせていったら、ものなんて絶対造れません。だからどっかでは割り切るんです。”と吐露した、原子力安全委員会斑目春樹委員長のまるで政治屋のようなセリフを引用している。原発産業に係ってきた科学者の多くは、カネと利権に取り込まれ、政治屋の思想に染まっていたことが、誰の目にも明らか。
      • こちらはすでによく知られているが、GE製Mark1型原子炉は70年代中盤に構造的欠陥が米国で指摘され、80年代中盤に日本でも構造解析が行われたものの、この際、地震が起きるリスクを考慮せずに解析を行っていたことについても「QRA」「PSA」の欺瞞の象徴として指摘している。(米国の原発地震の起きない東半分に設置されているため、地震のリスクを考慮しておらず、それを(ワザと?)そのまま適用した)。
    • このほかに、「予断を排した事故シナリオの検討を──1号機非常用復水器はなぜ即刻手動停止されたか」(田中三彦)が、原子炉配管の破断による冷却材喪失が起きた可能性と共に、非常用復水器がなぜ手動停止されたのか、また、2系統あるうちの片方だけが再び起動させられもう片方は再起動させられなかった(あるいは再起動できなかった)のか、という2つの問題について、地震で非常用復水器の配管系が破断したことを作業員が直感して手動停止した可能性があり、その破断が再起動させられなかった非常用復水器のほうで起きた可能性がある、ことを指摘している。東電は手動停止の理由を「冷却速度を調整するため」としているがそれが全く説明になっていないこと、片方の再起動がなかった理由は、東電が事故後に提出した通常の設計思想ならありえない配管の配置図(事故前に提出されていた配置図との違い)から解説している。この地震による原子炉破壊シナリオの検討をもっと進めないと。
  • 鈴木智彦「ヤクザと原発 福島第一潜入記」