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過剰相対リスクの意味 - kom’s log
http://d.hatena.ne.jp/kmiura/20120523

たとえば、そもそも50%の人間がガンになり、それに放射線被ばくで0.01%のガンの患者が上乗せされる、という過剰リスクがあるとしよう。これを、たとえば1万人の人間がいたときに、被ばくを原因として1人がガンになるだけだ、と想定するのが「最小の数の人間への集中」ということである。実は1万人のうち5001人が被害を受ける、という可能性もあるのである。
日本の政府や疫学者はICRPの勧告を参照にしている。ICRPの防護基準はBEIRの報告書や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書を参照にしている。BEIRやUNSCEARの報告書が最も尊重している過去の調査は広島・長崎の原爆被ばく者の”寿命調査”(LSS)データから計算された過剰相対リスクである*2。したがって、日本の政府や疫学者が広く人々に説明する「たったこれだけの被害である」という説明は、ここで検討したように、個人それぞれにとっては過小評価である可能性が大いにある。確率で表現されたリスクは、最小の人数に集中するのではなく、広く薄く全般に影響を与える、という形である可能性もあるからだ。もちろん、人口がどれだけ減るかといった集団の動向だけが気になる人間にとっては関係のない話かもしれない。

被ばくによってガンで死亡するリスクについて(放射線原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説)
http://www.gakushuin.ac.jp/~881791/housha/details/cancerRisk.html

「損害で調整されたがんリスクの名目確率係数」というのがわかりにくさの元凶だ。これは大ざっぱにいえば、「死につながるか、それに匹敵するくらい重いガンにかかる確率の上乗せ」のことだ。
このような量を導入した理由は以下のようなものだと考えられる。「生涯ガン死亡」のリスクだけを問題にしていると、辛うじて死には至らなかったものの大きなダメージを受けてその後の生活も激変したというような重篤なガンを取り上げないことになってしまう。これは困ったことだが、逆にすべてのガン発症を取り上げると、簡単な内視鏡手術で取れてしまうような軽い悪性腫瘍や(特に老人の)ほとんど成長せず健康にほとんど影響しない腫瘍までも数えてしまうことになって、これでは数え過ぎだ。そこで、死亡に至らなかったガンについても、「どれくらい重篤か」を評価してやって、それで重みをつけたリスクを計算する。そうやって、致死のガンと非致死のガンのリスクを足し合わせたものを「損害で調整されたがんリスクの名目確率係数」と呼んでいるのだ(これは、なかなかややこしくて、ぼくは専門家に教えてもらってようやく理解できた。より具体的な計算が知りたい方は、ICRP publ. 103 の付録 A.4.4 の表 A.4.5 などをご覧いただきたい)。

  • よくある「被曝によるガンで死亡する確率」という説明は、1万人のうち唯1人だけが1億円を失う確率、と言われているように感じる。非常に深刻だが、1万分の1の確率だ。これが仮に、「すぐに死にはしないが、歯槽膿漏を発症発祥・症状を加速し、おいしく物が食べられなくなる確率」が、1万人に100人発症するとしたらどうだろう。もしくは、「治りにくい水虫を発症させる確率」が1万人に1,000人発症する、だったらどうだろう。1万人に1,000人の確率で「治りにくい水虫を発症させるかもしれません」という説明が行われたら、その要因に対して、1万人のうち何人が許容できるだろうか。現在は、1万人のうち唯1人が「ガンで死亡するかもしれません」という説明が行われているように感じる。しかし、その説明を受けて原発に対して賛意を示す人の人数と、1万人に1,000人の確率で「治りにくい水虫を発症させるかもしれません」という説明が行われた際に当該要因に対して賛意を示す人の数は、単純に比較できるだろうか。単なる数字としてみれば1人1票であって、どちらの票が重いか、あるいは軽いか、といった判断は行われない。死ななければ、癌にならなければ、そのどちらかにさえならなければ、それでいいのか。そのどちらかで済むのか、本当に。
  • GONG格闘技 7月号