「華氏911」感想その1

今日(8月23日)付けの東京新聞朝刊で、ドキュメンタリー映画作家の森達也が、華氏911を「凡庸以下」と評。ブッシュは確かに馬鹿だけど、ブッシュ=悪の図式に偏り過ぎて、メタファーが足りない、ということらしい。自分なら、ブッシュの内面の葛藤も描く、と森は言う。取材に答えて、ムーアに熱狂する人間が、いつブッシュを熱狂的に支持し始めるかは分からない、との趣旨で結んでいた。

確かに、「ボウリング・フォー・コロンバイン」とどっちが興奮したか、と言われれば、「ボ〜」の方だ。みた劇場も、同じ恵比寿ガーデンプレイスだっただけに、「華〜」鑑賞後、よりそう思った。

森氏と同じ面に感想が掲載されていた奥山由和プロデューサーは、映画前半、「911事件」の報告を部下から耳打ちで受けながら、来訪先の小学校で絵本の朗読会への参加を続けるブッシュの「粗い」映像のリアリティに比べて、最後の最後、ホワイトハウス前で泣きながら、イラク戦争で息子を亡くした母親が思いを告白するシーンの「鮮やかすぎる」映像は、嘘っぽ過ぎて失敗している、との内容を話していた。

あそこで、政府側の人間とひともんちゃくでもあった方が、確かに盛り上がったろう。きれい過ぎるまとまり方なんだよな。「ボ〜」の終盤、全米ライフル協会トップのチャールトン・ヘストンへの突撃取材、続く半強制的インタビューほどの盛り上がりは、ない。同じくらいムーアの主張をメタファーしたシーンの演出はなかった。というか、映画全体として、「華〜」には、「ボ〜」と同じくらい興奮させる山場が出てこなかった。

だから目新しい情報なんかなかったっていう、田原総一郎の感想も、善悪二元論に偏り過ぎっていう森氏の批判も、納得する。

……けれども、作品としての質が高かろうが、ムーアにとっちゃブッシュが再選されちゃあ意味ないわけで、別の言い方をすると、同業家、批評家、国民の半分にあたる観客(=共和党)、ブッシュの息のかかった資本家といった、お得意様、顧客層を棒に振ってでも、ブッシュを追い落としたいんじゃないか。

こういった想像は、えらくムーアよりなんだろうけど。

あと、「プロパガンダだから」「ブッシュ再選阻止が狙い」って表明しちゃった時点で、映画賞や興行収入が2の次になって、作品の質の部分の評価への批判が受け付けられなくなってる、スルー可能になっちゃってるような気もする。

ムーアにとっての、アメリカ腰ぎんちゃくの日本の映画市場は、次の映画のための資金稼ぎになれば充分なのかな。

あー、でも、「華〜」がうそっぱち、っていう批判で、的を得たものがあれば、効果的かもしれない。だけど、共和党ネガティブキャンペーンが強烈過ぎて、的を得ていても、効果が薄れてそうな気もするな。