HELL BOY(ギレルモ・デル・トロ監督)

 最近、まんがの森でよく見かける、安倍良俊とトライガンの作者が参加か推薦をしているアメコミが原作らしい映画。初めての渋谷シネフロントで、金曜日に観る。予備知識まったくなし。たまたま渋谷まで出る目的があったのと、1,000円デーだったからで、映画が始まってアメコミのことは思い出した。
 『第2次大戦末期、ラスプーチン指揮のもと、ナチスのトップ科学者将校でありオカルト結社トゥーレ協会会長カール・クロエネン、女将校のイルザたちが、異界の門を開き、混沌の7体の神オグドル・ヤハドを召喚しようとした寸前、急襲したアメリカ軍部隊によって阻止。真っ赤な小猿のような生き物だけが残される。事件の功労者、超常現象学者ブルーム教授はBPRD(超常現象調査/防衛局)を設立。“ヘルボーイ”と名づけられた小猿は、教授を父と慕い、トップ・エージェントとして極秘裏に魔物退治をしていた……』
 と、ここまでの筋立ては前半15分ほどで見せてくれるのだが、普通、そんな仲間狩りのような仕事をさせられる主人公は、内面でさいなまれて、ストーリーの主軸にその葛藤が関わってくるのがパターンになりがちだと思う。
 それがまったく別の方向から、ヘルボーイのキャラ立てがされていた点。これを知らずに映画を見れるかどうかで、意外性、面白さがまったく変わってくると思うので、今後を観る予定の人はここから先の感想は見ないほうがいいかも、ということで。












 で、ヘルボーイのキャラ立てだが、ハードボイルドを気取ろうとして、肝心なところで抜けてる肉体派、といえばいいだろうか。基地で数十匹の子猫といっしょに生活する、カッコつけの3枚目。
 つまり、ヘルボーイが自分が悪魔の子であり異界との繋がりを左右する存在である、といったことを意識し悩むことはないのだ。思いを寄せる、ガス給湯器の窓から見えるくらいの色の青い炎を出すパイロキネシス使いのリズとは、あいまいな関係に悩んでいるのだがその中身は、主に外見的な問題と不器用な自分の性格についてだ。
 しかし、その性格付けが、物語の奥行きを損なっていたりということはほとんどなく、素直にストーリーやアクションシーンを楽しめた。
 マンホールから地下鉄に逃げ込んだ召還モンスターのサマエルを追いかけようとするヘルボーイ。マンホールの前にかがみ込んで粘液を指ですくい「サミー、おもらししてるぜ」。
 地下鉄構内でサミーとの戦いの最中、「ワタシの猫ちゃんが!」との叫び。コントによくあるバナナの皮的なタイミングで置かれているダンボール箱の子猫数匹を抱え、サミーを倒す。
 リズにモーションをかける、エラ無しモルダーという印象の新任FBI捜査官マイヤーズとのデートの後をつけたり、前頭部の闘牛角の切断面を電動ヤスリで手入れしたりと、人間臭さを強調するシーンが、「いいやつだなぁ」と思わせるのだ。
 サミーやグレイ似の半漁人エイブといったモンスターの造形もよく動いて凝ってる。ラスプーチンの手下のクロエネンは、ソウルキャリバーのブリッジするカタール使いを思い出してもらえば、ちょうどいいと思う。見得をよく切るのは、仮面ライダーなんかの日本のヒーロー物の影響があるはずだ。
 というわけで、ラストの山場前までは、おおいに楽しめた。ただ、最終決戦へロシアに向かってからは、消化試合という感じのストーリーになっていく。よく練られた立ち回りが光っていたヘルボーイとサミーの戦いも、リズが一気に焼き尽くしてしまい、大味に。お約束の大ボスも、トドメの刺さされ方が、さっぱりし過ぎ。
 ちょうどいい、たとえを思いついた。ストーリーの盛り上がりの波が、「ROD-the TV-」26話分通した波とほぼいっしょだ。でもまあ、チケット屋で1,290円を払って前売りを手に入れて見るくらいの価値は十分ある。
 あと、シネフロントは設備が新しくてなかなか観やすい。映画館は飯屋なんかと違って、単純にオサレ度が高いほうが居心地も良いと思う。古くても1,000席以上あるようなでかい映画館なら、また別だが。
参考:「HELL BOY」公式サイト