オールド・ボーイ(パク・チャヌク監督)

トンカチとオ・デス

 最初に断っておきたいんだが、カンヌグランプリ受賞とか、その審査委員長だったタランティーノ絶賛とか、あの土屋ガロン(=狩撫麻礼)原作マンガがモチーフとか(どうもオチがダイブン異なるらしい)、そんな諸々が公開初日の今日に見に行かせた理由じゃなかった。
 10月にとうとう休刊してしまったヤングマガジンアッパーズで連載していた黒田硫黄の「映画に毛が3本!」で、ほんとーに珍しくどうやら推薦するようなまとめ方になっていため、だ。いわく「並の映画の3本くらいの中身だし」。それと「あと……エロいな。」でダメ押し。休刊号のちょうど前号、20号に掲載された回であるため、いまその紹介マンガを読める環境の人がどれくらいいるかは難しいと思うが、ぜひオールドボーイを未見予定で黒田ファンの人は、読んでこの映画を見にいって欲しい。
 どうもマンガのことが絡むと脱線しやすい。さて、シネ・リーブル池袋で18:30からの最終を見た。150席前後しかない小さい狭い、細長さが際立つ映画館なので、本当は、主演男優二人のチェ・ミンシク、ユ・ジテが舞台挨拶をする新宿のシネマスクエアとうきゅうまで出たかったのだが、昼過ぎに起きるどころか夕方に起きてしまって、しかも出かける前に風呂屋にまでいってしまったので、しょうがない。
 また脱線しそうだが、この映画がどう自分を満足させたのか、非常に個人的(でどーでもいい)なことのほうが書きやすいので、まず最初にそのことをを書いておくと、タイトルから流れる主要製作陣クレジット、出演者名のハングルを見て、そういえば韓国映画を映画館で見るのは初めてだということにいまさらながら気づいたのだが(初体験がサンデーGX連載の「新暗行○使」にならなくてよかった!)、それがオールドボーイであったことに、感謝をしたいと思った。これで、冬ソナブームへの気後れから、ヘンに韓国映画を除けようとする〝構え〟を捨て去れる。ありがとう、オールドボーイ

 『15年の監禁から解放されたオ・デス(チェ・ミンシク)。ナゼかすし屋の板前のミド(カン・ヘジョン)の部屋に転がりこんだオデスは、なんとか監禁場所をつきとめ、自分が監禁された理由に迫っていく……。』

 非常に大雑把だが、このあたりまでで粗筋を紹介するのは、やめといたほうがいいはずだ。〝カイザーソゼ〟クラスの驚きと、ユージュアルサスペクツにはなかった深い復讐の念が、そこから先のストーリーに張り巡らされることになる。
 監禁から解放にいたるまでの映像、カット割りが、(なんというか非常に陳腐で古い言い回しだが)前衛映画的な匂いをさせていたことも、監禁のナゾが明らかにされていく終盤の鮮やかさ、スピード感と反比例するようで、自分の評価をあげたと思う。
 あぁ、ネタバレなしに印象を書こうとするのは、やはり非常に困難だ。マスコミの紹介などによく出てくるトンカチを持っての約3分間ほどのワンカットの立ち回りなどは、書いても些末に過ぎる。
 そうだ、一つ非常にオタク心を刺激したシーンがあった。
 モーテルで初めて愛を交し合い裸で横たわるオデスとミドの部屋に睡眠ガスが流し込まれ、そこにガスマスクをつけたユ・ジテが演じる事業家らしきナゾの男が入ってくるシーン。その男がイトオシゲに見えもする視線を向けながら、ミドの肩から足にかけて指を這わせるシーン。幾何学模様の壁紙に赤い絨毯の部屋で、ガスマスクの男が裸の二人に寄り添うこのシーンは、自分のオタク教養、経験則からイメージの補完を許さなかった。新しかった。
 そして、何よりの驚きは、雰囲気のみが過剰に演出されているような印象も受けかねないこのシーンが、他のどんなシーンよりも明確な目的があって存在するということだった(ラスト付近のナゾ解きで、それも気づかされることになる)。
 最後に、一番印象に残ったセリフを(ネタバレには、ならないはずだが、一応反転しておく。アンテナで補足している人がいたら、注意を)。


 『重要なのは、なぜ監禁したかではなく、なぜ解放したかだ


 ユ・ジテが演じるナゾの男のこのセリフの重みとウラを、ぜひ劇場で!


 参考:「オールド・ボーイ」公式サイト