性犯罪者=性的倒錯者か

 記識の外(1/8)で、先日、警察庁長官が導入案を打ち出した性犯罪前歴者の公表制度について、興味深い見方。
 おおまかにまとめると、アメリカなどで導入実績がすでにあるミーガン法は、子供を性犯罪者から守る、それだけが狙いではなく、性犯罪者予備軍としての性的倒錯者へ監視を強めると同時に、自分たちの性的嗜好は異常ではない=健全である=社会的に正しいマジョリティである、ということをより強く認識したいため、という。
 よって、

ここで問題なのは、だからこそ同性愛者は善良な一市民として生活を正し生きるべきだ、などと主張することなのではなく、「性的倒錯」や「異常性欲」というカテゴリーの存在そのものに疑問を投げかけることではないだろうか。これは、「古典的」とさえも言えるフーコー的な問題設定でもある。

 と。

 オタク関連の時事について何か書くときに、この日記で何かと引き合いに出している「松文館『蜜室』裁判」で、検察が逮捕の根拠としているわいせつ性の判断が妥当なものなのか、そもそもわいせつってなに? と被告側が疑問を呈しているのに、似た主張だ。さらに一審で弁護側証人に立った憲法学者の奥平康弘氏は、わいせつ罪を規定した刑法175条は「表現の自由」に反するので違憲、とさらに反論の幅を広げている(ここ→http://www.geocities.co.jp/AnimeComic-Tone/9018/shoubun0714-06.htmlの傍聴リポートなど参照)。またkitanoのアレ(1/8)では、ミーガン法が「遡及処罰の禁止」を定めた憲法39条への抵触が疑われることについても紹介されている。

 だから、「同性愛者」は「オタク」と読み替えても通じるように思う(まぁ、オタクにもいろいろあるので、ストレートに「ロリコン」でもいい)。
 なにが性犯罪で、なにが性犯罪ではないのか。おさない少女、少年が対象であるからか。性犯罪と性的倒錯の関係性を原因結果でうんぬんする前に、じゃあ性的倒錯ってなに? と相手の死角からドラゴンフィッシュブロー(木村達也@はじめの一歩)を繰り出すのは一つの手段だと思う。

 特に、自戒も込めてだが、オタクの一部には、思考が「性的倒錯者ですがなにか?」で止まってしまっている人も多い。何かと楽だから。
 でもそれよりは、やはり、「あなたたちの性的嗜好が倒錯していないという論拠はなんですか? そもそも倒錯した性的嗜好、健全な性的嗜好ってなに?」と投げかけてみるべき。体力はいるけど。
 諦観したフリは外からの悪意をはじきもするが、そのようなあきらめも度が過ぎるといつのまにか押しつぶされてたりする。性的倒錯者と自認する立ち位置から論じようとして、卑屈に見られては損だ。

 ただ、そのパンチの繰り出し方を教授するのはオタクであってもいいが、表立って実際に繰り出すのは、オタク陣営を自認する、あるいはオタク陣営側と目されている人でないほうが効果的ではないか、とは思う。「同じ穴のむじな」がわめいている、と思われたりしてはしょうがない。オタク陣営側での足の引っ張り合いだってある。「『蜜室』裁判」でも、一審では漫画家の弁護側証人は立っていない(だから逆に、2月の控訴審で漫画家として初めて証人台に立つ、ちばてつや氏が何を訴えるのかは、非常に注目している)。

 ところで今回の長官発言にたいして、地域住民への犯罪暦の公表、警察による現住所把握に慎重、否定な姿勢を法相は見せているが、もし実際にミーガン法のような法律が施行されたらどうなるだろう。

 その地域の住民、あるいはマスコミ報道や行政広報などによって関心を持った他の地域の人々の意識のなかで、

 「性犯罪者の再犯率は高い」

 という論拠(その前に、この論拠を成り立たせているデータを自分はまだ確認していないが)の、

 「性的倒錯者の犯罪率は高い」

 という論拠への読み替えは、すんなり行なわれていきそうだ。

 そして、そのような意識をもった人々にとって、ロリコンの実際の性的嗜好対象が、実際に被害対象者のいるリアル(売春、ビデオなど)だろうが、空想に閉じこもってた二次元だろうが、危険性はほぼ変わりないという認識をもつように思う。
 イギリスでのようにロリコンがばれるくらいなら自殺したほうがマシだというくらい、社会的生命が脅かされるようになるかもしれない。

 
 それと、このミーガン法の件では、職業ジャーナリストのあり方について参考にしていた大野和基氏が、自身のホームページで子供の安全を守るメーガン法と題して、あまりにも盲目的な賛成意見を提示しているのを読み、ひどくがっかりした。
 特にこのあたり。

性犯罪は母親の愛情をたっぷり受けてまともに育っていれば、起ることはまずないだろう。その点、他の犯罪と違って、非常に根が深く、治らない病気であると思った方がいい。容疑者の人生をみても、普通でないことが多い。

 治すべき「病気」なのか? ロリコンは。これは、不妊の人が子供を生もうとさまざまな努力をしていることを、「不妊治療」と呼んでいることや、にもかかわらず保険制度の枠外にあることなどについての懐疑と、自分のなかで重なる。
 それにミーガン法じゃなくてメーガン法と言うべきだとかこの件については瑣末なことにまでこだわっている。がっかりだ。
 


参考:Yahoo!ニュース - 記事検索 : 性犯罪Google ニュース検索: 性犯罪