犯罪学、刑事法、被害者学、知能情報工学から見たミーガン法の是非

 東京新聞ミーガン法の是非を識者に聞く連載を始めていた。以下、要旨をクリップ。



 どうする性犯罪対策 ミーガン法(1) 藤本哲也中央大教授(犯罪学)
 http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050115/ftu_____kur_____000.shtml

 ・ニュージャージー州は、性犯罪者に15年、警察登録を義務づけ。登録は3段階で住民への情報公開は、ランク3判定時。検察がガイドラインに沿って、被害者年齢、犯罪内容、カウンセリング状況、精神状態、最近の行動などを点数化して判定。
 ・公開された人の家や車が壊されるなどの被害。2重処罰で違憲という憲法論議も。カナの性犯罪者情報登録法は、同国オンタリオ州で2重処罰による違憲判決が出ている。
 ・全米の性犯罪者再犯率は下がったが、クリントン政権以降、経済回復とともに犯罪全般が減り、ミーガン法の効果かどうかは分からない。
 ・ドイツやスイスは施設更生プログラムがある。服役後の処遇や治療施設の入所期限を決めて、治療不可能なら終生施設で過ごす。それに比べて日本は何もしてこなかった。
 ・日本がするべきことは、まず専門家が話し合い性犯罪者データベースを作る。新たな性犯罪者の情報登録法が必要。住民への情報公開は犯罪捜査の際に限るなど情報の扱い方を決める。



どうする性犯罪対策 ミーガン法(2) 加藤直隆国士舘大助教授(刑事法)
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050116/ftu_____kur_____000.shtml

 ・日本は性犯罪者情報を公開すべきでない。むしろ再犯防止を妨げる。
 ・家の中に侵入したり、車に引っ張り込むなど、犯行は“無理やり”行われる例も多い。そうした犯行は、たとえ犯人の顔を知ってても防げない。奈良の女児誘拐殺害事件の犯人が車を使ったように、犯人は別の町や遠くの場所に移動する。
 ・子どもは全国の性犯罪者の顔や名前を覚えきれない。情報公開はむしろ、遠隔地での犯行を促して逮捕を困難にし、かえって犯罪を増やすかもしれない。
 ・これまでの受刑者への矯正指導は不十分。法務省は矯正指導を充実させるべき。社会復帰後もカウンセリングや薬で継続治療が必要。
 ・それには市民主体のNPOをつくって、精神科の医師や行政の専門職員らといっしょに、地域で担っていくのが望ましい。情報公開はその更正の機会を奪い逆効果。
 ・米国では実際に奪われている。公開情報は、引っ越す土地に性犯罪者がいないか、デートの相手は大丈夫かなどをチェックするのに使われている。不動産業者が家を貸さず、雇用主が雇い入れない、家族が“村八分”に巻き込まれ家が焼き討ちに遭う例も。
 ・ウィンスコンシン州の調査では、地域の排斥ストレスが再犯に走らせる、と性犯罪者が答えている。
 ・警察が情報を把握する制度は必要。ただ刑期を終えれば平穏な生活を営む権利がある。プライバシー侵害にあたるので、どのように管理し一般に漏れないようにするか最大限の配慮が求められる。



どうする性犯罪対策ミーガン法(3) 諸澤英道常磐大理事長(被害者学
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050118/ftu_____kur_____000.shtml

 ・性犯罪者の矯正には限界がある。矯正教育に力を入れてきた米国も、90年代に方向転換しミーガン法を導入した。
 ・米国では、情報公開で地域住民が犯罪を身近に感じ、家庭や地域の防犯意識が高まり、防犯活動も活発になって、性犯罪が減っている。
 ・確かに住居や職を得にくい問題などもあるが、同時に、社会復帰にかかわろうとする動きも出ている。悩みを聞く地域ボランティアが性犯罪者にもかかわり始めている。現実と向き合い、地域の一員として対応を考えていくことが大切。
 ・今でも、犯罪者はインターネット上の中傷や電話、手紙による嫌がらせなど、「匿名の悪意者」から攻撃されている。米国のようにネット上の情報公開はいけない。
 ・匿名の悪意者に情報が漏れない策を講じつつ「地域限定」で伝える方法がよい。最もおとなしい、学校や児童館、公園の管理者らに伝えるやり方が望ましい。
 ・明治時代に作られた刑法は財産犯が重く、性犯罪のような罪の刑罰は軽い。一般の認識もどこか甘く、強姦を“いたずら”などとあいまいに表現している。
 


どうする性犯罪対策 ミーガン法 (4) 森井昌克徳島大教授克(知能情報工学
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050119/ftu_____kur_____001.shtml

・再犯防止効果も疑わしいが、情報漏れの危険が大きいので、ネット公開はもちろん、対象を限定しても、情報を公開すべきでない。日本人の情報に対する管理能力と危機管理意識は低い。情報漏れを防ぐのは不可能。
 ・再犯防止目的なら、関係者全員が知っていないと役立たないので、漏れる危険は極めて高い。
 ・米国では、学校などに出した情報を過激な団体が入手し、公開した例を聞いたことがある。ただし米国は契約社会で、訴訟社会。情報公開・秘匿に関しては日本人よりかなりシビア。
 ・日本で情報公開するなら、法で運用を細かく規定して、特例なしの厳しい罰則を設ける必要がある。それが、最小限の情報漏えい防止策。
 ・一方で、運用規定を絶対順守し、安全対策を徹底させれば管理は可能。警察は犯罪捜査利用に限り、凶悪事件や性犯罪の情報を半永久的に残すべき。刑期と同時に一定の監視期間を定めてもいい。



 最低ラインとして、警察による性犯罪者情報管理は4人とも肯定するよう。その警察の情報管理体制をどこまで詰められるかが肝か。