ほりえもんのこと

 ライブドアほりえもんの人柄についてよく見かけることに、みもふたもない、やることにストーリーがつけられない、などがある。ほりえもん自身もそう自認している。
 ただ単に誰もやってない新しい分野に手を付けたほうが利益を出す可能性が高くなると思っているから世間を騒がせることばかりやってるように見える。
 で、そういうふうに見えることを、いさぎいいとか自分に正直とか、肯定的な見方をする人もいれば、駆け引き上そういったフェイク仕掛けてるんだ、という見方をする人もいる。

 先日のニッポン放送株の公開買い付けに動いているという報道。ガ島通信(http://blog.livedoor.jp/zentoku2246/archives/13886443.html)氏は、

産経新聞が狙いだとすれば、堀江社長がほしいのは紙媒体という側面でなく取材網と取材ノウハウでしょう。産経新聞ならすでに記者クラブにも加盟済み、PJ(パブリックジャーナリスト)には取材不可能な、首相官邸、官庁や政権首脳の一次情報が取得できます。この国の一次情報は大手新聞とメディアに独占されていますので、このメリットはとても大きい。記者クラブ加盟を新たに申請すると話題にはなるでしょうが、取材態勢構築には時間がかかります。ラジオと報道機関(新聞)をもらうかわりにテレビから手を引く、という交渉もあるのかもしれません。テレビなんてニュースだけに絞り込むならストリーミング放送も可能ですし、取材力は新聞が上。バラエティ部門が必要ないと思うなら、テレビにメリットは少ないのかもしれません。

 大手マスコミというネームバリューではなくて、政治や経済の中心により近づいて自分の事業に有用な情報をとってくるため、買収を仕掛けているという見方がある。ほりえもんが表向き言う、より利益の出せる新しい事業のためというプランを、裏読みする。

 一方で、江川紹子氏が昨年末、今回の買収騒動前に行ったほりえもんへのインタビューでは、既存の大手メディアを積極的に「殺し」にかかるつもり、という趣旨のことをほりえもんは言っている。買収した既存マスコミを現状に近い状態で活用することは、考えていないようだ。


 「新聞・テレビを殺します」 〜ライブドアのメディア戦略 
 http://www.egawashoko.com/menu4/contents/02_1_data_40.html


 特に以下の部分では、バイアスのかかってない、ナマにより近い、しかし現在は大手マスコミや記者クラブによって寡占されて手が出ない、より政治の中枢に近い、そんな一次情報にはさほど関心のないようなコメントをしている。

――ラジオに関しては?
 ……やってますよ。

――新聞はまだ?
 何が起るか分からない。
 韓国のオーマイニュースなんかは政治ネタが多いけど、日本は政治はダメですよ。経済が一番売れる。政治にはあまり興味がないみたい。それはそれで、いいんじゃないですか。

――役所など、記者クラブに入らないと取材がしにくいところもあるが。
 ゲリラ的にやっていく。どうせ入れてくれませんから。そこで(入るための)努力をしようとは思わない。入れてくれれば入りますけどね。でも、任意団体にはあまり入りたくないんですよ。ここに入らないと免許をくれないという所には入りますが。

――放送免許に関しては、動き出しているのか。
 それは言えません。

 ほりえもんがみもふたもない、ストーリーがないということを自認するのなら、表向きウソはついてないということでなければならない。
 メディア進出の可能性について「言えません」と答えていることに、江川氏は「堀江氏は率直で、つまらないウソをつかない人のようだ。」と感想をもっている。




 で、ほりえもんが本心で話しているという前提で江川氏のインタビューを読むと、ほりえもんが大手メディアを所有した場合のその扱いについて、示唆させる個所がいくつかある。

――市民記者の位置づけは?
 まあ、普通に記事集めて書くだけですね

――せっかく新しいメディアを作るのだから、今までにないものをと思わない?
 思わないですね

――今までにないものを作るからこそ意味があるのでは?
 ベルに意味なんてかくてもいいんですよ(笑)。意味なんてどうでもいいんですよ。我々の目的は、意味あることじゃないんですよ。新しいものを作ること、意味のあることが重要なんじゃない、我々にとっては。

――市民記者を募集するのは、新しいやり方では?
 それも単なるコスト削減策なんですけどね(笑)。

――今までにない内容の報道をやりたいというのもない?
 ないですね(笑)。いいんでよ、別に。内容が(今までのメディアと)違うかどうかは。それが目的じゃない。内容も、もしかして違ったモノになるかもしれない。ですがそれはどっちでもいい。

――堀江さんの日記には、「メディアのあり方が変わる」と書いていたが、そういう意図はないのか。
 そうやって煽った方が、みんな期待感を生むじゃないですか。僕はどっちでも……

――今のメディアではあまり報道されていないことも、インターネットを通じて伝えてういこうというのだと思っていたが。
 それは副産物的にそうなるかもしれないですけど、それはどうでもいい。僕にとってはどうでもいい。

――メディアを持つということは、情報を通じて人の考え方を左右する可能性がある。
 そうですね。

――そういうことに関心は?
 全然ないですね。
 今の記者の人は、大マスコミ的な意識っていうか、悪く言うと思い上がって、自意識過剰なところがありますね。
 うちに来る人も、大層なことを考えていて、「堀江さんはどう考えているんですか」「ライブドアにとって悪いことも記事にしますよ」と言うんですけど、そんなの勝手にやってよ。わざわざ報道しなくても、2ちゃんねるとかでうちに悪いことは書かれているわけで、見りゃ分かるわけですから。そこにはウソもホントも書かれていて、(ユーザーは)それを自己責任で判断すると。それを新聞に書かれたから本当なのかっていうと、別に本当ではないかもしれない。ある意味、歪曲して、脚色して記事にしているわけだから。

――出すからには、こういうモノを出していきたいというのはないのか。
 そういうのは、おせっかいですよ。読者は別にそんなもの求めていない。そんなもの押しつけたくもないし。

――編集方針とかはどうするのか。
 そんなもん、何もないですよ。

――何もないと……
 そう思うのが既成概念。ありのままを出せばいいんじゃないですか。

――ありのままを出すというのも方針ですよ。
 方針って言われると、ちょっとアレですけど……

――ありのまま出すといっても、客観報道だって主観が入る。
 うん

――じゃあ、ライブドアの報道は、どういう主観が入るんですか?
 それぞれじゃないですか。だって市民記者が書くんだから。

――でも、デスクがチェックをするでしょう?
 チェックするといってもそれはウソを書いてないかとか、そういうレベルのチェックですから。ウソを書かないというのが重要で、確かめたのかとか、裏を取ったのか、とか。あとは、?てにおは?を直すとか。そういうレベルの話ですから。

――事実が確認されれば、あとはどんな話も載せる、と?
 紙面が許す限りですけどね。あとは人気ランキングだけですよ。

――人気?
 インターネット(のニュースに)アクセスするじゃないですか。そこで何が注目されているか、と。だいたいの記事は、先にネットに出ちゃうわけですよ。注目度が高い記事はアクセス数が多くなる。それを紙にする時に、見出しを大きくする。紙は一日一回くらいしか出せませんからね。

 大手メディアを取り込んで利用して殺すというほりえもんは、政治を深く知ってその内部にまでかかわり、あるいはマスコミを使って世論を誘導していくといったことなどに興味はなくて、自社メディアの論調さえ、市場原理に任せるという。
 集客力のあるネタであれば、それは新聞や週刊誌が扱う政治や経済でなくても、まったくかまわない、というスタンスは、ゴシップ系のスポーツ紙や実話系の雑誌と通ずるものはあるが、購読者から自社の利益をあげていく方法と、編集方針の有無という点は大きく異なる。

 ガ島通信氏は「ライブドアがほしいのは取材装置が生み出す「ニュース」です(多分)。」と推測しているが、ニュースが欲しいのは確かにそうなんだろうが、江川氏のインタビューの通りの考えをもっているとすれば、あくまで集客ネタとしてのニュースであることになる。
 もちろん、大手メディアが買収されたすえに、“社説”を取り上げられることに素直にうなずくはずもないわけで、それに、たかがのれんが欲しいというだけで、800億も900億もカネを出すという感覚はあまりわからないし、ほりえもんの唯一の信条なんだろう経済合理性の点からいってもよく理解できない。



 ……ほんとうは、ニュースの価値をその時、その瞬間の関心度=集客度を第一に測るマスコミなんて方法は、ただ単に消費されていくだけで問題提起をともなわない雑文をたれながしていくだけになるんじゃないのか、とか、でもほりえもんの考えるマスコミが今後主流になると有力視されているわけでもないし一つの流れとして見れば確かに興味深いような、とか、そういったことをうまく書きたかったのだけれど。
 
 みもふたもないという前提をもつことで、こちらの深読みを帳消しにしかねないフェイクスターのたくらみに近づくには、ちょっとまだ読み込みの努力が必要だわ。