エロマンガ市場雑感 〜 『創』特集から
昨日発売の「創」6月号は「マンガ界の変貌」のタイトルで、「NANA」、ハガレン、国内・海外のアニメ化事情、コミケ、マンガ表現規制について特集。
http://www.tsukuru.co.jp/gekkan/saisin.html
企画の大筋は、「版権収入というのはその売り上げが、真水というんですかね、ほとんどが純益になることですね。」(講談社ライツ事業局入江祥雄局次長兼ライツ企画部長、セーラームーン時代の「なかよし」編集長)というセリフに表されるようなアニメ化や海外市場を見据えた版権ビジネスの担当部署の増強が急ピッチで進められているその方向性を、渋谷を基点としたNANAブームやハガレンのメディアミックスの成功、リニューアルしたドラえもん、松竹、WOWOW、アニプレックスなどから観ていくもので、そこだけをざっと読むと、なかなか景気の良い業界だな、と勘違いさせる(といっても、ほとんどのコメントがプロデューサーランク以上のものだから。過密スケジュールに追われるアニメの制作現場の事情などにはあえて<?>触れていない)。
メディアミックスの素を供給する国内のマンガ市場は、じょじょにじょじょに、先細っていく環境にあることについても触れている。
22ページにある、今年3月まで1年間の講談社・小学館・集英社の初版部数ランキングは、わかりやすい。
1位は「ONE PIECE(33)」の243万部。講談社は「バガボンド(20)」の146万部、小学館は「名探偵コナン(44)」の123万部。
集英社で5位の「DEATH NOTE(5)」の119万部は、マンガ読みにとってはさもありなんかもしれないが、他の集英社ランキング作品がほとんどアニメ化やメディアミックス展開後の数字であることを考慮すると、マンガ単体でこの数字は、やはり化け物だろう。6位までの集英社のマンガが、小学館と講談社の同率マンガにほぼ倍の初版を刷ってるのも目に付く。
一方で、ここ10年ほどの市場全体のコミックス発行部数は“見かけ”横ばい。見かけというのは、本文中に出ている出版科学研究所の調査によると、コンビニ売りのペーパーバック型廉価版が金額で10.2%を占めているから(この廉価版による底上げは、「零式」のコラムで 中山明弘氏が5年ほど前に指摘していたこと)。統計があるのかどうかわからないが、コミック文庫売上を含めると、もっとこういったリサイクル型のマンガ単行本は多くなるだろう。*1
エロマンガについても。
長岡義幸というライターの人が担当している企画「表現規制との永遠の攻防 エロマンガに再びの冬」によると、ペンギンクラブ、快楽天は10万部前後、平閉じ・マンガ専門店・一般書店系ルートのコミックメガストア、MUZINが6〜7万部、天魔が4〜5万部、他誌が3万部以下とのこと。
都条例規制強化以外の売れ行きを左右している要因で、『蜜室』摘発以前以後の局部の消しをあげている。コンビニルートに乗せるためベタ塗りの消しをしてる快楽天のような雑誌がある一方で、ほとんど消しがないエロマンガ誌もある理由を、写実的な絵(?)の『蜜室』が摘発されたので、
「簡素化された絵だったり、アニメ的だったりすれば、わいせつに至らないと、その編集部は判断しているのではないでしょうか」
とマンガ編集者のコメントでとっている。実際手元にある「LO」(茜新社)最新号の消しは、クリの部分だけをバーで薄消しがほとんど。消しの頻度で言えば、おそらく男のカリ首のほうが多く入れられてる。
Ash横島目当てでバックナンバーを買ってあったコミックメガストア2002年6月号を見直す(2002年10月の『蜜室』摘発以前という理由で)、……けれどももともとコアマガジンの消しは薄いので比較の意味なし。コンビニを販路でもつことと消しの濃淡は、ある程度関係したりするだろうけど、単行本化時に消しが薄くなるケースもあるし。
あと、売れ行き不振の要因に、規制強化やネットのほかに、読者層の変化をあげた編集者のコメントが興味深い。10年ほど前(個人的なことで言うと自分も一番面白くエロマンガを読んでいたような気がする頃)にエロマンガがよく売れていたのは、90〜92年の有害コミック規制運動で飢餓状態にあった、自分らのような当時19〜20歳前後の団塊ジュニアが、飛びついたから、というもの。エロゲ雑誌も、92年に18禁シールシステムができて、92〜93年頃に乱立していた。
ネットとの競合について、
「一般マンガの場合は、作家の魅力とストーリーで読者が定着する。しかし、エロマンガは、ある意味、マスターベーション用。射精すれば終わりです。ネットには無修正の写真も動画もあり、そっちに向かうのは当然です。」
という業界紙記者のコメントがあるが、こちらは素直に頷けない。有害コミック運動の頃も、エロビデオならあったし、いわゆる実写の児童ポルノは無規制だった。ネットには無料という大きなアドバンテージはあるけれども、こちらは一般マンガ含むマスコミ媒体全部が太刀打ちしにくい課題。過激なエロを求めて、という嗜好にエロマンガが役目を果たせなくなっているというより、エロに飢えた小中高生の最初のエロとの出会いをネットのエロに明け渡すかたちになってることが、将来の読者を食われる=エロマンガ業界を先細りさせていくように思う。
スキャンされてファイル共有ソフトで出回る被害、についてもマンガ編集者の言及がアリ。こちらは、このブログで一時期アホのようにあったGoogle 検索: 花粉少女注意報のリファラが、スキャンされてどこかの画像掲示板に張られたページを探してのものだったらしいことを考えると、発売後1週間も経ってないコンビニでまだ買える雑誌でさえ、ネット上に一度アップされてしまうとタダでないと見ない(検索して探す時間がそれこそ無駄だと思うが……)という感覚が一般化してきているなら、エロマンガだけでなく雑誌や新聞全体で考えていかなくてはならない話として、頷ける。
*1:コミック文庫は、文庫売上に計上されてるのだろうか?