今日の言葉

エピジェネティック・リプログラミング。
細胞の遺伝子の発現調節を変化させ、初期化、再プログラムする。
卵子精子が出会う受精時に行われる。
それをクローンに応用する場合の影響。
昨年12月に行われた「科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会 特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会 人クローン胚研究利用作業部会(第1回)」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu1/gijiroku/006/05060701.htm)での石野史敏氏の説明が最近のものとして分かりやすいか。

【石野委員】
結論です。要するに、クローン動物というものをもう1回遺伝子発現から見てみますと、同一の遺伝的な背景を持ちながら個体ごとに違った遺伝子発現パターンを示す。すなわちエピジェネティックな意味では不均一なのです。非常に多様性(ダイバーシティー)があって、しかも、それは正常な我々が発生で示す以上の多様性を示しています。ただし、この体細胞クローンマウスが有性生殖を経て生まれた子どもにはこういった異常は、表現型的には無くなっているように見えます。ですから、生殖細胞系列でのエピジェネティック・リプログラミング、こういうことがきちんとわかれば、体細胞クローンを正常に戻すことができるのではないかという先ほどの小倉先生と同じように感じています。
私のイメージを図にしました。普通、有性生殖によって個体が発生する場合には、生殖細胞によってコントロールされる、非常に強力に正常にいくようにエピジェネティックなコントロールがかかっていると思います。ただし、クローンの場合には、リプログラミングがあっちこっちに向いていて、そのうちの2〜3パーセントが正しい方向を向いていてようやく生まれてくる。そして、この2〜3パーセント生まれた個体でも、今お見せしたぐらいの数の異常がある。こうするとおそらく、他の個体はもっと異常があって死んだのだろうと思います。
若山先生も言っておられるように、クローンが生まれる率は2〜3パーセントです。しかし、クローンからESを作れる率は20パーセントぐらい、約10倍なんですね。そうすると、本来は死ぬべきはずの、個体にはならなかったはずのものからもES細胞は作れるというような状況にあるのだと思います。ですから、今、私たちが考えているのは、この有性生殖で起きているエピジェネティックなリプログラミングの過程をもう少しクローンの発生に導入したいということです。幸いなことに特定研究で、細胞系列を扱うものが動いていて、かなりの研究が進んでいます。ですからそういうところでエピジェネティックのリプログラミングであるとか、そういうような知識をもうちょっと盛り込んで、クローンの発生をもう少し正常なほうに向けるような、そういうような基礎的な研究というものがなされれば、僕はこの技術は無駄にはならないと思います。しかし、現時点ではこの技術はかなりこういった危険をはらんでいるということです。

ほかに、第29回生命倫理専門調査会ヒアリング資料(http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/life/haihu29/siryo5.pdf)。

昨年6月に人間のクローン胚作成研究は名目上厳しい取り扱い条件、規則のもとで解禁されたが、エピジェネティック・リプログラミングの影響を考慮した作成がされるにはまだまだ研究は進んでいない。マウスでの研究さえも。