今日の読書――やおい脳で「国家の罠」を読む

 第三章序盤、独房生活の始まりとその先に待つ過酷な取調べの寸前まで読み終わる。落ち着いた語り口が、真実味を増すことに成功している。いくつかの個所では抑制が効きすぎてるのではないか、と思うくらい。しかし、それが歯切れの悪さにはなっていない。検察と官邸のストーリーに嵌められることになった渦中の人物による、一級品のノンフィクションであることは間違いない。そして、外務省という組織に渦巻く黒い策謀。そのうねりの源の確かな一つとしてある、男たちの嫉妬。社会の、いやそれを超える世界のトップに位置する中年たちによるやおいストーリー。

前にも述べたが、ロシアの酒飲み政治家は酒を飲まない者を信用しない。酒を飲んだときと素面のときの発言や態度の変化をよく観察して人物を見極めるのである。 エリツィン氏の場合、酔いが回ると、サウナの中では白樺の枝で友だちの背中を叩いたり、また、男同士で口元にキスしたりする。三回キスをするのがしきたりだが、三回目には舌を軽く相手の口の中に入れるのが親愛の情の示し方である。もう少しレベルの高い親愛の情の示し方もあるのだが、それは日本の文化とかなりかけ離れているのでここでは書かないでおこう。

 川奈会談では剣道5段の肉体派、橋龍とのサウナ会談が話題になったのを覚えておられるだろうか? ああ、きっと!

 しかもなんと、船橋洋一でさえ妄想を抑えきれないでいるのだ。

ロシアではサウナに一緒に入って、頭を空っぽにし、心も体もほぐしているとき、葉っぱのついた小さな枝で相手の体をコンコンとたたいてやるのが友情の印なのだそうだ。しかし、気まぐれエリツィンのこと、手元でも狂って、とんでもないところを打たなければいいが……。

 この妄想に続けては「佐藤孝行問題以降、頭が割れるように痛い国内の政治、行革、景気を忘れるには、サウナで頭を空っぽにするのに限ります。」と、橋龍へアドバイス。もう、船橋の頭の中でどのような攻×受の組み合わせができあがっているのか一目瞭然だろう。

 ポマード橋龍からコール首相まで、各国の政府トップの役職をサウナに誘って篭絡する、閣僚キラーエリツィン


 また、明晰な頭脳をもつ検察キャリアの中にも、その脳細胞を腐女子色に染められてしまっていた男が。

佐藤 取り調べのなかでおもしろかったのは、私と鈴木宗男氏のホモ説です。どうも佐藤は人事で特段優遇されたわけでもないし、金目当てでもない。肉体関係があるんじゃないかと。これは外務省の人間が言ったらしい。僕を取り調べた西村尚芳検事は「空(から)あて」のことは絶対言わないんです。「実は1993年にモスクワの選挙監視団に行ったときに、鈴木さんの部屋に佐藤が泊まってエクストラベッドを入れたという話があるんだけど、何か変な関係はないか」。そういうことを聞かれました。私は、「そういう関係があるんだったらどうしてエクストラベッドなんか入れるんだ、理屈が通らないじゃないか」と反論しました。そのときは徹夜で開票放送をしていたので鈴木さんの横で翻訳しながら伝えていた。私が仮眠を取れるようにと鈴木さんがエクストラベッドを入れただけの話なんです。そうやって話がつくられてゆくんだなあ、と思いました。

 いや、前言撤回しよう。西村検事の追求はまだまだ半端だ。そういう関係があるなら、逆にエクストラベッドなんか入れない? 理屈が通らないように見せるアリバイづくりに決まってるじゃないか! 始めから同衾するんじゃなく、相手のフィールドをじわりじわりと犯しながら背徳の喜びに互いの心を奮わせる、自作自演のシチュエーション設定なんだよ!