死者に鞭打ちたいのではないが、書き足りないことがある。


 昨日(http://d.hatena.ne.jp/bullet/20051101#p1)で書き足りなかった、個人的な見方。


 休刊が決まった無料月刊WEBコミック誌の「コミックシード!」。


 http://comicseed.com/index.html


 休刊ということで、絶版になる単行本の話や作家・作品の引継ぎの心配などについて書かれているのをいくらも見ることになった。が、「コミックシード!」というWEBコミック、雑誌本体についての今後の動きについて「どうなるんだろう?」と書かれていたりするのを、とんと見ない。


 で、さ。正直、「コミックシード!」って読んでた?


 自分は半年ほど前に登録して、そのとき配信していた最新号は読んだが、次号から読んでなかった。毎月どれくらいの閲覧数があったのか、具体的な数字は見つからなかったが、メルマガの登録状況(http://www.melma.com/backnumber_115275/)は今日時点で3,044。万単位くらいはあると勝手に思っていたので、拍子抜けした。メルマガ登録してない人もいるだろうし、これ以上の閲覧者がいてもおかしくないが、それでも、誰でも無料で何時でもネット端末があれば読める、おそらく日本で初めての本格的なWEBコミックの人気は、それくらいだったらしい。


 次号から読まなくなったのは、PCの性能や回線速度によってはページめくり後の表示まで数秒かかったり、モニターのインチが低いと小さい画像でしか読めなかったり、最終出力の部分でうまく読めないパターンなどがあったと思う。
 ㈱サピエンスが開発・提供していた閲覧ソフトの「Comic Reader」は、自動閲覧システムや倍率調整、目次指定などの機能は存外、整っていて、まぁこんなもんかな、という感じ。ただ、本誌の体裁に関して、表紙や裏表紙、背表紙を入れたり、目次ページを入れたり、紙媒体に近い体裁を整えようとしていたのが、個人的には、紐やホチキスを外してバラにした雑誌の残骸を読まされているような感覚が強かった。


 そーいった閲覧の快適さうんぬんの問題を指摘するのとは別のところ、紙媒体に慣れ親しんだマンガ読みにとっては、WEB上でも閲覧のカタチにおいて、雑誌という形態に割とこだわってるように見える一方で、なんというかコミック誌の“臭い”のようなものが伝わってこないことも、継続して読もうとしなかった理由の一つだったと思う。
 はっきりした存在が感じられなかった、と言ってもいい。


 だから、「コミックシード!」が無くなってしまうかもしれないことよりも、自分の好きな作家を他誌や紙媒体誌がどれだけ救いあげてくれるか、そちらの話ばかりが目についたのも、またそれはそれで、当然なのだろうなと思う。


 これまでにネット上などで知りえた情報の範囲では、復刊の可能性は未知数だが、復刊になるのかどうか、そういったことを心配する声は早晩、落ち着いていって、「コミックシード!」というのもあったね、そういえば、というふうに忘れられるのは早いような気がする。このあたりは雑誌主義者としての主観がかなり入っているが。


 単行本売上とバナー収入で利益を出してた「コミックシード!」事業は黒字部門だったことを、黒字だったのにねえ……、といぶかるのは自然だと思うが、黒字が絶対の目標なのか? というそんなの当たり前だろとすぐ返ってくるだろうもやもやした思いが残る。いや、赤字がでちゃ確かにこういった話にもならないんだけれどさ。

平田  現在、マンガ雑誌というのは出せば出すほど赤字になるといわれています。有名な大手月刊誌ですら、月に5000万円の赤字と聞いています。その赤字を埋めるのは単行本の売上げです。コミックシードが少し違うのは、「どうせ赤字になるのなら始めから無料にしてしまおう」という考え方でやっているということです。コストも紙よりはかからないですからね。それに、無料配信のほうが「攻めてる」という姿勢のような気がするんですよね。はっきり言うと、コミックシードは立ち読みのメディアだと思っています。立ち読みで自分の好きな漫画を見つけ出して単行本を買ってもらえればと思っています。

 画期的な「コミックシード!」というマンガ発信媒体を立ち上げるにあたって、できるだけわかり易くその意義とメリットを強調する必要があるにしても、平田編集長はこの中で、コスト面を強調し過ぎているように読める。「コミックシード!」が紙媒体の雑誌に代わりえるための、積極的な意義を話してない。「『攻めてる』という姿勢のような気がする」って、なんだかあやふやだ。
 そして「立ち読みでいい」発言。「単行本を買ってもらえれば」。そーいう利益システムを初めから意図し立ち上げているのだから、そのような発言が出てきて当然なのだが、どうも「コミックシード!」という媒体に対する媒体としての意義を感じられないし、実際、惹きつけられるものがなかった。


 たとえば、シード作家のかずみ義幸氏は、連載作品の「あけおめ!」を中断させてまで他社連載の「勤務中異状なし」の単行本化を急かされていたらしい。破産のデッドラインに絡んだカネの問題があったにしても、単行本が先にあり気で「コミックシード!」という媒体を疎かにしているように感じられる。


 また「コミックシード!」の売却の打診について、調整が難航していたらしいことも、「コミックシード!」という舞台装置に同業他社やネット関連企業が、それほど価値を見出さなかったのではないか? という気がする。
 「コミックシード!」のような仕掛けを欲しい会社は、WEBスピカのようにもう、自前でやってるだろうし。


 負債の何割かをおっつけて売却を打診してたりしたのかもしれないが、平田社長に誠実さがあるなら、作家や社員編集者のことを第一に考えて、その2者ができる限り良い環境でその後の作業に取り組めるような条件を提示していたはずだろう。


 たとえば、打診に対して難色を示し、目の端でちらちらと様子をうかがいながら、いざ破産、休刊した途端、残ったある程度の有望株の作家らに、それっと他誌の編集が引き抜きにかかった、なんて悪趣味な仮説も思いいたりしたのだが、やっぱり「コミックシード!」ごとどうにかしてあげよう、という発想がどうにも沸いてこない。


 作品や作家を売り出してあわよくばメディアミックス、というところに重きを置いたシステムが、いざこういう事態に陥ってみると、「コミックシード!」という媒体の力の脆弱さが露わになってるように思える。



 今後も打診を続けるとするばら、そのあたりの紙媒体との違いを軽く考えてそうな、コンテンツ総量の充実を優先させたがるネット企業なんかへ売却を打診したほうが有望視できそう。だから「コミックシード!」の運営・配信を担当していたファミマ・ドット・コムは良い選択肢になってくると思うのだが。

 ただ、3,000人ちょっとのメルマガ登録しかないようなコンテンツに使い道はない? という判断をされるとちょっとつらいかもしれないが。
 それと、2年前の閲覧システム改装に際して、

ファミマ・ドット・コムは今回の件について、「自社の展開するコミック関係のサービスはMacユーザーからの支持が高い。今回の新システム採用によって、ダウンロードやインストールといった手間を省き、誰でもカンタンにオンラインマガジンが閲覧可能になる事に加え、Macユーザー層の獲得が期待できる」とコメント。具体的な数字は発表されていないが、今後もコミコイン利用者およびCOMIC SEED!購読者の更なる拡大を目指すとしている。

などという、いるのかいないのかよく分からないMACユーザーのネットマンガファン層(暴言)などを持ち出してその意義を訴えたり、獲得読者数の具体的目標もあげられずにいるような、いい加減な取り組み方を見ると、どうだなかなぁ、という気もする。





 ……以上の前フリから、来月創刊一周年を迎えるヤングガンガンの現状における存在感や雑誌のカラーなどの話へもっていこうと考えていたのだが、長々書いて疲れたので、明日。