「RED ⑲」(村枝賢一) ヤンマガKC

あなたもブルー小隊なら 後悔して死んでください あなたの次の世代の人たちが後悔してくれても 意味がないから

 連載時にヤンマガで読んで*1愕然としたスカーレットのセリフ。単行本でも重さは変わらず。
 自分を守って銃弾の雨あられを受け、今まさに事切れようとしている元ブルー小隊のゴールドスミスに、ブルーがウィシャ虐殺に走った本当の理由を告げ、ブルー小隊を脱退した後のゴールドスミスの行動は間違った理解に基づいていたのか? と愕然とさせたところに、駄目押しで決めたセリフである。


 一見、矛盾はある。当事者でない次の世代の人間は、自分の祖先たちの罪を贖罪することはできるが、後悔はしにくいだろうから。
 だから、このスカーレットのセリフは、「次の世代の人たちが(また同じようなこと=ジェノサイドをして)後悔してくれても (過去の罪を教訓にできなかったのなら)意味がないから」と、読んだほうが繋がると言えば繋がる。


 けれどこのシーンは、そんな先のことをスカーレットが考えながら発したセリフではないのだろう。ゴールドスミスと合流する直前、親代わりのグレイを自ら看取り*2、そのショックで初潮の血を流し、冷たい目から涙を流しながら告げるセリフである。
 このとき、自らの決意=責任でレッドのもとに向かおうとする決意をしたスカーレットは、そこで大人になったことになる。今までのように、気持ちを押し殺して優しげな顔を振りまくことに努めるかどうかは、周囲の反応よりも何よりも、自分で決める。だから、自分の一族をレッドのみ残して虐殺した部隊の生き残りであるゴールドスミスに向けて、物語を通して初めて、はっきりと憎しみを表したこのセリフもまた、その決意の一つなのである。




 そして、もう何度目になるか分からない「叛アメリカ史―隔離区からの風の証言 (ちくま文庫)」(豊浦志朗)の「硝煙のパイン・リッジリザベーションから」を読みふける。
 偉大なるマンネリズム期に入っていった90年代中盤以降の豊浦=船戸は、もう自分の関心を離れてしまったが、この頃の船戸=豊浦は、RED⑲の72Pで軍人の本音としてゴールドスミスが洩らした、もしかしてレッドとスカーレットの子孫が歌うだろう赤い憎しみの歌を、確かに追って奏でることを再現しようと努めているからである。


Red 19 (アッパーズKC)

Red 19 (アッパーズKC)

*1:しかし、とにもかくにも、このシーンをアッパーズで読めなかったつらさよ。

*2:この巻に収録されてる143話冒頭、看取った瞬間の顔は村枝マンガでは珍しい女の“絶叫顔”である。