ソウル大調査委、ES細胞論文はデータ虚偽と断定(朝日)

 http://www.asahi.com/national/update/1223/TKY200512230164.html

実際にES細胞が存在していたかについては現在、同委が専門機関に依頼してDNA検査を実施しており、数日後に判明する見込みだ。
同委によると、黄教授らの研究チームは患者の体細胞を使ったヒトクローン胚から11株のES細胞を作ったとしていたが、米科学誌サイエンスに論文を提出した3月15日時点では2株しかなかったという。残り9株についてのデータは、この2株のデータを使って作ったでっちあげだったことが判明した。
同委は、黄教授が世界で初めてヒトクローン胚からES細胞作製に成功したと発表した04年論文や世界初のクローン犬誕生についても検証する方針を表明した。

 その他の記事はこちらなどで。

  • Yahoo!ニュース - 幹細胞研究

 http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/science/human_stem_cell_research/?1135311201



 途中で一抜けしたアメリカの学者がいた。カネを支払って卵子を入手していたことや、女性の研究者が卵子を提供していたことを倫理的な理由にして。彼が一抜けした理由がどうにも解せない部分があったんだが、この捏造報道をずっと読んでいて、なんとなく繋がるような気がした。倫理的な問題をホントに直前まで知らなかったのか? そもそもずっといっしょに研究していてこの捏造疑惑についてなんの予兆も感じなかったのか? 海の向こうに去ったその科学者は、この捏造疑惑の中で当事者として扱われていない。あるいは、その科学者が去ってからほどなくした12月に入って、捏造疑惑が明るみに出ることにゴーサインが出た? 米との関係を悪化させたくない韓国側の意向もあったのかもしれないが。


 アメリカの科学者が当事者であることを嫌って去った11月当時、韓国のES細胞に関する報道は倫理問題を問う論調が多かった。当然だろう。それが今は、捏造問題一色。捏造が最大の罰を与えるべき問題か? ES細胞研究者や医療関係者、医療メーカーにとってはそうだろうが、圧倒的多数の一般の人間からすれば倫理的側面がもっと議論されてもいい。そちらのほうが、よほど自分たちの生活、教育に関係が深い。科学面や経済面でばかり申し訳程度に触れられていた倫理問題を、社会面ゴシップ面で扱うチャンスと言い換えてもいい。


 捏造したとされる韓国の科学者がやっていた研究は、ES細胞になりえるその卵子クローンを子宮で着床させれば原理的にクローン人間をつくれてしまう研究であり、卵子を材料とすること*1、成人女性に人為的にクスリなどを使って体の負担をかけて排卵させて手に入れられたらしいこと、その際に金銭のやりとりがあったこと、もろもろ山積み。それが捏造報道でかき消された。科学者の虚栄心と国家の威信をおもしろおかしく批判するほうがそりゃ楽しかろう。捏造事件の事後処理・真相究明ばかりに話がいって、それが何をないがしろにした上でなされたのかを伝えようとする明らかにしようとする動きが、並行しては出てきていない。


 ES細胞研究が今後何十年も遅滞するという問題が一番ではない。そもそもいくつもの倫理的技術的な問題をおざなりにしたまま、韓国以外の国でも日本でだってそのように進められている分野の研究なんだから。韓国の問題はそれを見直すいい機会だった。11月までは。12月は生命倫理の問題は埋没した。1月は分からない。どうなるだろう。


  • 提供卵子は計1200個 成功率データ偽造の可能性(協同)

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051221-00000001-kyodo-int
 数合わせを指摘するだけの記事に文面以上の意味がどこにある? 母数が一桁違うということは、成功率のケタが一つ下がるということだ。技術面のリスクが飛躍的にあがるということだ。そんなまともでないレベルの技術しかまだ達成できてないということだ。1,200個の卵子を提供させるのに、どれだけまともなインフォームドコンセントをとっていたかという疑惑が浮上する数字だ。


 http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20051223/mng_____tokuho__000.shtml
 定評のある特報面で、こんなゴシップネタ扱いをされるとは思わなかった。東京新聞は社会系はともかく、科学系は本当に弱い。

*1:今度の研究は受精卵でなく卵子ES細胞の作成に成功したことが画期的ということだがどうしたって卵子が必要になる。それに同じ科学者の研究で評価されてる難病患者の皮膚細胞からES細胞をつくるのには卵子は必要ないが、その過程で卵子を使ったES細胞のデータは有効に使われたろうし、さらにそのデータを取るには受精卵を使ったES細胞のデータが不可欠だったはず。