るにん(監督:奥田瑛二)


初めに一つアドバイス。公式サイトのストーリー紹介(http://www.runin.jp/story.html)。先まで書きすぎ。上映の尺で言ったら9割5部までばらしちゃってる。で、ここから先の感想もいつものようにバレバレで行くので、たまには断っておこうという前振りも兼ねて。





新宿シネマスクエアとうきゅうで19:00の回。ちょうど上映中盤あたりに例の揺れ揺れが。かなり長く揺れたはずだが、非常口のランプは点灯しなかった。ギリの判断か? いや、ちょっとアウトじゃないの? それはともかく。
館内が縦長で、後方に座るとスクリーンが小さすぎるのがネックだが、座席はクッションがふわふわでかなり座り心地がよい。その一方でまた減点されるのが、ロビー以外での飲食禁止。もっとも、上映前に飲み食いしてる間に、いいポジションの席が埋まってしまうような映画が上映されてる時に訪れたことがないので、それはそれで。




脚本はさほどでもない。音楽、演出は“くささ”が鼻につく。

演出がくさい、というのは、例えば、花鳥が島抜けの罪で「転がされた」直後、空に向かってあがっていくカメラが、カットを切り替えてスローでかもめが飛んでいくのを映す。いかにも、花鳥の魂が自由にどこへでもいけるカモメに託されているようで、しかもむずがゆくなるようなスロー。くさすぎである。

島抜けした後の展開は人によっては蛇足だろう。そういう落とし方はもちろんありだが、八丈島の青々とした草、断崖、滝、台風をずっと見せられて、物語の最終の山場が水戸の江戸村的なセットじゃ、はっきり言って興ざめである。



それでも要所要所で眼を見張るのが、各役者の演技力。

花鳥(麻里也

準主役にあたる役柄で、物語の中盤、吉原に火をつけた罪で、15歳以下だったので斬首にならず、流刑されてくる。
ほぼ新人の18歳。撮影当時は16歳。松坂慶子演じる40歳代前半の元おいらん現娼婦が主役なのだが、途中30分ほどはこの花鳥が完全に主役。
手に職をつけて自立しようとするが、飢饉の際に奥田瑛二演じる成金から暴行を受け、親切にしてくれた島の女=お千代がなりいき的に流刑人の男に赤ん坊といっしょに棄てられ、松坂慶子の男に言い寄るも拒絶され、女に餓えた島の男たちを体で釣り、島抜けをはかろうとする。
このときの様変わり、「おぼこ」的な雰囲気から一転、年齢容貌をはるかに越えた「娼婦」の匂いをまとっていく過程の演技が、一見の価値あり。繰り返すが撮影当時16歳。体当たりの演技という評価がされてるようだが、初々しさやフレッシュさという形容が付属しない体当たり。50前後の下卑た流刑人に着物の上から股間へ顔をうずめさせ、両足でひきつけながら周囲を囲むほかの男たちに誘いをかけるシーンは、まったく危なげなく堂にいったもの。

豊菊(松坂慶子

花鳥で長々書いてしまったが、色気があちらなら、「こんな島で朽ち果てたくない」という哀切を憎しみは、松坂の演じる豊菊が請け負う。
任期を終えて江戸へ帰っていく役人を切りつけ、仕返しの暴行で青タンをつくって命からがら辿りつた喜三郎のほったて小屋で、乳を振り出し、何人もの赤ん坊を木の棒を突っ込んでおろしてきた、帰りたいと島への恨み、江戸への焦がれを訴えるシーンが、かなり迫った。

成金役(奥田瑛二

飢饉により自暴自棄になって役人の家に立てこもり……。刃物で人を脅させたら右に出る人はいないかもしれない。

花鳥の島抜けを助けて銃殺される流刑人(なすび)

欲望に忠実なお調子者を、いい線で演じてる。素で演じてるから、という感じもするが、変に底の深さをかもされるよりはよい。電波少年で裸で暮らしてた人という肩書きを変える必要を感じる。

喜三郎(西島千博

松坂が惚れるいい男こと、主人公のはずなのだが。観終わった結論は、麻里也と松坂に乳首を舌で転がされて悶える役の人。それ以外に見所はない。正直、この人の演技は見るに耐えなかった。




邦画で演技力に感嘆することができた、という意味で意義ある観賞だった。




参考:公式サイト