クラッシュ(監督:ポール・ハギス)

 新宿武蔵野館で21:10の回。



 ロスが舞台。あるクリスマス前の36時間が、7つの家族・恋人たちの視点から並行して描かれる。黒人、白人、ペルシャ系、中国系、ヒスパニック、検事、雑貨屋、TVディレクター、カギ屋、刑事、自動車泥棒。



 例えば。



 白人だけを狙い銃で脅して高級車を奪い自動車修理工場に売りつける黒人のアンソニーとピーター。白人の黒人に対する扱いにいつも腹を立てているアンソニーは、社会のそこかしかに見える差別をピーターに今日も講釈。


「知らないだろ? 
何でバスにあんなデカイ窓がついてると思う? 
理由は一つさ、
黒人をさらし者にして
乗らせなくするためだ」


 こんな知的さとウィットに富んだ講釈をたれる。でも二人は、自動車泥棒。昨日も検事夫妻の黒い高級車を盗んだばかり。


 黒人から盗みを働く黒人の知り合いを、俺は搾取されてる奴らからは奪わねぇ、と言っていたアンソニーは、今日もピーターと二人で白人を狙って自動車泥棒。でも、今日狙った高級車の運転手は黒人。それで結局、強奪に失敗。運転手でTVディレクターのキャメロンはこういう。


「お前は俺を困らせ、お前自身も貶めてる」


 何も答えられずキャメロンから自分の銃を受け取って、車を降りるアンソニー。その後の夜、強奪失敗でピーターと離れ離れになったアンソニーは、バスに乗る。車内で周りを見渡すと、アジア系の主婦たち、偏屈そうなアラブ系の男、白人以外の人種たち。社内は明かりで照らされ、暗い外からは丸見え。口元を緩めたように見えたアンソニー
 バスから降りて、前の日の泥棒の途中、たまたま引いてしまった中国人のバンに乗り込み、自動車工場へ。工場主がバンの後部ドアを開くと、不法入国の中国人家族が10数人。一人頭500ドルで売り飛ばしてやるという提案を断り、チャイナタウンへ向かう。全員をそこで降ろし、バンに乗って去るアンソニー




 一方その頃、ピーターは、やっとのことで人種差別主義者の相棒とのコンビ解消に漕ぎ着けた正義感溢れる若手警察官のハンセン巡査から撃ち殺され、路肩に放置されていた。





 横たわるピーターが探していた自分の弟だと現場検証にきた刑事が気づいたり、パトロール名目で屈辱的な身体検査を受けた白人警官から黒人の女性が交通事故の車の中からその警官に助け出されたり、そもそもピーターがハンセン巡査の運転するマイカーを偶然ヒッチハックできたり、物語の連鎖がうまいことつながりすぎな箇所もあるんだけどね。人種と貧富の差が複雑に交差し広がり変化しているというテーマを、安易な連鎖は内側に閉じさせてしまうようにも思うので。
 ただそれをあまり気にするほどではないとも思ったのは、最近はこういった人種差別をテーマにした映画を観てなかったことが一つと、分かり合える範囲での関係しかもたなくても済んでしまう東京の生活を対比せざるをえなかったから。東京では待っていてもクラッシュは向こうからやってこない。それとも東京に住んでいるからこそ、いくらもそこに転がってそうなクラッシュの芽から眼をそらして暮らすようになっているのだろうか?



参考:公式サイト