ジュンク堂トークセッション――「紺野に訊け! まんがとフォントをめぐる冒険」


 http://www.junkudo.co.jp/newevent/evtalk.html


 昨日、19:00から池袋ジュンク堂4F喫茶で。
 6月に講談社から出版された「コミックファウスト」におけるマンガの吹き出しやモノローグに使われたフォントについて、同誌の太田克史編集長と、同誌や文芸誌の「ファウスト」、小説でフォントディレクターを務める凸版印刷の紺野慎一技術開発本部・技術SE部・出版CSチームディレクターが、語るという催し。



 フォントで作品にどのような貢献ができるかという試みは、すでに「ファウスト」で作家、作品ごとにフォントや版組みの体裁を変えるということをやっている。それを「コミックファウスト」でもやった際、フォントに関してはどのような意図と手順でやったのかをテーマにいろいろと……、だと思っていたのだけど、それは3/1くらい。残りの3/1は、マンガの吹き出しの中の写植の「アンチゴチ」の発祥について、もう3/1は、adobeのInDesginによるDTP制作がどれだけ余計なコストと手間をはぶき、より創造性を高めるほうに力を割くことができるようになり、旧来の枠にはまった考え方を突き崩すのに役立つかという、「ファウスト」のときもよく目にした克己心あふれるトーク



 フォント選びは、「放課後、七時間目。」(作画:高河ゆん、原作:西尾維新)の最終ページの見開きを例に、とりあえず「アンチゴチ」で埋めてみた使用前と、より細めのフォントを選択した使用後=実際の作品をスクリーンで比較。こうやって実際に見せられると、確かに違うなと分かるし、使用後のほうが合ってるかなぁとは思うものの、実際には、それと知らずに読んでいて、そこでそのフォントにハッとするようなものでもないのが正直なところか。
 テレビ番組の制作で言うなら、音声や効果音や照明やビデオエンジニアといった目に見えて耳にも入ってくる部分の仕事だけど、表立っては意識されづらい部分というか。紺野Dは「コミックファウスト」をやってみて、小説のように読まずに半分くらい絵として認識される吹き出しの中を「マンガのフォントは、小説のルビ」に似ていると感じたそう。凝るなら凝るでやってもらっていいし(こちらのような感じで)、編集者がそこまで凝る暇や気がないなら紺野Dのような専門職に頼むもいいし、InDesginのDTP体制でそれがやりやすい環境になっているというのならそれはそれでおおいに結構なことなんだけど、個人的には読みやすければいいという感じで、あまり積極的に注意して見ていこうという気には。でも、興味深い話だったのは確かで、帰宅して、メガストアやRINを読み返しながら吹き出しの中のフォントだけに注目してみると、あまりエロくなかったりする。このエロ単語にはこのフォントというのは、研究してみる価値がありそうである。「彼女がつながれた日」の作家の人は、このフォントで統一するとか。ネタか。




 意外と知らなかった「アンチゴチ」の発祥について。吹き出しの中の"かな・カナ"はアンチック体、"漢字"はゴチック、という例の慣習。
 紺野D「(業界で有名な)フカワさんの話では」と前置き。おそらくこの人のことだろう。戦前、大日本印刷が合併する前、秀英舎だった頃にも社内の方針としてちらちら採用されてたのが、昭和30年代に広まった? よう。
 理由としては、はじめ"かな・カナ"もゴチックオンリーだったのを、読みやすさから明朝を選びたかったが、昭和20-30年代の"かな・カナ"は"漢字"に比べて小ぶりで、ただでさえ細いフツウの明朝の横の線が誌面では「飛んで」見えないので、そういった「つぶれ」や「かすれ」を回避するのに、線の太さが均等に近いアンチックが選ばれた、という。"かな"の「の」の文字を例に説明する。「の」の中心の縦線が上の楕円にくっつくところは、明朝ではかなり細くなっている。当時は、今より紙の質が悪く、印刷技術も劣っていたというのもあった、と。

 で、そこからの話の流れは、これからはDTPだぜ!という二人だから、いまだに「アンチゴチ」で寡占状態なのはオドロキだとか、編集の側にそうでなくてはならないという思い込みがあるとか、もはや技術も時代も変わっていて「アンチゴチ」である必然性は必ずしもないとか、ソフトも安くなってるので同人誌からフォントの文法が変わっていくのではないかとか、そういう。それも、それで読みやすく感情移入しやすく面白くなれば、読者としてはまったくそれで構わなくて、DTP化で写研のKFAアンチックが使えなくなるなんてのは認めねぇ!という編集者のこだわりがもしあっても、それは別に、ではある。DTPのメリットばかりを強調する二人であったので、もし弊害や導入の難しさがあるのなら、それですぐコロっと転向するくらいの別に、ではあるのだが。




 へぇ、と思ったのは、「サンデーを除く小学館の(マンガ)雑誌は、ビッグコミック系など、ほぼInDesignでつくっている」(紺野D)。看板のサンデーは大掛かりな移行作業になるから、ということか知らないが、それでも看板二番手のスピリッツはすでにDTPということらしい。ほかの出版社でもここ1-2年で、DTPが急速に進んでると。客席から質問していた一迅社の人は、まだ手で張ってるらしかったが。以前エントリしたよう、4月創刊のブラッドはInDesignの新型プラグインで完全DTPであるし、これからは二次関数的に急速な普及が進んでくのだろう。さらに言えば、シリウスやアライブやREX(一迅社だが)やファングや今度でるリュウも、DTPでやってて全くおかしくない。急速に普及しているというDTPによるコスト抑制や少人数体制が、新規読者層獲得や新人育成やメディアミックスや媒体追加やマンガ事業再開といった狙いで月刊誌を出したかった出版社に、それを可能にさせたことが、昨年からの月刊誌創刊ラッシュに繋がってるのかもしれんなぁ、などと想像したりも。




 太田編集長による「コミックファウスト」の手応えは「部数には満足していない。最近の月刊(マンガ)誌の売れ行きに、2ヶ月で肩を並べるところまでいった。 *1でも、売れてもこれくらい。月刊誌は新人を育てていく裾野なので、甦って欲しい。」。ある意味、頼もしい。こちらの記事によると「「創刊号」とはうたわず、刷り部数3万5000の売れ行き具合で2号を出すか決めるという。」ので、シリウスの創刊部数5万部よりは少ない。が、雑誌の価格は2.3倍なので、全部はけていれば2,200万円ほど勝ってることにはなる(まぁ、単発ムックのファウストと、単行本売上のあるシリウスでは、あまり比較にならないけど)。



 まったく余談だが、シリウス読者って、6割以上が20歳代以上なのね。良かった、アンケート出しても浮かない! 表4の料金が60万円かぁ……。営業との交渉で2割引き48万円ってとこか? シリウスを応援する意味で、かなりお値打ち品な買い物ではないですか?と未知のスポンサーに向けて発信してみる。10月号の校了締め切りは今日なのでもう間に合わないけど、11月号に是非。9月号の表3は自社広告だけどね……。



 「コミックファウスト」の表3で「OPEN 2006 AUTUMN.」と告知されている「KODANSHA BOX」は、マンガや文芸、過去の有名作品のREMAKE、海外展開を考えているという話。太田編集長のほかに複数の編集者がかかわってると。マンガ誌の臭いはしないけれど、気にしておこう。



 あと、ここを読んでる人で興味ある人がいるかどうか分からないけど、ファウストのVol.7の10月発売は厳しい、特集は佐藤友哉、だそう。ともやタン?





アンチゴチ」の歴史の参考:日本語練習中 - アンチゴチがマンガさ使はれはじめる頃のことば調べてみっぺ日本語練習中 - 明治期のアンチック体活字を追ふ(2/2)




コミックファウスト (講談社 Mook)

コミックファウスト (講談社 Mook)

*1:発売日が6/24なので2ヶ月という聞き取りはまったく間違っていて、売れ行きという表現もあいまいだったので、8/5に発売された「STUDIO VOICE 9月号」37Pの太田編集長インタビューから、正確なところを引用しておく。

――『コミックファウスト』の市場の動きはどうですか?
「部数的にはもう一伸び欲しいというのが正直な気持ちです。マンガ誌として考えたら勝ちなのかもしれないけど、『ファウスト』本誌よりも数字は下がっている。ただ、発売2週間経った時点で、ここ2年間で各社が創刊した月刊マンガ誌の実売率はもう超えちゃったんですよ。逆に言うと、一部の例外を除いて月刊マンガ誌の経営事情は相当厳しいんです」