コミケ直前でも気分は夏ティアに向けて。


 このまま台風が居座ってくれない限り、台風一過の週末は、ギンラギンラの照り日で崩れ落ちそうなコミケ日和でしょうな! そんな時こそ、まったり回れる8月ティアが一服の清涼剤になるのです。


 以前の日記で、JETSコミックスからシギサワカヤの「箱舟の行方」と日坂水柯の「レンズのむこう」が出版されたことを、営業戦略的によく分からないという風に書いたことがあるが、夏ティア用ティアズマガジンvol.77で、2人を発掘して2冊の出版を担当した白泉社の飯田孝・メロディ編集長のインタビューが。なんとなく同じ路線だなーと感じていた、持込からYAでデビューした二宮ひかるは、この人が担当してデビューさせたとのコメントがあり、さもありなん。宇仁田ゆみ、もそうだという。なるほどなるほど。


 略歴は、販売部に9年いた後、93年からヤングアニマル編集部、96年から花とゆめ編集部、97年からヤングアニマル副編集長、01年から書籍編集部、04年に設置されたコミックス編集部の初代編集長、06年からメロディ編集長。営業から編集への異例の異動は、92年の春に月刊平綴じのアニマルハウスが隔週刊中綴じのYAに衣替えしてほんの1年ばかりの頃。「まだ部数が芳しくなくて、会社としては開き直った人事でしょうか。」とコメントがあり、そーいえばその頃のYAは「低俗霊狩り」の読切が集中的に載った94年に何度か買っただけだったな、と思い出す。立ち読みはしていたが、定期購入しようという雑誌ではなかったなー、と。で、その頃から、「箱舟の行方」と「レンズのむこう」の営業戦略に通じると思われる方針を貫いてたことが語られている。

ちょうどコミックスが新書版からB6サイズに切り替わったところで、私が主張したのは、自分の担当したマンガのコミックスは自分で作ること。そして、共通のデザインフォーマットは作らず、自分がピン!ときたデザイナーをどんどん引っ張ってきて、作品に合わせたデザインにすることでした。

 このほかにも、単行本をどう企画、製作、販売していくかということについて、いかにもプロらしい語りが並ぶ。

(コミック編集で気を付けていることという質問に)
やはり、パッケージが大事ということですね。羊頭狗肉ではなく、持てる素材の魅力をいかに引き出して読者に手にとってもらうか。「ジャケ買い」でOKです、その作家・作品を知ってもらう切っ掛けになれば。

(コミックス編集部編集長就任でスタッフに宣言したという台詞)
「自分は編集長という肩書きだけど、それぞれが企画して自分も採算取れると踏んだ本は、応援して社内会議を通すから、その後はその本は自分が編集長のつもりでおやんなさい。」

自分が本を作る時に絶対譲らない、見誤らないようにしている原則はひとつしかない。それは赤字を出さないこと。私達はプロなので面白いのは当然なんです。プロというのは商業出版ですから原価の問題は絶対にあります。「採算を度外視して…」なんて口が裂けても言っちゃいけない。そうでないと販売や業務の人と交渉をできません。

(同人と商業の違いについて)
コミティア好きだからね。マンガを描いてる人がマンガを好きなのは当然だけど、好きをさらに仕事にするかどうかは大きな分水嶺があります。商業誌は枠が決まっていて自分が載る分、誰かは載らない。ゼロサムゲームなんです。そこが同人誌との違いでしょう。そして現状で残念ながら商業誌では再チャレンジの可能性がなかなか低い。プロになるのは比較的簡単だとしてもプロで有り続けるのは本当に大変な時代です。

(「ベルセルク」は女子受けを確信していたというコメントに続けて)
少女マンガの部数を増やすには男性のお客さんも、男のマンガなら女性のお客さんも取り込む。販売部にいた頃からの持論でした。
少年マンガの女性のお客さんといえば、今で言うボーイズラブに直面したのは、87年の冬に小次健とか健小次とか耳にした時です。
キャプ翼」のブームに気づいて、とりあえず出ていたところまで全巻を買って読んだら自分もはまった。そこから同人誌を追いかけるようになって、手弁当でアニメイベントのお手伝いもしました。


 シギサワと日坂、2人の単行本が、よく練られた戦略の上で出版されて、そしてネット上の評判(目論見どおりジャケ買いの人が目に付くことも)や書店での扱いを見るに、おそらく成功といっていい部数を売り上げていることを推察できる。*1 飯田編集長が同人からの発掘に熱心なことや、今のYAの雑誌カラーとは関係ないところで2冊がJETSコミックスから出版されておかしくないことも。残るは2人にとって単行本が、商業本格進出の足がかりになっていくのかどうかという点だが……。



 とりあえず「メロディ」買うようにしとくか。





 「箱舟〜」「レンズ〜」のカバーデザインを担当した名和田耕平デザイン事務所の過去の仕事を見ると、ネットマンガをまとめた戸田誠二の「ストーリー」やシーズン増刊連載分をまとめた海野蛍の「めもり星人」などの、単発系の単行本が目立つ。ほかに、こうの史代岩岡ヒサエなど。
 どれも書店で目を惹いた。いい仕事をしてる。飯田編集長のメロディについても、この6月号の表紙デザインを担当している。気にしておくこと。




 今度のティアの出張編集部は、過去最高の数ではないのか。青田刈り上等。「20代前半から30代までの男性が中心になると考えています。」のCOMICリュウが、いい新人を発掘してくれるとええね。

*1:「箱舟〜」「レンズ〜」の2冊とも作者HPで8月に重版するとの告知アリ。さすがだ。