コミティア77の新規購入サークル分から主な作品を抜粋。
- ちはや彩影 ≪ちは屋≫
- オフセット「極東アンタクチカ 3」
人体改造でペンギン型パワードスーツを着て悪と戦わされることになった女子高生のファーストミッション。テンポは悪くないんだけど、ちょっとページを全体として把握しにくいか。1コマ1コマの勢いが、コマ切れでもったいないというか。
商業はまったくの未読の袴田。「いーたん」「おやすみなさい」「秘密基地」「クアドロフォニア」の4本と、書下ろし「あなたを虜に」の計5本。
32Pの短編「おやすみなさい」が、なかなか。
『付き合い始めたばかりの恋人と妹(=すず)と3人の旅行にいけなくなった彼氏のもとに、旅先のホテルの火事で恋人が亡くなったとの知らせ。病院にかけつけてみると、助かった妹の中に恋人の精神だけ入り込んでいた……』。
お互いにまだ愛していると告白、病院のベッドに倒れこんだ後、「駄目だ」「やっぱり すずだ」と身体を離す兄と、呆然として、言葉の意味に顔をしかめて涙をこぼすすず=彼女。この人の作風で、こんなにすんなりと「決断」というテーマを読ませられてしまったことに、自分がちょと呆然。含みを残したオチに、読み手を救う(掬う)上手さも。ほかは、1年前に登山に旅立って以来音信不通の彼氏を忘れられない彼女を励ますパーティーの1日を描いた「秘密基地」が、錯綜する人間模様という感じでよし。いくつか収録されてた、なんか百合っぽい短編は肌に合わず。
- 七霧京 ≪ぽらんぽらん≫
- コピー誌(っぽい)「世界はみんなくるっくるー」
むかぁし、たまーに読んでた「りぼん」で、こんな絵柄によくお目にかかったような気がする(今でも、そんなに変わらないだろうけど)。ぐりんとした瞳と柔らかそうな黒髪、細っこい手足が、いい感じの少女マンガっぽさ。
もっともそれだけならおそらく買わなかった。が、ツナギを着てゴツイ自作バイクを乗り回して歯車式の機械いじりに明け暮れて、というこちら側=少年マンガ読者に届けるフックが散りばめられていたので、それに惹かれて。やんちゃな男子に出会って、内向してた意識が外に向けて開きだす、というテーマ。ト書きを多用したちょっと詩的な話運びは、いかにも同人臭いのだけど、作者でなくキャラクターが語っているように受け止められるくらいの力量はある。ところどころに入る小技のギャグが好感。
(っぽい)としたのは、ホッチキスでなく、パンチング穴を紐でとめた、凝った装丁のため。自己満足ではなく、作者の“好き”が伝わる本。
- たかな ≪ポンコツロケット≫
- オフセット「伝心」
- コピー誌「未来型携帯電話 vol.2」
オフセットは、大学漫研の会誌に発表したという作品を描き直したもの。コピー誌は、女子ロボットな携帯電話が真夏のアパート、僕の部屋にやってきた!なギャグ。勢いだけで乗り切ったかのように見える携帯マンガは、ちびっこい女子ロボットのcoolさとブチキレ具合が案外、うまいこと回ってる。
- イクヰロン ≪ぐるり堂≫
- オフセット「えろねこさん お花見」
似たようなファンシーな絵柄が特徴のガビョ布は、まだエロくしようという意図と努力が分かる(エロマンガだから当たり前)が、エロくしようとしてエロくなっておらずけどやっぱりエロいかも、という読み手を行ったり来たりさせるエロマンガ。同じようなテイストで攻めるなら、2冊目はちょっと考える。
- 漆原 ≪蛙の館≫
- オフセット「天ノ花 地ノ月」
『甲府に移った頃の山本勘助に預けられた、絹という名前の素性不明な娘。きな臭くなりつつある甲府を離れて、京に旅立つ……』。
続巻予告の戦国時代モノシリーズ。ほかにも数冊の本が平積んであり、少女がヒロイン格で出てるこの本が一番入りやすそうかと考えて購入。戦国の謀略に頭を悩ます大人たちに対して、無口でセリフがないに等しい絹が、存外よく動く。それが、ちまっとしてかわいらしい。トーンワークを排して、貸本時代で言う墨に似たグレースケールによる絵作りが、雰囲気を出している。続巻購入はアリ。
- ハラカズヒロ ≪instant garden≫
- オフセット「穴街の彼等 総集編」
- オフセット「soiled」
細かい説明は省いて個人的雑感に絞るが、この絵柄にはこんな話、という固定観念が実はいつのまにか育ちつつあった自分という読者の発見と、その隙間に入り込んできた2作品。こういった本を、なんとなくのフィーリングと違和感で、パラ見の後、机に戻していてはダメだと、そんないろいろを振り返った。
可愛い気で好奇心旺盛、それでいて少し怯えた風な少年少女を、芋虫や昆虫に変態させていく言わば“ネイチャー系”な人体いじくりフェチズムを体現する作家の極北に掘骨砕三をあげるとすれば(参考→http://d.hatena.ne.jp/bullet/20060208)、器械の改造フェチ嗜好は、“メカニック系”もしくは“アーマード系”とでも言い表せるか。
「FLEX」「FLEX2」は、人間が生み出した有機肢体=フレックスと、彼女が仕える流浪のお嬢様の旅を描く。お嬢様の怪我に自分の左腕をナイフで千切って代わりに繋げ、乏しい食料でつくった食事にせめての彩りをと右足ふくらはぎの肉を煮込んで差し上げるフレックスの献身。失われた両手の代わり、腰にとりつけたアームハンドが用をなす。「My Favorite Death」のヒロイン(?)は、荒れ果てたセカイ、人間に忘れられたモルグで死体を愛しながら暮らす解体専用ロボット。人と勘違いして助けにやってきた人間の顔を、シザーハンズな両手で正面から貫く瞬間、お面ほどの厚みしかない顔が、ほころぶ。
そういったストーリーマンガの断罪されるべき感を上回るインパンクトだったのが、胴体と頭部を残して四肢を様々なパーツに換装した少女たちが並ぶコピー誌ラフ集。いちいちつけてある作者のコメントがとてもアレでくらくらする。「すべての上半身と下半身は、一本のアームでつながればいいと思います。」とか。裏表紙は、グロエロもここまできたかと思わせた、下半身少女のいる世界。性器を描かれない下半身は、萌えの記号性を失ってしまうのか、それとも新たな地平が開けるのか。これは作者からの挑戦だ! きっと!
以下、おまけ分類。
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- 掘骨……自然変態の“ネイチャー系”、対象は一般の少年少女、変態の過程や変態後の日常生活を緻密に描く
- 器械……人為改造の“メカニック・アーマード系”、対象は人造人間などの少女BODY、入れ替えパーツは特殊な用途(戦闘など)に特化されてストーリーに積極的に関わる
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3年振りの同人ということで、「光」打ち切りに積もり積もったいろいろが綯い交ぜにぶちまけられたようなキチガイさんオンパレード、イカれた日常。あー、同人だとスカトロありになってくるんだーね。いじめグループの一人が今済ませたばかりの便器の中の糞にパシらされて買ってきたカレー丼をトッピングしてはむはむさせられているいじめられっ子を見下ろしながら小をどぼどぼかける主人公な高校生。その主人公の言によると、殺害に至るまでの激情とその儚さ、をテーマにしているのです。後書きでは、そういうことを言い出す主人公、に対する作者のフェチ愛が語られてますけど、テーマはそうなのです。
ペーパーで、「光」はキチガイにはしゃいでしまったので、今後はテンプレートなお話を描いていく宣言。ケツの穴のちっせえ会社だな一迅社は。「光」は、あくまで拡張プレイだったか?
- かざま ≪マガサス≫
- オフセット「Mr.365DAY」
カザマアヤミの、わんこ大好き4コマ。没ネームの再利用。ブラッド創刊号の読切で好感をもった作家。10月号の続編読切「ラストプラトニックブルー」の、小生意気な先輩少女も良かった。いい加減、商業も追いかけてみていいかも。
ありえないくらいストレートな小学6年生女子と男子のピュアな初告白話。どうしても商業のレベルと比べてしまう。というか、まとまり過ぎてて商業作品を読んでるような気分に。同人だからといって別にハジケルようなタイプの人ではないのか。
闇夜に跳ね上がるような色彩が目に飛び込んでくるイラスト集。絵そのものが光を発しているかのような。人によっては、不安を掻き立てられずにいられないだろう。あと、なんだか本のインクが結構、いい匂い。
エース不定期掲載の読切は未読。ネームはなしで気の赴くまま書いたという、私はいかにして創作への道を志したか、な話。具体的理由には一切触れず、内面の心の動きだけを率直に吐露していくやり方をとりながら、“自分語り”に陥らさせずに、すっきりさわやか。ならでは、という味がある。エース読んどくべきか?
コピー誌は、暑苦しくムダにエネルギーに溢れたマッチョ兄弟が告白してフラれて校舎の屋上からダイブ、な短編(粗筋書いてもよく分からんな……)。可愛い今風の女性キャラを描けるのに、その武器を横に置いて、新境地を開こうとしているのが分かって、応援したくなる。
確か、ここのサークルの人はどこかの出張編集部に持ち込んでいたのを見かけた気がするが、あの場で即、何らかの的確なアドバイスを向ける編集の人も、それなりに大変だろうなぁ、と思い出した。
- 梅本祐 ≪混沌≫
- オフセット「雪の家」
こーいうしみいるような短編に出会えるから、やっぱり同人は面白い。
『雪山の貧しい村。過去、強盗に人質に獲られた妹を助けて死んだ兄。周囲からそのことを聞かされ負い目に感じながら同時に憧憬を胸に秘めて成長した妹は、ある日、迷った雪山で辿り着いた小屋で、不思議な青年から「お前は崖から足を滑らせて死んだからここにきた」と告げられる……』。
強盗が奪おうとした、苦しい生活の切り札である高価な指輪と自分を天秤にかけた両親に反発して、死を省みず自分を助けてくれた亡き兄が生きていたら幸せだったのに、と苛立つ日々を送っていた妹。大人は汚い分かってくれない、という世の常で繰り返されるテーマを、小屋の中の青年と妹の会話劇でうまく表現している。会話劇と書いたが、それこそ演劇の1シーンやラジオドラマの脚本として、そのまま使えそうなレベル。青年から手渡された湯気のたつ粥を、実は凍るほど冷たいのに気付いて取り落とし、まだお前はくるべき人間ではないと暗に告げるシーンが響いた。絵柄は、ふっくらさせた吉田秋生+目つきの柔らかな樹なつみ、といった感じ。適度にリアルで落ち着いた描線が、話にマッチしている。
- まつもと ≪松本興業≫
- オフセット「楓日記 第1話 STATION TO STATION」
- オフセット「楓日記 第2話 THE GO TO TOP」
躍動するオタク風少年マンガ。
「第1話」は、デンドロビウムのプラモを買いに出かけた黒セーラー服の姉を「恥ずかしいのよ!」と食い止めに追撃する妹。新宿―秋葉間の中央線の天井や高速道路を走る車の天井を、飛び跳ねながらバトル。
画力のいま一歩は、マンガにおいてほぼ障害にならない、という好例。ぐにゃぐにゃした描線を指摘する前に、画面の勢いとハッタリとケレン味をとくと。設定の細かいところをつっこむと、中央線が代々木や千駄ヶ谷の駅に停まるアナウンスがあったり(停まるのは総武線)、「都営」丸の内線と叫んでたり(正しくは現メトロの「営団」)。
「第2話」は、黒ライダースーツの学園の才女と遺恨勝負。こちらもよく動く画面で熱い。熱く終わるかと思いきや、ピカピカの朝日をバックちゃんとオトしたオチも上手い。