“下流”エロゲへの没入感。


 ライアーソフトの新作「妖刀事件」(http://www.liar.co.jp/youtouziken.html)。角倉綾ルート終了。6時間くらい。ライアー作品を発売日に新品で買ったのは「メガラフター」以来だから、1年半振りになる。それだけ期待していたということだ。


 まず、縦書きスクリプトがずいぶんと読みやすい。文字の大きさ、選択されたフォント、字詰め行詰めが、可読性的にちょうどいい。立ち絵が入るシーンは、画面右側に文章、左側に一人分の立ち絵。画面全体に文章が流れるシーンは、改ページが入らないと画面左側の最終行に新しい文章が出現しつづけるので、その間、ずっと視点が左端に偏ってしまうのがちょっとつらいが、ほどなく改ページが入るので、本当にちょっとつらい程度。画面下1/3のウィンドウで細切れに出てくる文章を読ませられるよりは、こちらがいいかもしれない。あと、横書きの全画面スクリプトは割とポピュラーだが、論文や記事でなく物語を読むのには、縦書きのほうが雰囲気が出ていいかもしれない。ライアーは縦書きをこの「妖刀事件」で初めて採用したはずだが、初採用のシステムとしては珍しく成功してる。ほかに縦書きスクリプトのエロゲが出ていれば、(スカトロor調教モノでなければ)プレイしてみたくなった。


 ヒロインは4人おり、まだ1/4をクリアしたに過ぎない。「本作は、ユーザーの選択により同じイベントが異なる視点から描かれる「マルチビュー」形式のストーリー構造をしております。」(http://www.liar.co.jp/youtou_system.html)ということなので、最終評価を下すのはまだ早かろうなのだが、ラストにかけての駆け足感というか、説明の足りなさはあったように思う。丁寧ではあるが、及第点臭い。ヒロインの4人の誰かがメインルートというのではなく、物語の比重を1/4ずつ平均分散してるのかもしれない。次は、20歳代前半と思しきOL兼街角指導員の人に接近してみたい。


 主人公は高校を卒業後、数年経つものの、ぶらぶらして、フリーターでコンビニの夜勤バイトでかつかつの生活を送る、一人暮らしの渋谷住まい。高校時代からの友達2人とつるむのが休日の過ごし方。2人もフリーターで、運送屋のバイトと深夜の警備員。学生や会社員といった保障された身分をもつでなく、探偵や破壊工作員といった特殊技能で一定以上の食い扶持を稼ぐ手段をもつでもない。教養や智恵は、就職が規定進路の高校の下位ランク程度。一般常識は持ち合わせているが、見かけは人によってはいわゆるドキュンに見紛うかもしれない範疇。暇な時間をつぶすのに、コンビニやHMVには立ち寄っても、まんだらけには寄らないタイプの主人公。まぁ、言えば下流っぽい。
 この主人公の1人称視点で進む「語り」が、エロゲにしてはなかなか新鮮。よく言えば地に足の着いた現実的な、悪く言えば想像力推察力の足りない牛歩な思考過程が、でも何故かイライラはさせない。状況説明をすべて主人公が自らの(ちょっと足りない)判断に基づいて行う。訳知り顔物知り顔の謎解き要員が示唆してくる横槍がないので、雰囲気が合えば没入感が生まれる。あるいはこれも縦書きの効用の一つか。
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