ルナシー(監督:ヤン・シュヴァンクマイエル)


 渋谷シアター・イメージフォーラムで11:00の回。気を利かせて前売りチケットを買ってくれていた友人の分が行き違いで余ってしまい、入り口付近で“にわかダフ屋”を始めるも売れず、ぶーぶー言いながら観賞。客入りは30人前後。

精神病院で母親を亡くし、悪夢にうなされるジャン・ベルロ
生き埋めにされた母親と同じカタレプシー(硬直症)の症状をもつ侯爵
神を冒涜し、快楽を追及する礼拝堂での禁断の儀式
拘束服も電気ショックもない自由な精神病院
聖女のような微笑を放つ、虚言癖の淫売女、シャルロット
侯爵に導かれるままベルロが目撃した世界とは…。


 映画の冒頭、監督自らが、ポーやサドから着想を得ていることを告白、上から下に切り裂いた豚の腹から零れ落ちる大量の内臓で幕開け。おおまかなストーリーは上記の通りの「哲学ホラー」。だが。


 これを、一筋縄でいかなくしているのが、生肉。何をおいても生肉。生鮮食品にカテゴリされる例のブツ。


 肉が糸人形で踊る。地べたを這いずり回る。石垣の隙間で脈打つ。テーブルクロスの上で性交する。バラやロースやヒレや目玉や内臓やら。何枚もの舌が気絶した男の顔を嘗め回す。ミンチ製造機に飛び込んで、出てきたミンチを鶏が共食いする。クレイアニメでよく見るテクニックを使い、本筋の合い間、幕間にインサートされる。戯言と受け取るもよし、何を語ろうが剥き出された中身は肉であり食の繰り返しに過ぎないのだと衒学的に受け取るもよし。ただ、当分、肉料理は食いたくない。


 うーん、分かりにくい。


 そうだな、一部の人にわかりやすく言うとだ、グレイルクエスト(旧ドラゴンファンタジー)シリーズからユーモア精神を脱脂した、というふうにでも捉えてもらえれば丁度いいかもしれない。挿絵担当のHUGO HALLの世界を実写化したと言い換えてもいい。あるいは、目蓋から目玉の代わりに舌がでろんとこぼれた、「夢時間」ロングバージョン。脱脂した粉乳に、チェコ風香辛料をまぶしてから、奇形・拘束・エロのラードをたっぷり。こねくり回してタールを塗って奇声の粉の中を転がしたら、「ルナシー」の出来上がり。


 ファンなら是非、かも。



参考:公式サイト関連情報サイト