「ジャバウォッキー ①②」(久正人)マガジンZKC


 こうやってめでたく単行本化されて一つ、分かったことは、前作「グレイトフルデッド」からさらにコントラストを極めた白と黒の対比や、シャープな描線が複雑かつ緻密に計算されて交差しあうことで魅せる久正人の絵は、マガジンZの粗くて裏写りする色付き再生紙では、原稿時のポテンシャルを十分には再現できていなかったということだ。雑誌から版型が半分の大きさになったとしても、その点はメリットのほうが上回ることと思う。この機会に、未見のマンガ読みは是非、手を出してみて欲しい。新連載時にカラー原稿だった1巻の冒頭は、単行本化に際してモノクロに描き直されていたりするが、それが残念な選択とはなっていない。


 物語は19世紀末から20世紀初頭にかけて。人間の歴史の裏を生きてきた人間と同等以上の知能を持つ恐竜人間が、所属する秘密結社を通じた活躍で、歴史の裏に隠されていた意外な事実をあばき、謀略を解決していく。それを、ガンアクションを得意とする恐竜人間と、ロープテクと体術を得意とする英国諜報機関出の女スパイがおりなすバディ物として描く。


 もっとも読み応えがあるのは、やはり1巻収録の1章「HIDDEN DRAGON編」。帝政ロシアの末期を舞台に、皇帝の紋章「双頭の鷲」に隠された本来の意味、皇帝が手に持つ宝珠(オーブ)が本当は何なのかをめぐって、恐竜人間と女スパイのバディが恐竜人間の軍団とアクションを繰り広げる。敵ボスとのラストバトルでは「ガンカタ」(!)シーンも。江戸東京博物館で開催中の「ロシア皇帝の至宝展」を、「クレムリン○○○」目当てに見に行った、見に行こうかと思ってるような人は、構成の妙をさらに面白がれると思う。


 「HIDDEN DRAGON編」に続いて2巻までに収録されているイタリアが舞台の「TIME OF DESCENT編」、清時代の中国が舞台の「RED STAR編」では、物語とアクションで共に、荒唐無稽さと軽快さをより増していくほうに向かいつつあるように思える。「HIDDEN DRAGON編」は、ロシアの大地の暗い空と凍った空気が、白黒のコントラストと描線のシャープさを際立たせる役目を非常に効果的に果たしているように読め、ポイントが高かった。アメコミやハリウッド映画の巧妙なカメラワークを意識した視点の切り替えも、連載準備に時間をかけられた1章目ということからか、ほとんどのシーンで見事にキまっていた。


 現在出ているZの6月号では、シュリーマンが発掘したトロイの遺跡の秘密をめぐる新章がスタートしている。まだコンスタンティノープルと呼ばれていたオスマン帝国時代のイスタンブールを舞台に、海を渡って出張ってきたピンカートン探偵社の一団と、イスラムマーケットで大砲なみの威力の拳銃を操ってドンパチ。このどれかのガジェットに惹かれるか、もしくは恐竜好きな人は、26日に次の号がでる前に立ち読んでみることをお勧めしたい。


ジャバウォッキー(1) (マガジンZKC)

ジャバウォッキー(1) (マガジンZKC)

ジャバウォッキー(2) (マガジンZKC)

ジャバウォッキー(2) (マガジンZKC)