今月の論座はたいそう面白い。

2007年参議院選挙 東大・朝日共同調査分析 安倍政権の死角、新政権の課題

分析者は上ノ原秀晃東京大学特任研究員、大川千寿東京大学助教谷口将紀東京大学准教授の3人。
内容はタイトルの通り。
まず、参院選前後で安倍首相自身の支持率が落ちていたこと、争点が社会保障に集中した一方で安倍首相が選挙前に触れた増税方針に敏感に反応して税制が関心を急増させたこと、などが示される。このあたりはなんとなく感じていたことの裏付け。
勝った側の民主党の分析が一捻り。防衛や北朝鮮政策、集団的自衛権といった国策の基本路線をめぐる「民主当選者」と「民主投票者」の立場の差が、自民党のそれと比べて大きく開いてるという分析結果が。「大躍進を遂げたのは、民主党の基本的な政策・立場よりも、選挙の争点となった年金や政治とカネをはじめ、与党が失敗した特定争点に関して期待を集めたということだろう。」。
対して、政党支持率民主党自民党で選挙前後でほとんど比率を変えていないのに、「基本的な立場やものの見方が一番近い政党」の質問では、自民が6ポイント下げ、民主が6ポイントあげてる。立場やものの見方には賛同できなくなってるけどまだ政権の座にある自民が、支持の比率を変えないまま心情面で求心力を落としている状況は理解しやすい。
そして、民主が、基本路線に賛同しないのに投票してくれる有権者を得て、心情面で求心力を高めていることについては、「若者から高齢者まで、地方から都市まで幅広く票を集める――民主党がかつての自民党になるつつあることを(中略)示唆しているのではないだろうか。」と分析。それは其の通りだろうなぁ。政権奪取の機運がある境を超えれば、支持率の比率がなだれをうって変化する可能性を指摘している。
選挙期間中、憲法改正、教育改革、戦後レジーム脱却といったイデオロギー路線をうっちゃって民主党の対面を張る選挙戦略に興じ、結局大敗した自民は、福田政権になって脱イデオロギーを目指した戦略を練り直し中。が、脱イデオロギーはイコール、脱コイズミ路線とならざるをえない。マスコミから逃げ回ってまったく表に姿を現さないコイズミだが、都市部無党派層からの人気はまだ高い? 高いとしたら、都市部無党派層の票をなくさないため大きな変更はできないか、それとも。


座談会 永世現役を願った昭和天皇の執念 『卜部日記』と「富田メモ」を読んで

参加者は作家の半藤一利、東大教授の御厨貴明治学院大教授の原武史の3人。
御厨という人が、例の日経の「富田メモ」の件で、5/1と5/2の紙面に載った妙録で、掲載を見送られた中身に、「宮内庁長官にある有力政治家を据える構想があった」「皇族間の人間関係」の二つがあったと。長官だった富田氏は、その政治家がくれば、職を追われる。そういう気持ちでいた富田氏が、その政治家のことをメモにどう書いていたか。有力政治家はまだ存命なのか、政権中枢にいるのか、引退してバックで力を誇ってるのか。まだ生きてるから、出せないネタにされたと考えるほうが素直か? 実際に就任してたら、天皇にあーんなことやこ−んなことを吹き込んで、行動させることもできたのかしらと考えると、そら恐ろしいというか。だからなしんこになったんだろうけど。


バリバリの左翼からネット右翼まで 「人生、落ちるところまで落ちたとき、ミギだのヒダリだの言ってられますか?」

編集部の小丸朋恵という記者のルポ。 *1
共産党系のユニオンに、そうとは知らず偽装請負会社との団体交渉を手伝ってもらった、ネトウヨワーキングプアブロガーのお話。もちろん仮名なんだけど、写真とハンドルネームが紹介されていて、検索したら、ブログで例のヘラルド朝日の労働争議の裁判を傍聴しに行ったことを報告してるという(爆)。ただ、いまでもユニオンのリーダーの一人として活動は元気に継続しているよう。朝日が紹介したってことを除けば、いいお話で収まってる。まぁ、「諸君」とかで記事にされても、おそらく読むことはなかったろうから、それはそれで、なんだけど。


戦後日本の社会運動──歴史と現在 プレカリアート運動はどう位置づけられるか

慶大教授の小熊英二へのインタビュー。
日米安保延長のための69年・佐藤首相訪米の阻止に敗走して、「下部構造」の革命に失敗した「塩辛い左翼」はその方針を転換し、「いま「サヨクのワンセット」のようにいわれる、戦争責任や在日、環境問題、ジェンダーといった問題は、70年後半の転換期から出そろった」。マイノリティーを取り込むためだったわけだけど、それからもう30年以上経って、「70年以降の左派は、「在日」や「アジア」に依拠することで、(それに代わる説得材料を:引用者注釈)やりすごしてしまった側面はないでしょうか。」。
そだねぇ。うん。まぁ、右翼の自虐史観批判なんかよりは、耐用年数が長いとはいえ、さ。


変死体に「犯罪」は隠されている 解剖率100%のウィーン・ルポ

ノンフィクション作家の柳原三佳のルポ。
ウィーンでは、年間約1,800体見つかる変死体のほぼ100%を司法解剖してます、というレポート。対して、日本全体の解剖率は9.4%。鹿児島は1.8%と。なんで鹿児島なのか説明はないが、その鹿児島で年間に2,047体も変死体が見つかってることには衝撃を受けた。やばいよ、鹿児島。さくらぢまの毒ガスか……? 内容は、解剖率があまりに低いことで犯罪の証拠が見過ごされていることに対する警鐘。「きらきらひかる」で世論は動かない。


*1:10/3追記。 ブロガーの人の取材後記のようなものがブログにアップされて、それを読むと、小丸朋恵さん、朝日本体の人ではなかったらしい。というか現役の記者あるいは編集者でもなかった。朝日の(編集業務とは全くの無関係な)子会社に勤務する有期「派遣社員」。しかも「庶務」! 初めての取材仕事で論座という舞台を与えられ、この出来なら、逆にたいしたものだ。ヘラルドの有期契約社員と似たような立場の人がこの記事を書いて、それを朝日が自社のオピニオン誌に載せた、ということになる。小丸さん、ヘラルド取材して記事にしないかね。