コミティア81――新規に購入した主なサークルから。

  • もぐこん 《Mogravity装置
    • プリンタ本「こんなにも清清しい夕暮れ」
    • プリンタ本「ねむけのほし」

 あえて創作を手がけるからには、恋愛とか将来とか非日常とか死とか美少女美少年とか、飛び出て描きたいものがそれぞれイロイロあって、それが一冊一枚の同人になる。だから、この「こんなにも〜」や「ねむけ〜」のような“家族や生活の今”についての作品は、それだけで異色に見えてくるのかもしれない。「こうなってそうなってああなった」ではなく、「今そうなっている」ことでこそ提示できるドラマ性。拡散されてしまっているように思えるけど“家族や生活の今”にだって(その中にこそ)託せるものがある。
 是非、机の前で足を止めて手に取ってみてほしい。


 「南風」「ちくえん」「みいちゃんの来た夏」「ひまわり」の4本を収録。「南風」は、夏の砂浜で「追いかけてごらんなさい〜」「ははは待て待て〜」のカップルの戯れが、舞台設定を、魔法少女・巨大ロボット・怪獣・校舎のピアノ室・花火大会と次々に変えていく、白昼夢のようなお話。幸せな恋人同士に時間空間は関係ないの。ほかの収録作も現実とのあいまいな境を楽しむストーリー。またどの作品も、ここぞというシーンの夏の空は、すべて黒ベタで塗りつぶされている(トーンを使わないタイプの作家ではない)。異世界的な雰囲気を出すための黒、というより、暗幕の黒かな。現実と距離を置いたり次元をずらすためではなく、手で触れられる距離からメッセージを届けるための演目。


  • 松本藍 《サンタロー》
    • コピー誌「T.T.S」

 トイショップを経営する「社長」と「フライデー」のハードボイルド風コンビが、愛らしい子供の「とまちゃん」がつくるカエル型携帯ストラップを買い付ける商談をまとめようとしていたところ、成金禿げ親父の「BB」もそのストラップに目を付けていて……。
 この描き手の人は注目しておくべきだなぁ。トーンを一切使わずペンで細かく描き込まれた人物たちは、「社長」の生真面目さ、「フライデー」の相棒を思う気持ち、「とまちゃん」の純粋さ、「BB」の敵役振りを、作者の意図通りに表現できてるように思う。あと、三白眼やグラサンばかりの大人に交じって、大きなうるうる黒目の「とまちゃん」を配置したのが大正解。「とまちゃん」の着る白Tシャツの“しわ”には、このマンガの“愛らしい”が詰まってる。


  • ヤマダリツコ 《本楽
    • 手製「HAPPY FAMILIES」

 金持ちの男をとっかえひっかえの母親をもった3歳児のかるめちゃんが、人生を斜に見ながらぼそっと一言的な4コマ。食品工場勤め程度の稼ぎしかないのに、ブランド物を買い漁って、ロウソク1本で暮す月があったり。版形が手製の変形版と凝ってて、そーいう本はたいてい、愛情込めましたという行為の表れとして「ほのぼの」「ほんわか」「のんびり」なマンガだったりするんだけど、それが人生裏街道の心構えを諭すような内容なのは珍しいかな。限定100部ということで、遊び紙に、鉛筆書きのシリアルナンバー入り(36/100)。


  • 《毒婦の友社》
    • コピー誌「毒婦之友」

 大衆居酒屋「加賀屋」チェーンの飲み歩き記事。あそこの足腰貧弱で後1HITでぽきっといきそうな鉄パイプの高椅子はいつも落ち着かない。板橋・千代田区周辺の喫茶店紹介も。この前初めて入った神保町の「ラドリオ」は、どこの料亭だという小分け皿に盛られて日替わりランチが出てきたので驚いた。ほかにマンガとかエッセイとか何でもアリ。同好の仲間が寄せ集った懐かしき同人な感じ。


  • こよかよしの 《中央構造線
    • プリンタ本「キ科学工房 2.05 The Ghost at 12th avenue 1/2」

 前に、きららフォワードの創刊号で読切を読んでいた人。艶消し処理した隠密専用量産型キカイダー裸エプロンの格好をさせたような主人公がどうなるのか、予断を許さない、……というかページ数が少なすぎてストーリーが分からないの。


  • 森祭 《屁のカッパ》
    • オフセット「俺は利口な犬」

 ショタご主人のことが大好きなシェパードのペスが、散歩の途中でウンコしてるところをご主人に見られて(そりゃ見るわな!)恥らったり、近所の男前の飼い犬に言い寄られて抵抗(のそぶりだけ)したり。所謂ホモ風味。ある種の犬の懐きようにちょっと引く時があるほうなので、描いてしまう気持ちはよく分かる。


  • 三島 《つゆくさ
    • コピー誌「蛾フォース」

 校内に現れる蛾を外へ出す係りを受け持つ先輩と私。和紙人形のような登場人物たちが静的につむぐ不可思議な世界。音を立てずにすーっと消えていく蛾が世界を一層、静かにする。溜め息。


  • 内海まりお 《まり王
    • コピー誌「おたからデイズ」
    • オフセット「ぺてんしシリーズ 4」

 「ぺてんし〜」収録の“アリスガク・ラボラトリー”は、ファジー機能な人型ウソ発見器を開発したハカセ君と助手ちゃんのギャグ。両手をいっぱいに広げて「それ/嘘っぽい!」と元気よく発声するファジー機能にクスクス。「おたから〜」は「よみきりもの」なテイスト。


 イラスト集。つんと澄まし顔が小憎らしい。


  • 緒方シュウレイ 《上々気流
    • コピー誌「LC -Literature club- vol.1」

 読んで思ったことだけ書くけど、自分も新しいこと始めないとな、と。


 DSって格闘ゲームの無線通信対戦できんの? なら、買おうかなぁ、と思わせてくれた短編。なんだそりゃ。ゲームが好きという想い人のためにちんぷんかんぷんの携帯ゲームにはげむ女子。電車の中で知らない誰かから対戦の申し出が入ってきて、ボコボコにされたあげく怒り新等で探し当てたその相手は……。


 前から商業でちょくちょく見かけて知ってはいた人。
 それぞれメインタイトル作品に、すちゃらか3人娘がSFって墜落宇宙船を救出作戦したりキャッツカードの大泥棒から秘宝を守る猫探偵の助手を務めたりする“七転八倒ひめあられ”を収録。構図やテンポは唐沢なをき調。大ゴマとって、ぐだぐだ好き勝手なこと言ってる全員正面顔のモブの絵とか。というか、多分、アシとかしてたんじゃないかな。唐沢の絵にはない、田舎娘的な朴訥の可愛さが魅力。


 だるだる4コマ。お兄ちゃん子の中一妹がぐたーっと。キャミ一枚の上半身がぷにぷに。


  • 瀬谷真弘 《K2B
    • オフセット「ひきこもり探偵 こたつ探偵と助手の午後」

 ドテラを着てコタツに引きこもったままちっとも出ない仕事をしない女探偵と、甲斐甲斐しく家事をしてくれるバイトの少年の4コマぐったりギャグ。それとなく少年に煩悩をぶつけて天然にかわされる女探偵は、まるで、同人の原稿にいつまでたっても手を付けられないダメな腐女子。このまま、まったくアパートの部屋を出ないままシリーズ化できたなら、それはそれですごそう。


  • ノリシロ、西村もつ 《おしゃれ団
    • コピー誌「魔女りてぃ〜ナ KODAMA」(ノリシロ)
    • コピー誌「魔女りてぃ〜ナ KODAMA 2」(ノリシロ)
    • コピー誌「つきみくん」(西村もつ)
    • コピー誌「つきみくん 2」(西村もつ)

 4コママンガ「つきみくん」シリーズの主人公である「自分では頭がいいと思いこんでいるバカ」ことつきみくんがキモくて悶える。オタクの膿を煮詰めたようなつきみくんが、どうやら作者の身近に実在しているらしいという可能性に恐れおののくと同時にネタの宝庫として活用できる作者に嫉妬さえ。常連なんだと自慢した店で「いつもの」と言って怪訝な顔をされたり、同人をウィニーで落として読んでることを作者本人に勢い込んで話したり、とにかくつきみくん、実在するなら一生出会わないほうがお互いのためだ。作者は違うが、「魔女〜」に出てくるカル・ボーン先生のヘタレ振りは、つきみくんをプロトタイプにしているのではないかと思えてくる。あ、「魔女〜」はスラップスティク+わずかに微笑みなマンガで結構、面白いです。


  • 横尾梟 《筆神屋》
    • オフセット「ロボット残党兵 2」
    • オフセット「ロボット残党兵 3」

 「ロボット〜」の「1」は、コミックリュウの新人賞である「龍神賞」の銀龍賞を受賞。12月号から始まった連載は、買った「2」ではなく、全く別の新作を書き下ろしてる。そもそも「1」が6年前に描かれているもので、リュウに掲載された新作とは大分、絵柄や構成の仕方が違う。「3」では「1」のラストにちらとだけ登場した現地住民の少年少女が顔出し・セリフ付きで再登場。アフリカのジャングルで稼動不能になった小隊長のロボットと出合って、さあこれから、というところで「4」に続くとなっていいる。どっちかというと、大艦巨砲主義がぶつかりあうリュウのリニューアル版より、こちらの続きが読みたい。


 美少女戦士っぽい娘がいろいろ。吹き出しの中の書き文字が読みにくかった。


  • 《あに・まあみん》
    • コピー誌「OVER WRITE 1&2」
    • コピー誌「OVER WRITE episode2」
    • コピー誌「OVER WRITE episode3」
    • コピー誌「OVER WRITE episode4」
    • コピー誌「OVER WRITE final1」
    • コピー誌「OVER WRITE final2」
    • コピー誌「少女自警フラッグ隊 story1」

 ふにゃんふにゃんで、急かされて描き殴ったような、やる気の感じられない線画。なのにキャラクターは表情豊かで、お話のほうもやる気まんまん、ドラマとロジックが満載で、しかも読ませる。びっくり。そのアンバランスさと、アンバランスさを問題にしない内容に。
 新刊の「少女自警〜」は、悪化した街の治安のため活躍する有志少女隊のお話。警邏の途中で迷子の子供を見つけたヒロインは、終戦直後の引き上げ船で実母と生き別れになった過去を思い出す中で、厳しいばかりだった義母兼指令の言葉の真意にようやく理解が至る。ほぼ面倒なく迷子と母親が再会してしまうので、もうちょっと二転三転あって良いかなとは思うが、コマ割りや構図、筋立てが本職に遜色ないレベルなので、あまりマイナスとして過剰に捉えさせない。びちっとペン入れしたら、どれほどのもんになるかしら。


 “太陽王”とか“失地王”とかの中世西洋の王様ネーミングに着想を得ましたイラスト企画。肩に姫を乗せた“巨人王”がカコイイ。


 ピーマン擬人化ギャグ。擬人化といっても、ピーマンに手足をつけて顔のパーツをいれた健全な。ピーマン嫌いな小学生に美味いんだぞ俺を食べろと迫る。ジューサーでジュースにしたら食べれたよ、のオチは、どうかなぁ。罰ゲーム? ピューレにしてソースの素に、ならまだ分かるけど。


  • 茶月夜葉 《阿佐ヶ谷村
    • コピー誌「魔飼い The 13th volume」

 地下迷宮RPGな4コマギャグ。オチがありきたりなものが多くてちょっと残念。すごい描き込んだイラスト集だったらまた次、買いたい。


  • 片瀬竹人ほか 《Lo-Fi
    • コピー・合同誌「Lo-Fi .02 prev」

 幼女にいろいろする妄想をいろいろなサークルが描いて、集めた本。


 ころころ丸っこい元気少女が跳ね回る。勢いだけでここまで引っ張れれば、それはそれで。


  • 志方雅 《GHOSTCAT83
    • オフセット「One day 00 [Every day]」

 4人の仲良し女子学生を描く、はずのマンガのお試し版。商店とか無い田舎の国道沿いをとぼとぼ歩く姿が好きです。


  • 黒谷和也、きた菊子 《クロヤ
    • コピー誌「OLふたりの「秋の日」」(黒谷和也)
    • コピー誌「月の街」(きた菊子)

 タイトルまんまで高尾山にハイキングする「OL〜」が、ビターローストな珈琲のような味わい。仕事のこととか学生時代のこととか途中で声をかけられた「鳥おじさん」のこととか、20代中盤彼氏ナシらしきOL二人が山歩きしながらとりとめない会話。筆書きの線、特にその線で描かれた背景に味がある。OL二人の道行きと会話のほうが、そのための添え物なのかな。名所旧跡のほうが主役の、サザエさんのオープニングみたいに。


  • 《桜蘭堂》
    • 無料コピー誌「桜蘭堂通信 僕(しもべ)の夏休み号」

 制作中の同人BLゲーを、主人公だけ女性化して攻略キャラの属性を父親候補に切り替えたら……、という無茶な突発企画。というか、こっちのほうをやってみたいんですが。心配性の惣菜屋店主の父親候補に犯されてみたい。


  • 永尾まる 《PARAGON
    • コピー誌「ゴロスケホッホー」

 管狐使いの五郎助の日常4コマ。ほのぼの。


  • 広沢あさき 《小梅館2007
    • プリント本「白ホルンの郵便やさん」

 住み込みで郵便局に働く双子の姉弟。ふとしたことから、あて先のない封書を見つけた日、一人の女性が転入届けに訪れて……。“想いを届ける”を題材に描く。あて先のない古ぼけた封書を双子が気にかけれずにおれない、その心理をもうちょっとはっきりさせてもらえると読みやすかったか。


  • 計算 《計算塔
    • コピー誌「よりぬき阿修羅さん」

 落ちものアイデアで一本。美少女擬人化されセーラー服を着た三面六腕(元は木製)と過ごした、夏から秋にかけての短いひと時。「俺は/百戦百勝の/神様なんかより/負けっぱなし/でもめげない/阿修羅さんの/方が好きだぜ」。こんな阿修羅と暮らしみたい。kashmir好きな人とか読めばいいと思うよ。


  • 鬼畜ボーイズ 《ねね》
    • コピー・合同誌「コスプレキャプターゆいか 最終回」

 《みりめとる》とか《エレキ天国》とか計5〜6人くらいが参加してるらしき合同誌。1ページあたり5〜6コマあるとして、それぞれを別の作家が描いてるので、“コスプレキャプターゆいか”と“ハメ撮りのともよ”のヒロイン2人の顔がコロコロ変わる。剥けチンポとマン毛が乱れ狂い、召還されたカオル君のコブシが怪物クンの頬骨を砕く。大・団・円。台本化して、どこかのAV企画会社に持ち込め。


  • さわの森行 《モロヘイ屋
    • オフセット「別冊モロヘイ屋 3 大聖堂は沈黙するか?!」

 憎しみの連鎖についてのお話。アルビアとセルバニアの対立の隙間に入り込もうとした“魔女”。寓話と受け取るなら正体は第三国か。その“魔女”を身一つナイフ1本で殺した爆弾使いだが、結局は“魔女”が希望した聖堂に爆弾入りのバッグを仕掛けることを選ぶ。練られたプロットを生かす画力が欲しいところ。


 ネコ擬人化で、毛皮つきのままってのは、久しぶりに目にしたような。四季のミュージカルを思い出す。


  • 弥須しんじ 《(作者HP)
    • コピー誌「A GODDESS of COMICS」

 意味が……。表紙で飛び蹴りかますオサゲさんに惹かれた。


  • 太田モアレ 《ザクロ伝説》
    • オフセット「その後のクローン」

 四季賞を取った「囚われクローン」の世界の、また別のお話。
 祖父の通夜の席で、連続婦女暴行と殺人の罪で服役した曽祖父のクローンが生きていることを偶然知った雪子は、服役する刑務所を訪ねてみることにして……。
 自分よりも若く屈託のないクローンと会話を交わした何度目かの訪問の帰り、刑務所の壁の前で、曽祖父の孫にあたる自分の父親から、勇気がなくて一度も訪ねられていないこと、犯罪者の子だとして自分の父(雪子の祖父)も自分も肩身の狭い思いをして生きてきたことを告げられる。「そしてクローンは/「楔」だ」「決して忘れるな/という心の枷なんだ」「何年経っても/何十年経っても/何百年経っても/許さない」「それを皆が/求めたんだよ」。
 うろ覚えだが、犯罪に時候があるのは、罪を解決できなかった罪をリスクとして社会全体で背負うためなんだ、という説明を受けた記憶がある。そういったふうに社会が責任を負うことを「その後のクローン」の世界は放棄してしまい、記憶も性格も受け継がない形ばかりのクローンになすりつける。
 死刑を廃止することで罪悪感から逃れ、クローン技術を使って刑期をまっとうさせることで道徳心を満足させるシステムが出来上がって、でも、被害者の会による死刑制度復活の声や人権擁護団体によるクローン人間反対の声は今もやまず、落着はしていない。そして、落着していないことを知った雪子が歩き出す。そのラストには勇気付けられる。
 2007秋のコンテストで四季大賞をとった「魔女が飛んだり飛ばなかったり」は売り切れて手に入れそこなったので、今月出るアフタのPORTABLEで読もう。