ハワラまたはハワーラ。

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2008年 09月号 [雑誌]

COURRiER Japon (クーリエ ジャポン) 2008年 09月号 [雑誌]

クーリエ・ジャポンの9月号112-114Pで、フィナンシャル・タイムズのAnnaFifieldという人の記事を訳しており、これがめっぽう面白かった。「ハワラ」または「ハワーラ」といわれる、アラビア圏とその地域の人たちが出稼ぎで働く国に広がる、格安・迅速で痕跡を残さずに送金できるシステムについての紹介。
ネット上であれば、第6章 中東諸国の金融事情―イスラーム金融を中心に― 立命館アジア太平洋大学 アジア太平洋マネジメント学部教授武藤幸治の99ページ以降などが分かりやすく触れている。非常に簡単に言ってしまうと、A国とB国の間で送金を行おうとした場合、送金をしたい相手同士に代わって、それぞれの国の両替商のX氏とY氏が受け取りと支払いを代わりに行うという形になる。

  • 債務者による支払い→A国のX氏→電話で「代わりに払っといて〜」→B国のY氏→債権者への支払い

X氏とY氏の間には貸し借りの関係が出来るが、今度は逆のやりとりで受け取ったり支払ったりを繰り返していき、貸し借りを相殺しつづけることで送金システムが循環する。では、確かに受け取りと支払いを行ったことをどうやって確認するか。
クーリエJの記事から引用すると、

このシステムは、互いに誠実であることが前提となっている

この1点である。
この1点のみを担保に、世界中で行われる「ハワラ」を使った年間の送金額は推定1,000億ドルにのぼるというからすごい。
ただ、ハワラ 送金 - Google 検索してみると分かるように、テロリストのマネーロンダリグに悪用されているという視点からの批判的な意見が目立っており、Fifield氏の記事もそういった視点を、特にアメリカによるイラン経済制裁にからめて随所に盛り込んでいる。現在、イランから或いはイランへの送金は一旦、UAEのドバイを経由して行われるようになり、扱う通貨はドルからユーロへ比率を高めているという。
「9.11」直後の2002年1月には、NHKクローズアップ現代「アルカイダ 謎の資金ルートを追う」のタイトルで特集を組んでいた。イラク戦争の約1年前。結局、少なくともアルカイダが「ハワラ」をマネーロンダリングに悪用しているという証拠はあがらいなまま、イラク戦争に突入し大量破壊兵器のウソもばれた。特集を採点したメディア検証機構では、ややアメリカ寄りの内容に不満が表明されていたりもしていた。
感じたのは、「ハワラ」を危険視する構図が、インターネット規制を取り巻く環境に非常によく似ているということ。信用のネットワークで成立している「ハワラ」と、情報のネットワークでなりたつインターネット。どちらも世界規模で広がる。アメリカのイラン経済制裁にともない銀行を使った通常の送金が行えなくなり「ハワラ」の需要を拡大させているという背景は、旧来のマスメディアの信用失墜と行き詰まりがインターネットの比重を急速に高めている現状に通ずるところがある。
また、「ハワラ」は基本的に弱者が互いの自助のため生み出した側面があり、出稼ぎする人々が故郷の家族に送金するために大変重宝しているという。この点を低く扱い、テロとの戦いを口実に両替商を登録制にして「ハワラ」に圧力をかける各国の動きは、児童への悪影響などをことさら強調してまずフィルタリング規制から始めようとしている日本の政府や一部保守派・リベラル派の動きとリンクする。問題があると考えるなら、送金されるカネの出所を叩けばいはずなのに、それが出来ないと言いシステム全体に規制をかけようとする。「闇銀行」扱いで送金ができなくなれば、代わりに高い手数料を取りスピードも遅い金融業を太らすことになる。金融業は、免許制の放送局や記者クラブで中枢情報を牛耳るマスメディアだ。
異なる点は、「ハワラ」は伝統と歴史と実態を持つが、インターネットにはそれらが乏しい。「ハワラ」を支える信頼は、それらをバックボーンに持つから強い。



この号は面白い記事が多く、タイムズの別の記者が産油国のナイジェリアで陸地から100キロ離れた海上油田までゲリラが襲うようになっているというレポートを掲載していたりする(YAMAHA発動機のエンジンを積んだ襲撃用ボートの写真がスピード感溢れる構図で掲載されていてどうやって撮ったのか不思議)。ほかにも、赤道ギニアでクーデータ計画の一部始終を撮影するはずだったイギリスのジャーナリストの話とか、グーグルの使いすぎで人の思考が変ってしまうというコラムとか、アマゾン奥地での伝説のドラッグ「アワヤスカ」の体験レポートとか。最後のは、体験部分の記述があまり調子の良くないJ・キャロルのような文章で、訳す人もたいへんだったろうと思う。