「非実在青少年」問題から目を放さない。

コンテンツ文化研究会 / Institute of Contents Culture: 「どうする表現規制、民主主義の使い方を考えよう」開催のお知らせ
http://icc-japan.blogspot.com/2010/04/blog-post.html


場所:東京中央日本語学院(代々木駅下車2分)*1
資料代:500円
ゲスト:藤本由香里明治大学国際日本学部准教授)
   :保坂のぶと


参加者の男女比は7:3から6:4といったところ。コンテンツ文化研究会3/7に開いた緊急集会は、研究会の関係者らしい女性を除いて参加者のほぼ100%が男性だったことを考えると、この1ヵ月半で、BLやTLなどを愛好する女性の間に、条例改正案に対する危機意識が加速度的に共有されつつあることを、肌で感じた。
以下は、藤本氏と保坂氏の問題提起、会場からの質問などに、自分の解釈を交えた論点の整理。もちろん、これら以外にも多くの論点があり、同時進行で論議が行われている(日弁連による、児童ポルノ法の罰則なし単純所持導入を求める意見書など)。その他の論点も逐次、追っていく。





【主な論点】

  • 規制賛成派は「規制されてもしょうがないような表現がある」というロジックをよく使ってくる。
    • しかし、都条例改正案は、規制されてもしょうがないような表現以外の「問題ない大多数の表現にまで、過剰な規制をかけようとしている」。規制賛成派のロジックは、改正案の良いとこ取りか、ほんの一部を切り取ったものに過ぎない。まず議論の対象とすべきは改正案の原文である。
  • 東京都が説明する「単なる子供の裸や入浴シーンが該当する余地はありません。」は本当か。
    • 都条例改正案の原文を読む限り、ウソではない。しかし、18歳未満に見える男女のセックス・アナルセックス・フェラチオを描いたマンガ・アニメ・ゲームなど(小説を除くが所謂ライトノベルは含む〈挿絵があるため〉)を、18歳未満へ販売しないことを努力義務とすることになる。よって、実在する18歳未満の男女のみを対象とした児童ポルノ法で、新たに創作物を規制対象とすることと、ほぼ同じ結果をもたらしかねない。
  • 改正案18条は、都・事業者・都民等の責務として、「青少年性的視覚描写物」=改正案7条に定める「非実在青少年」を「みだりに性的対象として肯定的に描写する」マンガ・ゲーム・アニメ等を、「青少年が容易に閲覧又は観覧」しないようにすることを、定めている。
    • つまり、本来は民間が自らの意思で行うべき自主規制とチェックを、お上が強要することになる。たとえば、ただ1人の都民が「犬という作家の『ストレンジカインドオブウーマン』という成年マークがついてない単行本上下巻は『青少年の健全な成長を阻害するおそれがある』ため、棚から外すべき」と注文をつければ、条例を根拠に、応じる責務が書店に発生する。一種の焚書にあたるような措置を、都が直接に手を下さずとも行えることになる。児童ポルノ法で創作物を規制対象とすることへ、足場を固めようとする狙いが透けて見える。
  • 90年代初頭の「有害コミック問題」の時、行動派のフェミニズム団体は、法規制に反対してくれた。
    • フェミニズムの理論から言えば、女性をモノ扱いする性表現は、女性性を貶める差別表現であり、実際に出版社へ抗議を行っている。しかし、そのような性表現の見直しは当事者や関係者の間で調整が図られるべきもので、国が上から押し付けるものではない。表現の自由は、同時に、表現への抗議に応対する責務を表現者や発行主体に求める。
  • 藤本氏によれば、20人の規制賛成派の識者に、公の場での議論を呼びかけ、出演交渉を図ったが、実際に出てくれたのは、BSフジの番組で猪瀬副知事1人のみだった。出演が適わず、番組企画がつぶれたこともあった。都議会の開催直前まで、改正案を議員に見せていなかったことも明らかになった。
    • 公の場で議論を行うと、改正案の恣意性や賛成派の分が悪いことが広く知れ渡るきっかけとなり、騒ぎをマスメディアに広げかねないから、出演に応じないのではないか。また、改正案を直前まで伏せていたのは、なるべく議論を行わせずにこっそり成立させようとしたからではないか。逆に言えば、さらに広く知れ渡らせる取り組みが反対派には求められる。
  • 6月都議会で自民・公明は、改正案(もしくは改正案の修正案、民主の対案)の可決を狙う。
    • 過去30年で継続審議となった改正案は初めて。都の面子もかかっている。改正案そのままで難しければ、一部修正によって通す方法を探す(昨年の臨時国会での児童ポルノ法改正案提出未遂という前例)。
  • コンビニで売られるエロマンガ雑誌は、青いビニールテープで小口2箇所をシール止めされている。
    • 実際に青少年に容易に閲覧させない取り組みが行われており、改善効果が出ているにもかかわらず、規制をさらに強化しようとしている背景には、改善効果によって仕事が減った警察が、新たに自分たちの仕事をつくろうという意図があるのではないか。
  • 改正案については、WEBのフィルタリング規制やブロッキング規制のほうが危険性が高いかもしれない。
    • 紙媒体は、作家や出版社、書店などに直接、働きかけなければならず、警察が動いたことが表面化しやすいが、検索結果の操作(「児童ポルノ」の検索ヒット数を減らすなど)は、操作が行われていることが分かりにくい。
    • 都条例改正案を受けてか、フィルタリングシステムを開発・運用するネットスターと検索大手のヤフーなどは4月20日「保護者のためのフィルタリング研究会」を立ち上げているが、メンバーには、都条例改正案の早期成立を求めた東京都小学校PTA協議会の新谷珠恵会長や、過激な性描写を含むマンガに否定的な見解を示すNPO法人青少年メディア研究協会の下田博次理事長、下田理事長が所属していた群馬大学社会情報学部情報行動学科の伊藤賢一教授が選ばれており、先行きに予断を許さない状況。一方で、「研究会」の会期は2010年11月までを予定しており、改正案が再度審議される予定の6月都議会までに方向性を出す可能性は低そうに見える。
  • 児童ポルノ法改正の議論で、「単純所持」を禁じる場合の条件の一つとして、「自らの性的好奇心を満たす」という考え方がよく持ち出される。
    • が、ある人がどのような「内心」「意思」「まなざし」を持っているかは、他人からは分からない。「内心」の有無だけでなく、その強弱、継続性についても同様に分からない。よって、「内心」の判断は本人の自白に頼るしかない。「自白」頼りの捜査が数々の冤罪を生んできたことは、最近無罪が確定した足利事件以外にも多くの前例が物語っている。「単純所持」規制によって「内心」の自由が侵される危険性は計り知れない。「単純所持」規制が導入され、さらに創作物も規制対象になれば、影響はさらに広がる。
  • 青少年の前から「健全な成長を阻害するおそれがあるもの」を排除することで、健全な成長は可能か。
    • 保坂氏のジャーナリスト時代の経験から言えば、ハイティーン向け雑誌の相談コーナーは、多くが性に関する悩みで占められていた。性がタブー扱いされれば、気軽に親や友人、知人に相談ができなくなるため、一人で抱え込み、悩むことになりかねない。そのほうが不健全な育ち方をする可能性が高いのではないか。性に関する事象が開かれた現代のほうが、親や友人、知人と性に関する悩みを共有・解決できやすいので、昔よりも健全とさえ言えるのではないか。健全でないという理由で排除する方針・行為のほうが不健全ではないか。


【その他の論点】

  • 規制懐疑派から「マンガ家や出版社を萎縮させれば、将来有望なコンテンツ産業の縮小を招きかねない。国が示すコンテンツ産業の育成方針と矛盾するため、改正案が通ったとしても乱用はされないのではないか? 」という指摘がなされることがある。
    • 経済産業省などの産業育成を旨とする官庁にとってはデメリットを生じる可能性があるが、警察庁にとっては権限拡大や天下り先を確保する好機。官庁が異なれば、権益が対立するという話はよくあること。仮に、コンテンツ産業が縮小したとしても、警察庁(やその周辺)にとっては何ら不都合なことではない。
  • 都条例改正案の原文が「番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言」とそのリンク先の複写コピー、コピーのテキスト起こししかWEB上で見つからない。東京都と都議会のホームページのどちらにも見当たらない。
    • 原文を自ら公開せずに、言い訳(http://qurl.com/9wz71)(http://qurl.com/2y4c6)だけ公開するのは、おかしいのではないか。言い訳が言い訳になってるのかどうか、検証を妨げようとしているとしか思えない。フィルタリング規制を盛り込んだ改正案では、なおさらおかしいのではないか。「お上が決めたことには黙って従っていればいい」という姿勢を端的に表しているようにしか思えない。



【今後の見通し】

6月に都議会で条例改定が再度審議されるのにあわせて、今国会に児ポ法改定の法案が上程される怖れが強いと言われているが、実は衆院法務委員会で既に法案作成が行われ、このゴールデンウィーク前後にも審議が始まるのではないかという情報があるというのだ。
逆に言えば、この国会でどうしてもそれを成立させたいと思うと、そのくらいのペースで事を運ばないといけないという見方があるということだ。 児ポ法改定の骨子は、児童ポルノの単純所持を禁止しようというもの。 これが通るかどうかは民主党がどういう態度をとるかにかかっているが、民主党内部で単純所持禁止に賛成する意見が多くなっているというのだ。
この6月には内閣府児童ポルノ廃絶ワーキングチームが総合対策を打ち出す予定だし(参照記事はこちら)、青少年条例改定をめぐって既に大阪府も動き出したようで、国の法改正と地方自治体の条例改定とが連動して動き始めているようだ。
3月に一気に盛り上がった反対運動は、潮がひくように鎮静化したが、事態が終わったかのように錯覚すると大きな間違いのようだ。 規制側も、今度はそれなりに準備や根回しをしたうえで法案や条例改定案を出してくる公算大だ。




*1:会場を貸してくれた東京中央日本語学院の学院長の方が最後に話した際、日本語を学ぶ外国人にとっても今回の改正案が関わってくる理由として、青少年・治安対策本部には東京入国管理局からの出向者がいることに触れた。全く思いもしない視点からの話だったので、気に留めておく。http://www.saiyou2.metro.tokyo.jp/pc/2011/jobs/bureau/seisyounen-chian.php