28日目。真っ当な言葉vs水蒸気爆発。

SIGHT (サイト) 2011年 05月号 [雑誌]

SIGHT (サイト) 2011年 05月号 [雑誌]


渋谷陽一が編集長をやってる「SIGHT」の内田樹高橋源一郎の連載対談でさ、司会をやっている渋谷との3人で「真っ当な言葉」っていうことについて、話していたのね。
そこまでの流れをざっくりまとめると、「建前の言葉」で済んでた古い社会システムがだんだんと機能しなくなったんで、石原慎太郎河村たかし橋下徹のような一見「本音の言葉」で語る直接選挙で選ばれた自治体の首長が、「建前の言葉」に愛想をつかした有権者の人気を集めて幅を利かせてきたけれども、彼らの「本音の言葉」はその裏に「ようするにカネがほしいんでしょ?」って有権者を見下した視線が透けて見える、っていう。
「結局、カネでしょ」「あんたたち貧乏人の民度に合わせてやるよ」っていう裏の思惑にあえて目をつぶって、「この人は「本音の言葉」で語ってる! わかりやすい! 私達の目線に降りてきれてくれた! だから信じていい!」って有権者に錯覚させちゃってる。そう思い込みたい人に思い込ませちゃってきた。
しかも、そういった麻薬のような「本音の言葉」にちゃんと対抗できるような、「真っ当な言葉」を持った政治家がいないって。


確かにそうなんだよね。
そうだったんだよね、3.11の前までは。


3.11がきちゃったせいで、「本音の言葉」じゃ何ともなりそうにないなーってことに、皆、きづきはじめちゃった。
「本音の言葉」は「結局、カネでしょ?」だから、カネを手に入れるにはムダを省いて効率を良くしないとダメです、それにもっとも適したエネルギーが原発なんです、ほんのちょっとの核燃料からこんなにたくさんの電気が生み出せるんです、しかもCO2を出さないからとってもエコ!、ってうたい文句とセットになってた。原発があったから「本音の言葉」は皆が支持してくれた。


でも、その原発が壊れた。放射能を封じ込めて、周囲の土地にまた人が住めるようになるまで、数兆円、もしくは数十兆円のカネを費やさなくちゃならない。効率を良くするどころの話じゃないし、エコでも全然なかった。


原発の裏づけがなくなった状態で、「天罰」とか「花見自粛」とかの「本音の言葉」を言われても、「で? それはカネになんの? 俺たちを助けてくれんの?」っていう、もっと大きな「本音の言葉」に負けちゃう。


それに、今になってやっと気づいたことだけど、原発が効率的でもエコでもないってことを前から言ってた人たちが、実は大勢いた。「真っ当な言葉」を持った人たちは大勢いた。皆、それに気づかないか、気づいてもよく分からないフリをしていただけだった(あ、補足しておくと、対談の収録は3.11前だから、「真っ当な言葉」がないって結論が出ても、別におかしくはない)。


3.11の後に出てきた「真っ当な言葉」だってある。それを「真っ当な言葉」としてみんな、受け取ることができはじめている。
たとえば、杉様の「ああ、偽善で売名ですよ。」って例の言葉。被災地の人を助けるため、トラック2台、タンクローリー1台、冷蔵・冷凍車2台、車7台で向かったことを、偽善じゃ?売名じゃ?って思った人は、そういう「本音の言葉」こそが強いんだって、3.11前の枠組みがまだ通用するんだって思い込んでいたのかもしれない。偽善なんてつもりはありませんけれど……なんて「建前の言葉」を引き出して、悦に入るつもりだったのかもしれない。けれど、杉様の「ああ、偽善で売名ですよ。偽善のために今まで数十億を自腹で使ってきたんです。私のことをそういうふうにおっしゃる方々もぜひ自腹で数十億出して名前を売ったらいいですよ」って「真っ当な言葉」のほうが、それを軽々と蹴散らした。


今は、日曜までの残り3日間は、そういう「真っ当な言葉」を語ってくれる政治家がどこにいるのかを、皆で見定める大事な時期のように思う。





そりゃあさ、「真っ当な言葉」をいくら重ねたって、どん詰まりにガンとして居座りつづけている水蒸気爆発という最悪の可能性に、フェイクでもモドキでもない心底のリアルに、「建前の言葉」や「本音の言葉」ともども蹴散らされちゃいましたっていうオチが待ち構えているかもしれない。


さっきの、4/7の23:32の地震で、女側原発の外部電源の1部が使えなくなりましたってニュースまで飛び込んできた。非常用ディーゼル電源がちゃんと動いてくれたようではあるけど。


でも、「真っ当な言葉」でないと、もう進めないから。後戻りもできないし。