今日の読書――宮崎学的美少女

帰りに、東郷は街角ではっとするほどの美少女をみかけた。
街に下りてきた山岳民族の少女であった。少女の傍らに一人の若者が横になっていた。二人は、籐で編んだ素朴な細工物を並べて売っている。
浅黒い肌、見事に均整のとれたカモシカのような四肢、額高く見事な鼻梁、キラキラと輝く黒曜石のような双眸、客に向かって笑う歯の清らかな白さ……。
その少女は、まるで汚辱の巷に舞い降りた森の精霊のようであった。
東郷は、美少女につられて何人もの客が籐細工を買っているのを、民家の壁にもたれて見ていた。そこに中尉がチャムの男を連れて通りかかった。
中尉も、今日まで何年にもわたって山歩きをしたが、これほどに美しい少女を目にしたことはない、と言った。同行のチャムの男も首を振りながら、美少女に見とれていた。

 ――「血族 アジアン・マフィアの義と絆」(宮崎学幻冬舎アウトロー文庫)――


 この数ページ後、強姦されて、喉笛をかききられた上、木の枝を突っ込まれた姿が発見される、という。

 宮崎学の小説は初めて読んだが、ストーリーテリングのノウハウはどうやらもっていないらしい。一応、小説としての体裁をとってるが、実録モノに近い。解説で馳星周も「もっと小説うまくなってください」と書いてる。でも、読み手を熱くさせないが、読みやすくはある。マオの実験掌握後、東南アジアに残った国民党軍と、日本帝国陸軍撤退後、東南アジアの組織に紛れ込んだ脱走軍人が、交差していく様は、描写のされ方はともかくその"事実"だけでも胸躍らせる。