NHKスペシャル――性犯罪 再犯をどう防ぐか


 昨年、奈良で起きた小林薫の女児殺害事件を柱に、「身勝手な性犯罪者の姿と再犯を抑えられない制度の問題が見えてきた」と迫る。

 取材班と小林容疑者との4ヵ月半に渡る手紙のやりとり。最新の日付は10月中旬。今、この時期に放送する意味を、あまり窺えない。小林容疑者の裁判はまだ結審してないはずだし、性犯罪者処遇プログラム研究会(http://www.moj.go.jp/PRESS/050708-1.pdf)が9-10月に海外視察をしたようなので、それに同行した取材データを間に合わせたのか? やるなら、6月の法務省から警察への性犯罪出所者データ受け渡し開始(http://d.hatena.ne.jp/bullet/20050602#p1)にタイミングを合わせてやっとくべきだったろうにと、始めに注文をつけておく。それとも、殺人、強盗の出所者情報の提供(http://d.hatena.ne.jp/bullet/20050517#p1)がもうすぐ始まる頃だったろうか。それとはあまり関係ない内容だったが……。



 性犯罪で再犯を抑える教育が、「他の犯罪に比べて」なぜ必要なのか。そこについての説明は、性犯罪が増え続けています、というナレーションとなんだか出典のよく分からない強姦と強制わいせつが10年前の倍以上というグラフデータしか示されなかった。
 ほかに、性犯罪の被害件数のうち子供の被害が年間2,000件といったナレーションや、性犯罪者の10人に1人が再犯(再犯率なのか再犯者率なのか?)といったナレーションなど。



 小学1年生の夏に被害にあった女性の証言。心の傷にさいなまれるため、助け合いのサイトを立ち上げたことを紹介。



 川越少年刑務所の「グループワーク」を紹介。21-27歳の強姦罪を犯した若者たち。「ゆがみの自覚」と「欲望のコントロール」を学ぶ。
 事件を起こしたときの気持ちを話させる。

――いつでもやめられると思いながらはまっていく。スリル、高揚感、普段は味わえない感覚。赤の他人なので傷つけてもその後、接する場面がなく気にする必要がない。大切なものは大切にするけれど、それ以外はどうでもいい。同じことを繰り返してしまう――

 カウンセリングの専門家ではない3人が担当。週に1回1時間、全部で12回。時間が足りない。困っている。
 なぜ足りないのか。懲役刑は労働作業中心の日課。朝8時-夕4時まで箱詰めなどの単純作業が占める。明治時代につくられた古い更生の概念が足枷。


 12回目の最後のグループワーク。再犯の恐れについての質問。欲望を抑えられるか?

――どうすればいいか考えてはいるけれど、はっきり言ってどうしたらいいか。実際そういう状況になったら、どうなるのかという不安はある――



(被害にあった女性、子供から見れば、絞め殺してやりたいセリフだろうが、そのようなナレーションや演出は挟まれず淡々と次の画面へ)



 小林容疑者は、再犯を防ぐための指導を保護司から受けたことはないと手紙で答えたという。小林容疑者の事件以後、性犯罪の出所者も対象にすることになりつつあるボランティアの保護司らのとまどいを紹介。出所者の男性の言葉。

――自分の犯したことを、ああだこうだと考えても始まらない。刑務所に務めれば罪はきれいになるんだから――

 くだんの男性が、町内会の役員に事情を知らない町の人からの推薦で選ばれてしまう。横断歩道の旗振りなどで子供と接する機会が出てくる。だが、犯罪暦をプライバシーの問題から伝えられない、という葛藤。またそういう事件を起こしては困る。だが、犯罪暦を住民に公開すると、当たり前だが地域は受け入れてくれない。



(ここで、情報提供の問題に繋げてきたか)



 保護司の勉強会で。

――事件がおきて「あんたも知ってたんじゃない」と言われるとねぇ――


 性犯罪暦のある男性の話。

――周囲に知られること無く社会に戻っています。今、こどもが怖い。性的虐待する妄想が浮かんだり、たまたま近くの子供に見入ったり。ほうっておくと再犯しちゃうとか不安――


 「欲望のコントロール」のため、類似の犯罪暦をもつ自助グループに参加。参加者の一人の話。

――電車で近くに女性がいると密着したいという思いが湧き上がる。普通のセックスとは別の世界――



 法務省は、性犯罪を防ぐため、海外に手がかりを求める。
 米の性犯罪者の地域住民やネットへの情報公開(キター!)、英の発信機(キター!)。しかし、人権の大幅な制限になるとして日本では否定気味。日本がモデルにしようとしているカナダの再犯防止教育システムを紹介。


 教育を受けた人の再犯は半分に減ったという報告。効果的な教育方法を探るため2ヵ月の詳細な検査を経る。行動科学の専門家などが参加。
 性的な話を聞かせてどれだけ興奮するか、性器につけたセンサーで計測。強姦、恋人同士のセックスの朗読などを聞かせ反応を見る。暴力的な話に強く反応するほど再犯の可能性が高いと見る。過去の性体験の聞き取りなど100前後のチェックも。「欲望のコントロール」を教える。危険なのはストレスが溜まったときとアドバイスするエドワード・ピーコック博士。


 カナダは17年前の子供の性犯罪による犠牲が、再犯だったことで教育システムの充実に進んだと、小林容疑者の事件を示唆するような紹介。



 3ヶ月前に出所したばかりの性犯罪者の男性。8年間の再犯防止教育を命じられた。出所後は24時間監視夜間外出制限の更生施設で3年暮らしている。


 精神科医に相談。

――子供にじっと見入ってしまった――
〜〜それは危険な兆候だねえ〜〜
――僕はいまでも子供に惹きつけられてしまうんだ――
――甥や姪にも会うことはあるけど、惹かれてしまうことはなかったよ――
〜〜家族には惹かれないなら、家族と接するような気持ちで接してはどうだろう〜〜


 薬物治療を3週間に1度。男性ホルモンを抑える注射を国からの命令で。

――一生とは言わないけれど、長い時間がかかるんじゃないか。常にとりくんでいかなくちゃならないんじゃないか――


 日本は、カナダを参考に教育システムをつくっていこうとしている。来年から再犯の危険を調べた上で教育を受けさせる制度がスタートする予定。



 自分の反発心は、世論の正義を誘導しやすい性犯罪者をことさらにとりあげて、他の犯罪との再犯率の高低などきちんと示さず、出所者情報を管理する必要があるのだという風潮をつくりあげ、法務省から性犯罪だけでなく結局は強盗などの数十種類の情報をなしくずしに提供させようとしている警察とそれに協力する行政のやり口がね、気に入らないというところにある。


 だから、受刑中の性犯罪者や出所者が、再犯を押しとどめるための教育を受けたいということも、まったくきちんとした制度が整ってない今の日本にそのような制度をつくることも、それは正しいことだと思う。


 今回の番組は、そういう意味で、冒頭の性犯罪に関するデータの示し方を除けば(除けば、という風に簡単に済ませられる問題ではまったくないのだが)、おおむね分かりやすくまとめられた一般向けの内容になってたのではないか。それと、出所者情報の警察への提供という問題について別枠で取り上げるなら、という条件付きでなら。


 総合テレビで11/9(水)午前0:15〜1:07に再放送ありとのこと。




  • 奈良女児誘拐、小林被告が手記「後悔している」(読売)

 http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20051105i105.htm

 http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051006AT1G2904D05102005.html

法務省は5日、性犯罪者について仮釈放の審理を強化し仮釈放中の再犯を防ぐため、来年度から審理に際し必要と判断した場合には精神科医の意見を聴く方針を固めた。規則上は専門家の意見を求めることができるとされているが予算もなく、実際に意見を聴いたケースは「例外的」(同省保護局)。来年度予算の概算要求に盛り込んだ。
再犯を繰り返すなど仮釈放にあたって慎重な審理が必要なケースについて、地方更生保護委員会で委員が協議する際に精神科医や心理カウンセラーの判断を聴く。全国に8つある同委員会に参加できるよう、8人以上は人材を確保する。

  • 情報紙「ストレイ・ドッグ」(山岡俊介取材メモ): <記事紹介>告訴された者からは100%指紋採取がノルマーー警察庁の狙う「全国民指紋照合システム」

 http://straydog.way-nifty.com/yamaokashunsuke/2005/10/post_dc9a.html