トークセッション「ライトノベル☆めった斬り!」 ①

 
 「♪たちまち変わる週末の天気模様」(BOaTスマートボール」)というわけで、途中サンクスで買ったビニ傘を無駄にしながら、曇天の下、15:00からジュンク堂書店池袋本店で開かれたトークセッションへ。

 http://www.junkudo.co.jp/newevent/evtalk.html#light

 4階にある20畳くらいの店内カフェの会場は、隙間なく並べられたごつい木のイスのおかげて、狭い狭い。一般参加枠の40人に加えて、編集者、業界関係者がぞろぞろ来ていた(らしい。顔なんか知らないし。いや、SFマガジン編集長だけかろうじて分かった。前にSFセミナーで見たので)。
 テレビカメラも入って、開始前にインタビューしていたけれど、そういえばどこでいつ放送するのか言わなかったな。マイクに答えてる年配の女性の人が途切れない饒舌さで、語りたいことが一杯あっていいなー、などと思う。子供がいそうな年齢の女性が案外きていたのは、どういう繋がりだったのか。



 さて、大森望三村美衣冲方丁の3氏が登場。ナマで初めて見たけど、冲方、ハンサムやのぅ。
 「蒼穹のファフナー」「カオスレギオン」の2冊を計2週間強で書き上げた後、倒れて入院してた冲方氏は、今日も入院先から来たと話し、左手首の点滴個所のガーゼを見せる。
 病み上がり、というかまさに臥せってる最中でお体大丈夫?というこちらの心配などは、しかし関係なく、実際のイベントは、“史上初の「ライトノベル30年史」をライブで!!”という事前告知はどこへやら、「冲方丁、大いに語る」、もしくは「ラノベ編集者、レーベル(を冲方氏が)めった斬り!」とでも言うべき内容に(笑)。


 「ライトノベル☆めった斬り!」を始めとする最近のラノベ解説本の発売は、ラノベ作家にとって、業界の地図、今後の指標になるので、多くの解説本が出ていて助かっている、と肯定的な冲方氏。
 解説本への各ラノベレーベル編集部の反応は、スニーカーが“ラノベを勝手に語るな”、電撃が“俺たち勝ち組、ウハウハ〜”、富士見が“勉強家で淡々と”、メディアファクトリーが“積極的に協力”、ファミ通が“(角川グループへの買収で)てんやわんや”、といった私見を語ってくれた。富士見が真面目というのは、ファンタジア大賞の受賞傾向から想像できなくもないが、スニーカーってそんな殿様気取りか? ほかには、自前作家の少なかったファミ通は、スニーカー、富士見と作家の顔ぶれが、角川買収でだぶったねー、といった話が出た。

 それと、冲方氏によれば、同じ角川グループのスニーカー、電撃、富士見、ファミ通は、上からの要請(社命?)で、毎月、合同打ち合わせをやっているとのこと。「でもギスギスして大変みたい」(冲方)。
 スニーカーの編集長はラノベの歌をつくろう!という案を考えたが、実際に合同打ち合わせに参加したところ、とてもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかったらしい。


 ラノベの総売上はここ数年維持できているけれど、それは出版点数の増加に負うところが大きい、という話から、「ラノベ作家はパチンコ玉」「フィーバーすればいいけど……」(冲方)という、この日一発目のパンチある発言が飛び出す。数カ月のペースで続編を出さなくてはならないので、「心を壊す人が続出」(冲方)しているとか。ほんと、数年と待たずとも、いますぐにでもラノベ版『消えたマンガ家』とかやれるよな。そんななかでも、富士見は新人を育てようとしている、と話す。
 そういった人海戦術の一方で、編集部や編集者が、きちんとしたマーケティングをやってないと、とても強く主張していた。「忘年会でも編集者と身のある話ができない」「デビューさせたうちの、1%があたるまでに、99%が討ち死に」「ライトノベルは作家がライト」(冲方)。
 「撲殺天使ドクロちゃん」が売れたのも、あの方向性はおかゆまさき氏のマーケティング力が大きいんであって、編集者の力じゃない、とか。「編集者は投網のなかからマグロを探す。じゃあ雑魚は? マグロのエサ」「僕は深海魚。これ食えんのかな、と(笑)」(冲方)。

 そんな感じで編集者の仕事振りについて語った後、(おそらく商売という意味で)やり方そのものは間違っていない人海戦術にも耐えられる、そして効率よく仕事を進めるため冲方氏が立ち上げに力を注いでいる、「小説アシスタント制度」へ、話が展開。

 あかほりさとる水野良友野詳といった作家が量産を可能にしているのは、それを助ける人がいたり(たとえば、あかほりだと自社ビル事務所、水野と友野だとグループSNE)、メディアとの付き合いも深く、新しいアイデアを取り入れられるところを持っていたから、だから半年ほど前にアシスタント制度を立ち上げたと、その理由を話す。

 で、ネットで募集をかけたところ(ここ→http://www.toenta.co.jp/contests/01.html)、3週間で60人ほども応募してきた、という話には、別に冲方氏くらい熱心でメジャーならそれくらいはあったろうなと、さほど驚かなかったのだけれど、苦笑混じりに冲方氏が言った、そのうち十数人が「デビュー済みだった」(冲方)というのは、さすがになんだそりゃという感じ。「(新人の育成について)それだけ編集者が何もしてないんですよ」(冲方)。「それはラノベだからじゃなくて、作家は全部そう」(大森)。
 それだけ応募があったので、「ラノベの通信教育をやれば儲かるな、という誘惑と戦っている。それやったらお終いだけど」(冲方)という冗談と、「大塚英志を読ませれば?」(大森)という突っ込みに、参加者みんなで(笑)。


 今は12〜13人のアシスタントに、期限を決めた課題を出し、メールを使って添削のようなことをほぼ毎日している段階のよう。どうも話からうかがうと、例のデビュー済みの人も採用したようだった。“『火の鳥』全巻を2週間でプロット化して提出”といった課題にも、「死に物狂いでついてきている」「同じ間違いは二度としないし、みんな優秀です」(冲方)とのこと。でも、友達に出すようなメールを送ってくる人もいるので、そこはしつけている、とか。「編集者がしつけないから」(冲方)と繰り返していたが、大森氏が言ったように、さすがにそこまでは編集者もやってられないだろうな。

 大森氏の、それで冲方クンのメリットは? という質問には、まだ自分のほうの損が大きく育成しても得はないけれど、ライトノベルマーケティングしようとすれば、新人や作家志望者はその最前線になるから、自分のためでもある、という答え。小説のプロット作成のコツなどは、まとまり次第、公開して共有できるようにしたい、と話していた。すでに自身のHPでもそれなりにまとめた指針的なものを公開しているけれど(http://www.kh.rim.or.jp/~tow/top2.htm)、もっと詳細なものを考えているのか。



 長くなったので一度区切る。

トークセッション「ライトノベル☆めった斬り!」 ②

 続き。


 アシスタント制度の話からの派生で、小説作りの分業化についても。
 小説にもマンガのように原作、原案があっていいと、大森、冲方氏の間で盛り上がる。参考として「デスノート」の制作体制の緻密さが話の端々に。冲方氏はキャラクターでも他人の案があっていい、とより細分化したアイデアを出していた。
 「(設定作業などに)余計な労力を使わなくていいから、感性を最大限に使える」「実験(的な作品を挑戦する)の場所になる」「作家同士の交流が増えるので、社会性があがる(笑)」(冲方)と力説する沖方氏に対して、「それが正しいとすれば、アニメ業界の人は人間としてもっと成熟してなきゃいけないけど?(笑)」(大森)という茶化し半分の突っ込みへは、「(アニメ制作の)上にいる人は、すごく大人」「表に出てこないだけで大人はいる」(冲方)という、おそらくファフナー制作の経験からだろう自信の感じられるコメントが。
 監督能力の高い、できる人は地位が高くなっていくシステムがアニメ業界にはあって、そういった人が上にいるから、アニメがつくれている、と話していた。

 このあたりで、冲方氏が「論外」「ちょっとキレそうになった」と口走った、エンターテイメント系作家のある指摘に対する純文作家方面のある反応について大森氏から話があったのだが、そっち方面の現状については知識が浅いので、理解できた範囲で少し抽象的に書くと、別の作家、他業種の人との交流、せめぎ合いが大切という、冲方氏にとって当たり前の考えかたに対して、純文サイドがいまさらのように感心していたよう、ということが冲方氏には信じられなかった、といった感じか。

 「僕がやろうとしていることは、マンガがやってきたことで、マンガのそれをどう乗り越えるか」(冲方)。マンガの量産性、市場の大きさ、読者層の広さ、といった点でその制作体制を参考にしながらも、ライバル心を燃やす冲方氏。まだ病み上がってないのに、熱いぜ。
 マンガ業界が可能にした量産をラノベでもできないか、という話で、三村氏から、ラノベの週刊誌を立ち上げられないか、とのアイデアも。ファフナーで分業の強さを知ったという冲方氏が、それに食いつく。「一ヶ月でファフナー13話分を書いた」(冲方)というスケジュールの詰まり具合を聞いて、「(冲方氏の言う)システムがうまくいくというのは、説得力はないよね(笑)」(大森)「ある程度は分業できた」(冲方)なんて会話も。


 「ミナミノミナミノ」の例の後書きについて。
 「編集者は何をやってたのかと」(冲方)。再びラノベレーベルのマーケティング不足の話へ。「『ミナミノミナミノ』を書くのに編集者のススメはあったろうけれど、『イリヤ』のアニメ化を進めたのは、編集者じゃないから」(冲方)。
 電撃の人気作家がモチベーションをあげられているのは、編集の周りにいるプロデューサーが広告代理店をフルに動かしてメディア展開を図っているから、秋山氏がイリヤからミナミノまで出版間隔が空いたのは編集の力不足、という冲方氏の見方に、「そういうわけでもなくて、いろいろボツにもしてたと思うけど」(大森)と、なんだかなだめるような調子。このあたりになると、もう今日は完全に聞き役、調整役に徹するつもりだな、という感じの大森氏。
 
 ほかにマンガ業界で参考にできる点について、冲方氏が、マンガにあって小説にない制度として、明確な“打ち切り”を持ち出す。もう書くつもりのない作品はちゃんと打ち切ったことを告知しないと、その作家が新しい作品にチャレンジする可能性も狭めてしまう、と。
 その話の流れで、人気作のストーリーが長大化すると、その作品についた10万人のファンに引いて、レーベルについていた100万人のファンが離れていく弊害があるのでは、との見方を話す。「『こち亀』のように1話完結式ならともかくね」(冲方)。
 「ラノベで、ストーリーが長大化した作品はそんなに多い?」「グインサーガを想定してるわけ?」(大森)。客席からは「キマイラー」との突っ込み。
 その後も、冲方氏は、ぱっと見は売れていて、だけど中長期的に業界にダメージを与えている、という見方もできる、将来的なファンを逃すことになる、と話していたけれど、これは具体的な作品名をあげて個別に話さないと、明らかにしにくいテーマだろうな。冲方氏のなかでは、言えないけれど具体的なシミュレーションが何か形をもってあったんだろうけれど。


 「編集がそういうマーケティングをやってくれないから。やってくれているなら、真面目に小説を書いてる」「忙しいのは分かるけれど、個人主義から脱せてない」(冲方)、「そーいう(集団作業)のに向いてない人が作家や編集になるんじゃ」(大森)、「今はメールもあるし」(冲方)。このあたり、冲方氏のなかには、確固としたものがある印象を受けた。

 「以前、大森氏にどこでやりたいと聞かれて、ミステリとかじゃなくてライトノベルと答えたのは、それ(おそらくマーケティングに基づいた制作という意味だろう)ができるから。いろんな人が入ってくるジャンル。新しいことができる」(冲方)。 
 けれどその一方で、それがやりにくい一番の欠点として、ラノベの一般性のなさがある、とも話していた。で、一例として、“萌え”偏重してるという電撃の名前がまた(笑)。ファフナーのノベライズは表紙案として、初めは女子キャラを提案されたらしい。「女の子が読む本なのに」(冲方)には同意。
 熱い冲方氏に、「美少女中心でないラノベもあるし」(大森)、「ファンタジー一辺倒だった10年前に比べれば、多様化してる」「そんなに“萌え”が枷になってるかな」(三村)といった冷静な意見でバランスがとられる。


 この後しばらくは、“萌え”論について。
 富士見の忘年会で水野良谷川流が“萌え”について熱く語り合っていたとか、水野はディードリットの“萌え”を自分では絶対理解してないよねとか、マルドゥックスクランブルが「めった斬り!」でなんとかラノベ度Dをつけれたのはネズミのウフコックでポイントを稼いだからとか、「萌える英単語」をドラゴンマガジンアニメージュが先にやらなかったのはもったいなかったとか。

 最後は、ラノベの方法論がジャンルにとらわれずに、小説全体に広がっていってほしいですね、そしてそれはもう始まっているよね、という感じのまとめに。

 ……なるかと思いきや、客席側にいた元富士見編集の人から、冲方氏のアシスタント制度について、マンガとは1冊あたりの刷り部数が違うから、多人数で制作するとペイしにくいという意見。儲からないから、あるいは儲かるまで時間がかかるからアシスタント制度がほとんど見られないのでは?という質問に、「それは、辛抱ですね」と、即答する冲方氏。現在準備中という、富士見とスニーカーで同じ世界観やストーリー軸に沿ったシリーズを同時刊行していく計画で、そのあたりの辛抱の成果が生かされてくるなら、初めてマルドゥック以外で冲方氏の本に手を出してみようかしら。


 ああ、そうそう、次に出す本は、マルドゥックの続編を優先していく予定とのこと(ハヤカワ編集の人もその圧力をかけるために来ていたらしい)。



 16:30頃、終了。


参考:ライトノベル☆めった斬り! Official Site