巨人くんへの贈り物

 右手親指の腹にあった魚の目が、今朝ほどでほぼ完全に姿を消した。正確には覚えてないが、半年ほどの付き合いだったように思う。極小サイズのカルデラといった見栄えで、中心に砂利のように黒い粒が鎮座していた。風呂に入るたびに、ふやけたそのカルデラの皮をほじくって芯が取れないか試していたものの頑固に居座り続けていた魚の目が、いつのまにか消え去った。



 20数年前、小学館学年誌で「リトル巨人くん」というマンガがあった。
 小学生の巨人くんがその速球を見込まれ巨人に入団して先発投手として活躍するという話で、江川や中畑、堀内といった当時現役の選手が、実名とそっくりのキャラクターで登場し、巨人くんといっしょに日本一を目指す。
 変化球を覚えたがる巨人くんに、まだ肩が出来上がってない小学生なのだから、今は直球に磨きをかけろと時には厳しく諭したりもするが、いちプレーヤーとして同等の扱いを受ける巨人くんに、当時はなんの不思議も感じていなかった。

 唯一納得がいかなかったのは、例えば「小学4年生」での連載が終わると、巨人くんが王貞治にスカウトされる連載1話目が「小学3年生」でまた始まったりする(ストーリーだけほとんど同じで構成やコマ割は異なる)ことだったが、各学年誌やコロコロで「ドラえもん」が連載されてるのに親しんでいたし、そのうち気にならなくなっていった。

 ある試合の話で、他の投手や控えが病気だったりケガだったりで巨人くんしか頼れるピッチャーがいない状況下、巨人くんにも異変が起きる。
 ボールを投げるほうの手の指に大きなタコができたのだ。でも、巨人くん本人は痛くもなんともないというので、試しに投げさせてみたところ、ボールが予想もつかない変化を見せて、バッターボックスに立った巨人軍の打者の誰にもまともに打ち返せない。

 で、モノは試しとマウンドへ送り出し見ると、やはり敵軍のほうも、その変化球しか投げられない巨人くんに歯が立たない。タコのおかげで、次々と三振を積み上げ、勝利投手としてその日の巨人軍をなんとか救った巨人くん。

 けれど、一夜明けてみると、そのタコは跡形もなく消え失せていた。「野球の神様がくれた贈り物だったのかなぁ」と選手一同不思議がりながら、話はおしまい。



 だから、日に何辺かじっとにらめっこをしていた魚の目にだって、もしかして、自分の役に立っていたかもしれないのだ。例えば、ガムを噛んでリラックス度を高める野球選手のように、魚の目の盛り上がりを指の腹の感触で確かめる手触りが、緊張を沈め疲れを忘れさせるように、自分に対して無意識に働いていたかもしれない。イボコロリで強制排除に出るようなことをしたりしていたら、何かとんでもない副作用があったかもしれないのだ。

 今は、人差し指の腹と擦り合わせても、なんの手ごたえもない。山ちゃんは「おはスタ」に出演が決まったとき、鼻の横のイボをとってしまったが、自分はもうちょっと、付き合っていたかったようにも思うのだ。





 そして、「じゃりン子チエ」の巻末広告で「巨人くん」作者の内山まもるが「こんな女と暮らしてみたい」というマンガを描いていることを知り、近所の友人の家にあった、雑誌での連載か単行本で「こんな女〜」を読んで、そのSEX描写に大興奮していたのは、また別の話。