「ファイナルシーカー レスキューウイングス」(小川一水) MF文庫


 通常の文庫に比べると200円くらい高いという印象のままフェードアウトしていったハルキ文庫から出ていた「回転翼の天使」から5年くらい? 小川によるヘリコ小説2作目。
 「メデューシン」「イカロス」「ハイウィング」と、空飛ぶことが手段になり目的と密接にリンクした作品は小川に多い。この中でなら、FMでラジオドラマにもなった「イカロス」が面白さで一歩推せる。「回転翼」は……、正直あまり記憶にない。イラストの娘さんの鼻の穴が気になったくらい。



 「第六大陸」のときほどではないが、説明>ストーリーな印象。取材はそりゃ面白かろうが、物語の進行に必要なふくらみ、肉付けも同じくらい書き込んでほしい。ラノベ1冊という文字分量の制約を受けるというなら、どっちをそぎ落としてどっちを膨らますべきか、それは自ずと明らかだろう。
 それと、ストーリーの起伏が「プロジェクトエックス」的というか、親父向け・新人サラリーマン向けな感じ。一仕事の後、飲み会でうさを晴らして次の日からはサッパリ切り替えてりりしく仕事に臨む……という繰り返しなんだもんな。
そういう起伏がラノベ向けでない、ラノベでやらなくてもいいんじゃないか、という訳ではなく、単純にそーいう起伏があまり好かない、ワクワクしないという。
 そーいう起伏のあまりないストーリーだから、自縛霊背後霊の女の子がとりついているというドラマ性を高める設定が必要だった、のかもしれない。けれどもそのせいか、物語を通して精神的な動き、一段階移動するのは、その女の子だけで、主人公と職場の同僚達は人命救助という日常をこなしてくように終わっていく。



 あとがきで「この仕事をいただいたときに」という、言葉を用いている。自衛隊小松基地救難隊を作品の舞台にしており、当然ながら、1月新番のアニメ「よみがえる空」となぜかタイミングばっちりであるよな、と思っていたら、そのもの(http://www.rescue-w.jp/anime_goods.html)だった。与えられたテーマにストーリーを乗っけた形、だったのかな。そういえば、田中芳樹原作のシェアワールドSFは一作書いたことがあっても、こういった“半”メディアミックスな作品は小川は初めてだ。今の小川なら書きたい作品はそこそこ通りやすい立ち居地にいると思うし、自衛隊内の救難隊というテーマに興味があったからこそ引き受けたのだろう。現場に焦点をあてた物語は、小川の十八番。小川がこういった作品を引き受けること自体は、まったく意外でも何でもない。けれども設定をストーリーが上滑りしかけている、小川にしてはそこそこな作品だった。