「夜に虚就く」(掘骨砕三)SANWACOMICS


 かなり、がんばって、買ってみた。



 ……あー、いけそう。つまり、使えてしまえそう。表情や造形やペンのタッチはそもそも好きな部類の作家なのだ。



 例えば、第十一譚「下し屋」に出てくる、巨大奇形チンポをもつ少年・ぐみは、かなりお気に入りだ。全身でそのチンポを愛撫する少女・石榴(ざくろ)の情動にすんなりと入っていける。
 それだけに、巨大奇形チンポに入る黒ベタの消しはあまりに無粋。巨大な分、ベタも巨大に。一方で、第十五譚「疣に這う虫」の全身乳+小人乱交は、どこにベタを入れたものかかなり戸惑ったろう。いい気味である。



 改めて正面から向かって読んでみて、異形の者やフリークスが嫌いな訳ではなかったのだな、と腑に落ちた。生まれたときからそうだったかは分からないが、16ページなり20ページの話の中では、彼らはもともとそのように生きてきたことをそのように今日も生きているだけなのだから。



 けれど、それで済まない話が何本か挿入されている。チラ見、立ち読み時でさえ、こちらを身震いさせる。



 変体→妊娠→出産。この過程を踏まれた話は、まだ少々きつい。話数で言えば「便所虫」「泥魚」「夜に虚就(うろつ)く」前後編。



 ノーマルな姿形の人間が、フリークスにさらわれたり、たまたま下水に落としてしまった大事なものを探しに向かった先でとらわれたり、もともと下水で暮らしていたところある日奇妙な虫に刺されてしまったり、そうして別の生命の営みを始める。地上のルールと別の世界を生き始める。生殖におぼれながら。きっと、姿形が虫や獣や奇形に変わってしまうことそのものは、一番のショックではないのだろう。読みふけっていれば、ある時点から、視覚に対する快楽に変化する。実際、今、変化しつつある。その変体がイコール、下水の世界、快楽の世界の住人になったことを非常に分かりやすく訴えかけてくるため、そして、その世界がとても魅力的に見えてしまうため、それが怖いのだろう。



 個人的には、子供の時、類型的な絵面のオバケが夜更かしをしている子供を最後に虚空へ連れ去っていく絵本「ねないこだれだ」で植えつけられた、根源的な恐怖をゆさぶる。



 それらの話に比べれば、フリークス少女5人が世話係のお姉さんへの感謝を込めて一夜をかけて至れり尽くせりの奉仕をする「陰間の春」、自慢の自家製フリークスを持ち寄って乱交パーティを開いた学生時代を思い出しながらそのときの仲間を命日に弔う「少女人形」などは、いい話じゃないかと、ほろっとさせられる。



 妊娠→出産という行為を通じて、かつて人だった彼ら彼女らは下水の世界に完全に定着し子孫を増やしていく。ときたま不幸な人間をさらいに出てくるくらいで、地上と分かたれているはずの下水が、意図するかは別として地上を浸食する勢力を育んでいるように見え始める。



 けれども、じゃあ、あぁ「エイリアン」ですか、という突っ込みは相応しくない。ここまで散々怖い怖いと書いておいてなんだが。フリークスとしての、あるいはかつて人間だったときの残滓なのかはっきりと特定することはできないし、またやる意味もあまりないと思うが、彼ら彼女らの間には、確かに、温かな母性や伴侶に対する愛情がうかがえるからだ。


 
 「泥魚」で飲まされる乳、「便所虫」で尻穴に差し込まれる節足、「夜に虚就(うろつ)く」で子宮に食い込んだまま離れない獣チンポ。禁断の瞬間のコマの一つ一つが、ひきつけてやまない。



夜に虚就く (SANWA COMICS No.)

夜に虚就く (SANWA COMICS No.)