コミックREX 11月号


 先日、ブラッドという名前の月刊少年マンガ誌が早すぎる死を惜しまれたり惜しまれなかったりしながら、広大なネットの海へ埋葬された。そこでブラッドがどのような変異を遂げるのか。陸から海へ戻っていった鯨のような海生哺乳類的な新たな進化を始めるのか、邪神ダゴンを崇めてインスマンスの群れと化すのか。また機会を改めて書いてみたい。が、今回は早すぎる死の理由の一つについて。


 イラストレーターや同人作家、あるいはまだデビューして間もない作家ばかりを集めた連載陣に関しては、人気のある作家を連れてきて描かせるべきだ、という揶揄交じりのアドバイスをよく目にした。馬場民雄の「デカ教師」のみに客寄せの責を負わせるのは、あまりに酷だという見解は誰しもに共通してたと思う。休刊号する前月の号では、アッパーズで美少女劉備三国志モノの「ランペイジ」を描いてた吉永裕ノ介(吉永裕介から改名)が、ロボット戦国モノの「ブレイクブレイド」を連載開始したが、時すでに遅し。準備号で予告のあった菅野博之神崎将臣、川原誠といったベテラン作家・人気イラストレーターの話がどこにいってしまったのか、作品掲載がなっていれば多少の延命が可能だったのかは、もう分からない。




 一方で新創刊された月刊マンガ誌の中でも、着々と大物作家、人気作家を登場させているのが、コミックREX
 移籍組は、ゼロサムWARDから「ティンクルセイバーNOVA」(藤枝雅)、「SOUL GADGET RADIANT」(大森葵)、ステンシル(廃刊)から「BUS GAMER」(峰倉かずや)、バンチから「ガウガウわー太2」(梅川和実)、コミックシードぺんぎん書房版廃刊)から「私立彩陵高校超能力部」(石田あきら)の5作品。
 新連載組は古い順番に、「少年ブランキーJET」(佐野タカシ)、「逆襲! パッパラ隊」(松沢夏樹)、「REVEREND D」(藤沢とおる)の3作品。来月発売の12月号から始まる「エスペリダス・オード」(堤抄子)を加えると4作品。
同人時代にまんがの森などで破格のプッシュをされていた「白砂村」(今井神)も含むと、昨年12月の創刊から、ちょうど12号分=1年間で、10作のベテラン・人気作家を揃えることになる。
 一覧すると、他の新創刊された月刊マンガ誌だけでなく、ライバルと目されるマニア系マンガ誌と比べてもまったく見劣りしない。新創刊組では、先月創刊されたコミックリュウも蒼々たる顔ぶれを揃えていたが、ベテランではあっても旬を過ぎた感は否めなかった。REXは、かなりアグレッシブに誌面展開を図っている。




 ……では、これらの作品を目当てにした新規読者をさぞ取り込んでいるはずだからREXが新創刊組の本命になっていくのでは……、と話をもっていきたいところなのだけど、どうもそう思えないのでさぁ、困った困った。主観バリバリでいくが、自分が毎号、面白さに波があるのを承知しながら楽しみにしている作品は、10作品の中にほとんどないから。今現在で楽しみにしているのは、


の7本。
 とらのあなコミケカタログのおまけイラストを担当して連載作品も数多い美川べるのは人気作家に位置づけていいかもしれない。ベンジャミン名義でエロマンガ実績のある黒柾志西、WARD移籍組で作品のCDドラマを出してる高遠るいは、単行本の売上はまだそれほどでもないし、知名度はこれからの作家だと思うので、こちらに入れた。美川以外の6作家は、REXでストーリーマンガの連載に初めて本格的に乗り出したことが共通する。
 新創刊誌の役目は何か? 狙いということなら、メディアミックス展開が出来て大儲け出来るコンテンツを生み出すこと、だろう。が、役目は違う。新人育成。これが出来なければ話にならない。ブラッドはこれに失敗した。あるいは上層部の都合もあって時間切れまでを早回しされた。REXはどうか。「ろりぽ∞」「CYNTHIA_THE_MISSION」は単行本発売時にサイン会を開催した。「かんなぎ」「蒼海訣戰」は表紙を担当した。「鬼ごっこ」「じゅっTEN!」は定期的に巻中カラーが入っている。今のところの足取りは悪くない。だが、看板にはまだ育ちきれていない。編集部から与えられていない。では、看板を背負うべき例の10作品の具合はどうか?



 新創刊誌にマンガ読みとしての自分が期待することは何か? 新しいマンガの流れ。それがメディアミックスとうまくリンクして出版社が儲かるなら、それも大いに結構。その利益によって雑誌が長続きして、面白い作品や有望な新人がどんどん読める。
 だが移籍組には、今のところそれが期待できなる内容になってない。移籍してきたのだから当然と言えば当然だが。REXという誌面に根付いた気配がまだ感じられない。作品単体で良い悪いを見ることしかできない。単行本売上としては貢献するのだろうが、誌面を充実させられているのか。特に「BUS GAMER」「わー太2」の誌面の中で浮いた感じはどうにも言い難い。
 新連載の3本のうち2本、「ブランキー」は“手慰み”、「D」は“手堅さ”が強すぎて、予定調和の域を出ない。どこまでこの作品に本気なのか……、というと言い過ぎか。来月から連載を始める堤抄子にも、個人的に斬新さを提供してくれる作家という認識はこれまでもったことがない。「パッパラ隊」の古臭さは、最初に触れた馬場民雄のレベルを上回っている。10作品では「白砂村」(今井神)の、どこに行くか分からない無軌道さが一番買える。



 先行するマニア系マンガ誌(エース、エイジ、ガオ!、大王、ウルジャン、GX、GUM、アワーズアフタヌーン、ガンガンW、ガンガンF、コミハイ、etc)に、面子ということでは急ピッチで追いつけた。けれど、立ち止まって主力の顔ぶれと中身を確認してみると、これといって取り立ててあげるもののない特徴の見えない誌面になってないか。
 ただ、それが雑誌の存続を危ぶませるとか、そーいう経営的な面にはおそらく、具体的に響きはしないだろう。個別の作家それぞれに、相当数のファンがついてるだろうことはまったく分かる。それによって、単行本売上は上々だろう。例えば、創刊1年目の編集部別収支ランキングをやったら、REXが1位を獲っておかしくないだろう。でも、単行本買うんだしもう立ち読みでいいかな……、って思わせてしまうマンガ誌になるわけにはいかんでしょ。


月刊 Comic REX (コミックレックス) 2006年 11月号 [雑誌]

月刊 Comic REX (コミックレックス) 2006年 11月号 [雑誌]