床屋2題。


いつもの床屋。いつものように散髪後の珈琲と引き換えで刈り賃の1,000円札4枚を渡したところ「近くの床屋が値上げしたので、じゃあうちは逆に値下げだ」と、返ってきた手に100円玉3枚。マスター、片道の電車賃が浮いて助かるし、粋だけど、ほどほどに。珈琲をすすりながら、年金問題を見逃してきた総理と議員は全員吊るせ、と、二人でひとしきり。これがホントの床屋政談。
レコーダーに録っておいた「わたしが子どもだったころ」の、さいとう・たかを、の回を観る。「中学を卒業したらあんたは散髪屋になるんや」と母子家庭のさいとう少年に言い聞かせ続けてきた母親の役が、内田春菊だった。絵が趣味で本業の散髪屋を放り出すため追い出したロクデナシの旦那=さいとうの父親と「そっくりや!」と怒鳴る。絵を嫌う役の元マンガ家現俳優離婚暦3回。散髪屋を始めて3年後、デビュー単行本を出した18歳の年、その母親が死ぬ。死にかけた母親の枕元にそっと、畳の目に合わせて置いておいた単行本。「そしたら、死んだ後、まったくそのままでしたね。見てませんでした」「最後までイヤだったんでしょうね」「その罪悪感が、絵を描く行為そのものに罪悪感を持たせていた。それに気が付いたらとたんに楽になった」。エンディングテロップに入る直前、白髪のさいとうが視線をずらした仕事場の天井近くに、モノクロ写真の遺影。内田そっくり。出来すぎ。