ケータイマンガ品評 補の3 ― 課金システム、「ヘタリア」は売れたけど


ティアズマガジンvol.85の「編集王に訊く」は、幻冬舎コミックス有料WEBマンガ誌「GENZO」の高橋君枝編集長。


知りたかった販売部数は、

パソコン版のダウンロード販売部数は創刊時から比べるとジワジワ増えていて、現在は4倍ぐらいの数字になってます。マニア向けの月刊誌さんの発行部数とそう変らないと思っていただければ。

2〜3万部とすると毎月のダウンロード売上は420万〜630万円。編集部員の給料・経費を賄えるかどうか。単行本の売上でなんとかやってるのは紙媒体と同じ、と。

WEBコミックは無料が良いのか、有料が良いのか、まだまだ過渡期で結論は出せていないところですね。

部数よりも気になってた「スピカ」込みで210円という値段については微妙なコメント。タダで読み捨てられるのがつらいという作家のモチベーションとの兼ね合いもあって「売ってるものだから頑張りましょう」という分かりやすい目標を持てる、と続けている(暗にGUMBO批判なのか……)。なんか、お茶を濁された感じも。月420万〜630万円の売上は、今回の第1四半期実績で見た場合、売上の5%前後。ダウンロード数を跳ね上げるのと引き換えに手放す=無料化するのは、ちょっと躊躇するくらいの数字ではあるけど……。

WEBコミック全般の課題なんですが、パソコンは課金システムが難しいんです。でも携帯は一度会員になってもらえれば自動更新されるので継続して読んでもらいやすいんですね。

「GENZO」の課金システムは、ウェブマネーとクレジットカードの2種類。毎月の号をダウンロードする度に課金させる都度方式なので、買った人が次の号も買ってくれる保証は特にない。でも携帯は自動更新だから、という状況は、ケータイマンガを読むようになって、よく分かる。ウェブマネーのパスワードやカード番号の面倒な入力の代わりに、4ケタのi-mode暗証番号の入力だけで手軽だ。また携帯は、課金するための窓口はトップページから作品単位まであらゆる場面で用意されてるのに、課金をやめる登録解除の窓口は、トップページの一番下にこっそり設けてあるパターンが多い。毎月300円=300ポイントくらいの課金ならそのまま放っておくって人も少なくないだろう。


カネを回収しやすいシステムを、PCマンガはまだ整備しきれていない。


たとえば、ぱっと思いつくのは、毎月のダウンロードを、牛乳配達とポッドキャストを組み合わせるような形。クレジットカード契約しておくと予めパソコンにインストールした閲覧兼用専用ソフトが最新号を自動的にダウンロードしてくる……ような方式なんかは、もう検討済みなのかな。


自分の今の「GENZO」の読み方は、
発行を知らせるメルマガが到着→メルマガのURLからサイトに飛ぶ→閲覧ソフトをダウンロードする→無料の「MAGNA」をダウンロードする→何日か放置→「MAGNA」を読む→何日か放置→「GENZO」か「スピカ」のどちらかをダウンロードする→何日か放置→ウェブマネーの用紙どこやったっけ……→何日か放置→あああったあったでぷちぷち入力→閲覧用キーコードがメールで到着→何日か放置→「GENZO」か「スピカ」のどちらかを読む→何日か放置→残りをダウンロード→何日か放置→読む
のような感じで、かーなり気合を入れないとまず1週間以内に全部読まない。


ようは、読むまでにこなさなきゃならない行為が「作業」なのね。
コンビニでジャンプ買う行為は「買い物」。「買い物」は、コンビニでアイスを買うんでもスーパーで野菜を買うんでもヨドバシでゲームを買うんでも、みんな「買い物」。日常的にこなしてる。でも、上で並べた「作業」は、ごく一部の人を除いて、日常的にこなす行為ではない。そして、そういった行為は往々にしてめんどくさい。
ケータイマンガは、4ケタのi-mode暗証番号の入力を除けば、ボタンをただ押してれば読む行為までたどり着ける。しかも、課金状態が自動更新されてく。


やっぱり、PCマンガの市場規模が2007年度で頭打ちになったのは、課金システムの整備が遅れている、という事情は一つあるかもしれない。


でも、別に一つ注意しておきたいのは、課金システムの優秀性なんかもあってケータイマンガの市場規模が拡大している→一方でPCマンガの市場はたいしたことない→PCマンガはダメ、ではないということ。
あくまでネット完結型の市場が企業にとっては広がってないというだけで、個人発信のPCマンガの面白いものはいっぱいある(多くの読み手にとってはどうでもいいものだってその何百何千倍とあるけど)。そういう無料で面白いPCマンガ、あるいはマンガに限らないコンテンツがあるから、課金システムの整備を企業に躊躇させる。


反対に、ケータイマンガは、ビューアを出してるセルシスによる寡占状態もあって、企業サイト以外の存在がないに等しい。あくまで現状では。だから、もっと個人が勝って気ままにケータイマンガ(紙媒体用でなく最初からケータイ用につくった!)を配信できるフリーウェアのビューアなんかが登場してくれば、状況は変ってくるだろう。そして、その時、企業サイト側はきっと反発するんだろうな。





で、本題の「編集王に訊く」。
後半の、高橋編集長が単行本化を請け負った「ヘタリア」の話って、はっきり言って興味なかった。なんでこんな話に半分も割くんやろ、と。
同人カタログ用のインタビューだから読者層を考えれば、無名の個人が彗星のようにデビューして一躍人気作家に!というお話は当然、求められてくるとはわかるんだけど。


高橋編集長が作家を大事にする人なんだな、という点はよく分かった。こういう人に担当してもらって「GENZO」で復活のキッカケをつかめた小路啓之は幸せだな、とも。その代わり、いろんなところに配慮の届く人らしくインタビューの受け答えはずいぶんと慎重で(ゲラ段階で盛大に赤を入れるような構成側からすると困ったタイプかもしれないけど)、面白みに欠けた。


けど、今日出た幻冬舎のコミック事業の数字を見て、気が変った。


幻冬舎 第1四半期のコミック事業
https://www.release.tdnet.info/inbs/140120080725081176.pdf

コミックス(単行本)等61点(前第1四半期連結会計期間は51点)を刊行いたしました。平成20年3月に刊行した「ヘタリア Axis Powers」が好調に増刷を重ねたほか、大手ポータルサイトの無料マガジンコーナーへ作品を掲載する等、新規読者層の開拓にも注力いたしました。しかしながら、全体として増刷をする作品が少なかったこと及び返品率の上昇により、減収減益となりました。
これらの結果、売上高は288百万円(前第1四半期連結会計期間比7.5%減)、営業損失は54百万円(前第1四半期連結会計期間は営業利益31百万円)となりました。

前期末の3/28に出した「ヘタリア」を発売1ヶ月で20万部超えのヒットにさせといて、それで赤字って、よっぽど他の本が売れてないってことだ。やばいよ、やばい。高橋編集長の面目は立ってるんだろうけど、「BIRZ」の立つ瀬がホントなさそう。
初版の5万部を差し引いた15万部を第1四半期の増刷分とすると、

  • 税抜1,000円×150,000部×原価率70%=1億1,200万円

売上のざっくり4割が「ヘタリア」。初版分で制作費は回収できてるから、増刷分は初版分よりも利益面で貢献してるはず。それで、赤字。



幻冬舎 前期第3四半期のコミック事業
http://www.gentosha.co.jp/ir/pdf/kessantanshin_20080215.pdf

しかしながら、コミックス事業におきましては、前期に比べ刊行点数は増加しております
が、増刷を重ねる作品点数が少なかったことや、営業・管理部門の体制強化に伴う人件費、
刊行点数の増加による流通経費等の負担が増加し、大幅な減収・減益となりました。

前期の第3四半期の時点で一度、赤字になってた。



幻冬舎 前期1年間のコミック事業
http://www.gentosha.co.jp/ir/pdf/kessantanshin_20080515.pdf

② コミックス事業
平成19年6月に「幻冬舎コミックス漫画文庫」を創刊、10月に「月刊コミックバーズ」の増刊号として、猫をテーマとした読者参加型の漫画雑誌「ねこメロ!」を季刊刊行する等、新規ラインナップの創出やコンテンツの拡充を図りました。また、平成20年3月に刊行した「ヘタリア Axis Powers」は、個人サイトに掲載されていた人気漫画を単行本化したもので、発売直後に重版を決定する等、来期以降に貢献する良質なコンテンツの発掘・育成にも注力しております。
これらの結果、コミックス(単行本)等の刊行点数は前連結会計年度を上回る317点(前連結会計年度は227点)となりました。
しかしながら、期中に版を重ねる作品の点数が伸び悩んだこと等の影響により、売上高及び営業利益が減少、売上高は1,729百万円(前連結会計年度比16.2%減)、営業利益96百万円(同74.2%減)となりました。

通期はかろうじて黒字。



前年同期は6月にコミック文庫を創刊して点数を増やす体制を整えていた。そして今回の第1四半期。刊行点数を増やせば(51点→61点)コストも上昇する。利益を出しやすい「増刷をする作品が少なかった」。かつ「返品率の上昇」まで。よって、減収以上の減益(採算分岐割って赤字)。



単行本化の交渉時、絵の修行でニューヨークに住んでた「ヘタリア」の作者に、すぐに直接会いに行って単行本化の約束をとりつけたという高橋編集長。
もし、渡米のスケジュールが変更になってたり、他社に先駆けられていたりして、単行本化の話がなくなってたら、さらに赤字幅が広がって……と想像すると、他人事ながらキンタマ縮み上がりますね。