松文館の「ガールズポップコレクション」が狙い撃ち。


9月に、「規制に反対するヲタクは認知障害者」というぶっ飛び発言で一部オタク界隈を騒がせた東京都が、伝家の宝刀である有害図書指定がらみで不気味な伏線をはりつつある件について。


有害図書を決定する「東京都青少年健全育成審議会」が、松文館のTLアンソロジー「ガールズポップコレクション」を親の敵のように指定しまくっている。
最近2年間の指定状況を調べると、去年の7月に「ガールズポップコレクション・35 誰にも言えない(秘)調教H」を指定したのを皮切りに、今年に入ってからは、前半は隔月ペースでせっせと指定。
8月からは毎月ペースにペースアップし、10月と11月は、2冊ダブル指定のコンボを繰り出してる。



指定年月 出版物 Link(答申と書影)
07年12月 とまどい期のおわり 答申 書影
08年1月 - -
2月 - -
3月 - -
4月 - -
5月 - -
6月 - -
7月 ガールズポップコレクション・35 誰にも言えない(秘)調教H 答申 書影
8月 - -
9月 ガールズポップコレクション 秘密の扉 vol.29 答申 書影
10月 - -
11月 - -
12月 - -
09年1月 ガールズポップコレクション 秘密の扉 vol.34 答申 書影
2月 - -
3月 ガールズポップコレクション バーニングラブ vol.27 答申 書影
4月 - -
5月 ガールズポップコレクション 背徳恋愛(1) 教師と生徒の禁断愛 答申 書影
6月 ガールズポップコレクション レイプ 答申 書影
7月 - -
8月 ガールズポップコレクション 快感LOVE vol.12 イジメ編
ガールズポップコレクション 危険恋愛H vol.47 【特集】お仕置き
答申 書影書影
9月 ガールズポップコレクション バーニングラブ vol.33 答申 書影
10月 ガールズポップコレクション 危険恋愛H vol.49 【特集】侮蔑
ガールズポップコレクション 背徳恋愛 vol.7 教師と生徒の痴情
答申 書影 書影
11月 ガールズポップコレクション 危険恋愛H vol.50 【特集】罪業
ガールズポップコレクション バーニングラブ vol.35 特集 肉食ケモノ愛
答申 書影 書影



この絨毯爆撃指定に対して、さすがに何らかの手を打たないとヤバイと考えたのかどうかは分からないが、松文館は今年8月、「東京都青少年健全育成審議会」が意見聴取を行う自主規制団体*1の一つ、「出版倫理懇話会」に加盟している。

成人向け図書を中心に発行する出版社でつくる出版倫理懇話会(長嶋博文会長=?ジーウォーク)にこのほど、(株)松文館(東京豊島区、貴志元則社長)が入会した。現在の加盟社は35社。
同懇話会は、月に1回定例会を開き、主に、東京都の青少年健全育成審議会が指定する不健全図書類やコンビニエンスストアで販売する小口止め雑誌等、出版ゾーニング委員会のゾーニングマークの要請誌などについて対応を協議。モデルの年齢確認(DVD等)をはじめ、過剰な内容とならないように自主規制を申し合わせるなどの活動を続けている。
5期10年務め、6月から6期目に入った長嶋会長は、「最近は、ネットやケータイの影響で成人図書の売上げも落ちているが、当団体の地道な活動もあり、自主規制や小口止めのおかげで会員版元の指定も少なくなった。現在は、コンビニエンスストアに置かれている成人マークの付いていないグレーゾーン(小口止め)の雑誌の付録であるDVDの内容が過激になってきている問題がある。児童ポルノ法については、表現の自由を守る立場から発言したいく」と話している。

http://www.shinbunka.co.jp/news2009/08/h090827-03.htm

3年前、最終的に罰金刑が確定した「『蜜室』裁判」の時も、松文館は長らく非加盟で通してきていたのに、ここにきて唐突にも思える形で加盟したのは、今回の東京都の有害図書指定の件が関係しているように窺える。


東京都の有害図書指定は、同じ雑誌で3度連続して指定をくらうと廃刊を余儀なくされる……とは、塩爺の著作「出版業界最底辺日記」からの受け売りだが、このルールが今も生きているなら、8月に「vol.47」、10月に「vol.49」、11月に「vol.50」へ指定を受けた「危険恋愛H」シリーズや、9月に「vol.33」、10月に「vol.35」へ指定を受けた「バーニングラブ」シリーズは、危険水域に近づいている可能性がある。


今年の夏に「姫盗人」を休刊させて、男性向けエロマンガ誌から撤退した松文館としては、稼ぎ頭の「ガールズポップコレクション」の一角を失いたくはないはずだ。*2


ただ、 8月に加盟したことで、9月の意見聴取で松文館を擁護する意見が増えたかというと、そういう様子でもない。


8月の意見聴取結果
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/591/siryou4.pdf
9月の意見聴取結果
http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/592/siryou3.pdf


出版倫理懇話会」は、あくまで意見聴取する団体のうちの一つにしか過ぎないため、大勢を変えるほどの力を持たないということかもしれない。また、加盟した8月以降のほうが、指定の勢いが増しているように見えるというのも、釈然としない。
「『蜜室』裁判」敗訴で、刑法175条の前科一犯がついた松文館は、狙い撃ちしやすいという事情はあるかもしれないにしても。


今後、影響が出るかもしれないポイントとして把握しておきたいのは、男性向けばかりが注目されがちな有害図書指定で、女性向けのTLアンソロジーが指定をくらいまくっていること、また、「ガールズポップコレクション」はケータイマンガ書き下ろし作品の収録も行っていること、の2点だと思う。
1点目は、規制問題に比較的関心が薄いTL・BL・同人市場が、規制強化に向けた“突破口”にされる可能性と絡む。
2点目は、キャリア発の年齢認証やフィルタリング、極大な消し・汁表現の削除といった自主規制で、今のところお咎めなしを維持しているケータイマンガに、規制の口実を与える可能性があるかもしれないこと。




ともかく、この指定の頻度は尋常でないのは確かだと思うので、注意しておきたい。





*1:出版倫理懇話会のほかの主な自主規制団体は、日本雑誌協会日本書籍出版協会日本出版取次協会、東京都書店商業組合(日本書店商業組合連合会)、首都圏新聞即売懇談会、東京都古書籍商業協同組合、日本フランチャイズチェーン協会など(参考資料)。

*2:また、別のシリーズ名で出しなおせばいいという簡単なものでもない……と思う。あるいは、「危険恋愛H」「バーニングラブ」「快感LOVE」「秘密の扉」といった、屋上屋を架すような細かなレーベル分けをしているのは、どれか一つが廃刊を余儀なくされても残りのレーベルで何とか持ち応える、戦前の生めよ増やせよ的やり方をしているのかもしれない。