日本最南端、“砂風呂”の街の電力を支える ―― 山川地熱発電所
地熱発電所めぐり、2箇所目は、日本最南端の山川地熱発電所へ。
最寄り駅のJR山川駅で降りると、「日本最南端の有人駅」の札。
ここから、さらに10キロほど南下するため、地熱発電所も日本最南端、ということになる。
標高1,000メートル以上の山の中にあった八丁原地熱発電所に対して、山川のほうは、海辺すぐそば。
“砂風呂”目当ての観光客でにぎわう、指宿の街のすぐそば。
汽車の乗客のほとんどは、二つ前の指宿駅で降りていった。
ぽつんととり残されたような気分で、駅前の駐車場でひろった「造船タクシー」という地元のタクシーに乗り込み、「地熱発電所まで」。
このタクシー運転手のおっちゃんが、運がいいのかどうか非常にしゃべり好きで、維新志士の江藤新平という人物がこのあたりで何をしてたやら、温泉の街だけど川の水はとても冷たいやら、この間娘夫婦といっしょに宮崎のホテルで2泊3日してきたやら、あっちこっちに話が飛ぶ。
「そーなんですか、へー、えっと、ところで地熱の……」と話の方向を変えるのに苦心しながらようやく聞き出したところによると、地熱発電所の計画が出た当初、温泉観光で食べてる地元は「発電所で蒸気をくみ上げたら、お湯が出なくなるかもしれない」と反対のほうが多かったらしい。
でも、1995年の稼動から16年が経った現在、お湯の出が悪くなったということはなく、今のところ杞憂で済んでいると。
さらに、発電機をもう1台、追加する計画もあると聞き、俄然もりあがってくる。
地熱発電所の展示館に到着。観光地仕様の料金1,400円を払い、玄関の前で降りると、ほかに客待ちのタクシーが見当たらなかったため、帰りもお願いする必要があるかもしれないと思い、念のため名刺をもらう。
海岸方向を見ると「竹山」という何かのモニュメントのような奇岩。
この奇岩を舞台に江藤新平が何やらやったらしいと運ちゃんから聞いたような気も。
こちらも、案内はおねーさんが、担当。
かつ、客は自分ひとり。
マンツーマンでタービン・発電機ルームに案内される。
八丁原と同じく、ぶんぶん回ってる羽根車の音がかなりうるさい。
八丁原では写真でしか見ることができなかったタービンの羽根車を、ここでは実際に使われていた現物を見ることができた。
1/1サイズの現物は、やっぱり重厚感が段違い。
発電量は3万キロワットで、八丁原の3割弱の量。
2次蒸気を取り出す「フラッシャー」は無し。
おねーさんの説明によると、指宿の街のおよそ半分の電力を賄っているという。
さらに、運ちゃんから聞いた発電機の新設計画の話を振ってみると、「そういった計画はございません」「え、本当に?」「ええ、本当に」。
運ちゃん……ぬか喜びだよ……。
それとも、霧島市にある大霧地熱発電所のほうでは計画が動いてたりするのかしら?
小雨のばらつく外へ。
写真は「蒸気井」と「気水分離器」の遠景。
もっと近くで見たかったのだけれど、おねーさんが「今日は雨が降ってますので、こちらのルートで……」と、屋根付きのベランダで止まって、説明をはじめられる。
客一人しかいないし、雨だしで、どうも省エネ案内をされた印象。
「蒸気井」とつながっていると思われる煙突のような何か。
八丁原と同じ形をした「気水分離器」。
数も同じく2本。
「冷却塔」は、発電容量が少ない分、八丁原よりはこじんまりとしている。
手前の囲いのようなもので隠れているけれど、囲いの向こうは外壁が開いていて、プールがある。
囲いの内側の様子。八丁原のものと違い、大きな吹き抜けにはなっておらず、柵がついている。
「フラッシャー」がない以外は、八丁原とだいたい似たような仕組み。
理科室にある標本めいた説明ボード。ボタンを押すと、ピカピカ光る。
八丁原にもあった、スケールまみれの管とドリルの現物。展示館の定番アイテムらしい。
エコキュートとIHクッキングヒーターの宣伝コーナー。
ここまでは分かるけれど……
なんで原発のボード型模型まであるんだろう。
もはや異物、ならぬ遺物だ。
日本地熱学会が4月に公表した緊急提言は、「「固定価格買取制度」の導入」「技術開発」「国立公園内の地熱有望地域における開発の規制緩和」などが行われれば、「発電原価20円/kWh以下での新たな地熱開発可能量」は、9年後の2020年までに現在の全国地熱発電容量の約2倍の「総容量113万kW、69億kWhに達する」としている。
10年かけて2倍。
日本の地熱発電は、千里の道も一歩から、というのが現状なのかな。