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    • フレデリック・ワイズマン監督「基礎訓練 BasicTraining」(http://jc3.jp/wiseman2011/index.html
      • 渋谷ユーロスペースで13:00の回。
      • 1971年公開。「フルメタルジャケット」の元ネタなのかもしれないとか言われている、米陸軍新兵訓練センターにおける訓練の日々を追ったドキュメンタリー(二段ベッドの集められた部屋なんか、そのまんま)。71年ということは、当然、見事卒業の暁に送り込まれる先はベトナム。また71年という戦争末期に撮られているため、世間の反戦ムードを意識した言葉が、訓練を担当する上司、新兵から随所で聞かれる。
      • 新兵の入学式のようなものをやっている講堂会場に、訓練センターで一番えらい人が入場してくる時、なぜか生バンドで勇ましいマーチが流れる。日本の大学の入学式で同じことをやるかと言えばやらないだろう。
      • とりあえず行進させとけ、と言わんばかりに、とにかく行進のシーンが繰り返される。おそらく、編集で多めに入れたのではなく、常日頃からそうなんだろう。行進中は、フルメタのように、必ず歌付き。ガールフレンドと結婚式場に向かったら、そこに散弾銃を抱えたGFの父親が居て、しばらくした後、十数人の子どもに囲まれた生活を送っているという、意味不明の歌詞が印象に残った。まぁ、歌詞は韻を踏んでいれば中身はどうでもいいのかもしれない(統率の役に立てば)。
      • M16ライフルの使い方をレクチャーする兵卒が、途中で、ベトナムを意識しながら、人殺しの是非を問われても今の時点で答えは出せないがベトナムで殺されたくなければ自ずとそこでやることの答えは出る、的な議論のすり替えをうまいこと新兵たちに語りかけていたのが印象に残った。10代後半の新兵はころっといっちゃうのかもしれない。
      • 一方で、防火当番をさぼった罰で、懲罰房送りか軍法会議行きを選べと詰め寄られて、軍法会議で罪にあたらないことを証明すると応戦し、上司を追い返したりと、軍隊のシステムに染まらない新兵もいる。そこで、白人の上司に祖国への忠誠と奉仕を問われて、「あんたのいう祖国はオレの祖国じゃない」と黒人の新兵が言い返す。戦争末期らしいやりとり。
      • 米陸軍の歴史映画を観る時間で、「過去無配の米軍」と誇らしげに語る兵士の言葉が、直接的皮肉・意図を極力抑えた作風のワイズマン映画にしては珍しく感じた。
      • この「基礎訓練」公開と同じ年に行われた、ベトナム帰還兵による戦争犯罪・残虐行為の証言集会“ウィンター・ソルジャー公聴会”を取り上げたドキュメンタリー「ウィンター・ソルジャー」を合わせて観ると、ベトナム戦のビフォー・アフターが対比されてくると思う(「ウィンター」のほうは、ワイズマンのような所謂“見えないカメラ”視点ではない、オーソドックスな手法を取っているので、その点でも比較対象になる)。

   http://video.google.com/videoplay?docid=3846752822614629443#&fmt=22

    • フレデリック・ワイズマン監督「ミサイル Missile」
      • 渋谷ユーロスペースで15:00の回。「基礎訓練」に続けて。
      • 1987年公開。ミサイルはICBM、陸上から発射される大陸間弾道弾、つまり核ミサイルを指す。大統領の命令があれば、速やかに共産圏へ向けて核を発射する最終担当者の選抜過程・試験を追ったドキュメンタリー。
      • 映し出されているのは、モノホンの核ボタン管理センターではなく、その訓練課程であってナマの現場ではないため、言えば緊張感には乏しい。けれど、訓練で使われている核ボタン発射システムは実際のものと同じなので、そのリアルさは一見に値した。冷戦末期の核発射シークエンスは、訓練といえど、かなりの迫力。大統領の決断と共に送られてくる暗号を解読し、6桁のダイヤル式ロック解除システムに入力、2ヶ所の管理センターで予定時刻に同時に、カギ穴に入れた鍵(一般住宅のドアのカギと変わらないつくり)を右に90度回して2秒間待機、そして次々に核が発射されていく。ミサイル毎に設けられた発射を告げるボタンの列は、発射が終わった順にパネルに黒マジックで線を引いていく。
      • 選抜過程に応募してきた軍人の多くが、自己紹介時の動機の説明で、キャリアアップのために応募しました!的な言葉を発するのを観て、はー?という気分になった。なんなの、それ。核なのよ、核。24年前のキューバ危機を知らない世代なのか、それともゴルバチョフの雪解けがはじまって気が緩んでるのか。それが気持ち悪かった。
      • 訓練用の管理センターで、タバコの吸殻やジュースの空き缶が転がっているのを、掃除担当の部署から苦情で言われ、選抜担当者らが「確かに問題だけど、そこまで煩く言わなくても……」と会議で真面目な顔で話していた。いかにも大雑把なアメリカらしいが、核を管理するところでそれはどうなのか。
    • フレデリック・ワイズマン監督「パナマ運河地帯 CanalZone」
      • 渋谷ユーロスペースで17:30の回。「ミサイル」に続けて。
      • 公開年の1977年は、当時のカータープレジデントがパナマ共和国への運河返還条約を締結した年。したがって、運河管理会社の職員は、給与削減とリストラの兆しに危機意識を募らせ、ストや団交を行い、軍の家族の間で児童虐待が増加していたりと、きな臭さが高まっている。一方で、180分近くある映画の多くは、パナマに住む民間人、軍属ののどかな日常風景を追っていて、正直、たるいところも。ハサミ入れて、90-100分くらいに縮められるんじゃないかなぁ。
      • 映像によって印象に残るのは、軍とキリスト教が支配する、運河一帯の世界の狭さ。アメリカをイエスを讃えよ! それが180分近くの間、これでもかと繰り返されるので、何度かぐっすりいきそうになった。そこに辟易させるのがワイズマンの狙いだとしたら、まんまとのせられたことになる。
      • ラスト、戦没者を送る式典が終了した後、閑散とした墓地に、パナマ現地の人と思われる人たちがやってきて、式典参加者がいたのとは別の墓地に花を添えたり、掃除をしたりしているシーンが挿入されていた。米軍とキリスト教による救いの対象でない軍属=かつての戦争に米側で参加したパナマの現地人の人たちの遺族なのかもしれない。
  • 隣のスクリーンでやってた「サウダーヂ」がどの回も満員御礼状態の大人気だったので、観にいってみようか。