だんめんずこみっく2


 http://syokusyu.com/dm/


 先端恐怖症な人に優しくない、船首が迫ってくるような外観の大田区産業プラザで。主に女性生殖器の断面図、内部構造図が好きな人でなしのための即売会である。ちなみに、ゼロの使い魔オンリーイベント「はじめての召喚」、ガールズラブオンリーイベント「ゆりけっと」、肩掛けカバンをたすき掛けにして強調された胸オンリーイベントπ/」、触手限定同人誌即売会「触祭六」、シスター・修道女中心 聖職者オンリーイベント「万聖祭」、びんちょうタンオンリー「ウバメガ氏からの贈り物」、MUSASHI-GUN道オンリー同人誌即売会うおっまぶしっ!!」との8ジャンル合同開催である。
 蒲田くんだりまでマニアックな即売会に足を運んだのは、目当ての《NAITOU2》(F4U)と《ef-labo》(裏次郎)のため。「だんめんず」だけで全部で14サークルしかない。まあニッチ系即売会はそんなもんだ。ちょっと期待してた「π/」なんか5サークルしかない。プラザ内にある、こっちはとりあえずやってますが味とか色々期待すんな的な喫茶店で540円のモーニングを頼んで開場まで時間を潰す。コーヒーが不味い。10分前に店を出ると、200人?くらい(適当)の列がすでに。なんかティアとかコミケよりも濃い人が多いような。


 《NAITOU2》の新刊はオフセット「委員長はボッコボコ! 前編」。お題のだんめんずは断面図というより「ミクロの決死圏」か「悪魔の住む花」か(セブンvsダリーだっけ?)。「同時刻 卵管内 巡航卵子」「これに… 異常発生!!!」。“かごめかごめ”の童謡にのせて暗闇の中を彗星のごとく弧を描いて流れていく子宮がたどりついた先は、覚悟のススメ的コマ四隅明朝体配置の「卵 子 出 現」。期待通りの出来。平和な西東京市に、核汚染でミュータント能力を得た代わりに子作りに適さない体になってしまった武士軍団が東北から正常な母体を求めて来襲、これをセーラー委員長が迎え撃ち肉弾戦で蹴散らしかけるも、武士軍団長が習得する「奥日光に伝わる秘術」「これはレイプを超えた完全なレイプ」で「己の卵子を白昼に晒されようこは崩れ落ちた」「この屈辱、この恐怖 絶望と喪失感をいかに形容しよう」で、続く。
 いっしょに買った、「委員長は〜」と世界観を同じくする「Number02」では、核汚染で生殖器に異常をもってしまった東北の少女が犬に獣姦され受精する瞬間が、まるで惑星を大気圏外から光子魚雷でじゅうたん爆撃するよう。
 子宮内のミクロにとことん迫っていき、それをある時点で一転、マクロな小宇宙として空間を一気に広げる。「委員長〜」「Number02」で共通して見られる視点のエロスを超えた巨視感がこちらを唸らせる。


 《ef-labo》は3月に出た既刊のアイドルマスターの伊織とかいう娘をネタにしたオフセット「でれでれスマッシュ!」が良かった。ツンデレ娘を素材に裏次郎得意の甘ったるさ爆発。ピリリとした小ネタはあまり効いてなかったが。
 ほかは《P.A.Project》(てるき熊)の既刊4冊、《AskRay》(ぼっしぃ)の新刊1冊、ハンツ上等兵という作家の断面図マンガ1冊(試験管でつくった受精卵=遺伝子操作豚の双子を着床→妊娠→出産)。ざっと回ってみたものの、ここまでニッチで参加サークル数も少ないと、琴線に触れるような本はなし。パンフが売れて入場フリーになった「しましま」系即売会も別に欲しいほどの本はなく。
 物足りなかったので、帰りは京急駅でなくJRの蒲田駅方面へ歩き、ブックオフで1000円分ほど買い込む。こちらでで買った本の総量のほうが重かったという。

化け物の文化誌展


 http://www.kahaku.go.jp/event/2006/10bakemono/index.html


 乗り換え無しでそのまま上野駅まで。国立科学博物館で開催。文化の日だったので、入場無料。人ごみでごったがえし身動きとれず、列にのっても牛歩で進まないので、展示物をばらばらにつまみ食いするように見る。
 物体よりは絵は文献のほうが多く、ちょっと肩透かし。なんというか、子供が数日くらい夢の中でうなされそうなブツはなかった。金払って見るほどのものではなかったので、文化の日でちょうど良かったか。人魚のミイラや河童の手の骨の展示説明に、サルと鰯をくっつけた〜だとか何の骨を細工したもの〜だとか言った、そう言い伝えられているという以上の“実は”の補足がなく、それは今時、面白いスタンスだとは感じる。

サンキュー・スモーキング(監督・脚本:ジェイソン・ライトマン)


 有楽町に移動して、ひつじやで飯を食ってから、日比谷シャンテシネで17:00の回。


 タバコ産業が資金を出しているタバコ研究センターの主任スポークスマンの情報操作活動の日々を、コミカルに家族愛もからめて描く。
 「スーパーサイズミー」のように、意図的な悪玉論はなし。いつも揶揄されてタバコ産業の人も大変ですね、くらいの風刺。それよりも、テーマは、自分の陣営にとって都合の良い情報が人々に流れるようにするには、どんな工作のやり方がかしこいのか。これを、分かりやすいアメリカンコメディで提供してくれているので、笑いのツボは日本人にも掴みやすい。
 タバコの箱に髑髏マークの印刷を義務づけようとする健康厚生省の公聴会で、窮地に追い込まれたスポークスマンが、未成年にタバコを吸わせないようにするのは親の教育による義務でやるべきだ、と主張する。行き過ぎた規制に対する反論としてはよく耳にする論理で、映画の山場に託されるセリフとしてはちと、弱かったか。1,000円以下で見られる人か、勉強熱心なカップルなら。



参考:公式サイト

永沢氏の予感、物書きとしての覚悟。


 映画まで時間が出来たので、日比谷公園まで足を伸ばすと、ニッポン放送のイベントがやっており、映画中に眠くなってもなんなのでワインの試飲会はそのまま通り過ぎると、あるテントの前で、産経が最近始めた産経本紙の半額で月刊購読できる新規読者の発掘のための横書き日刊タブロイド紙SANKEI EXPRESS」(http://www.sankei-express.com/)の試読版を配布していたので、もらって読むと、まぁ、中身は例の産経節で、故・岸元首相の悲願はABEに託されたみたいな、ああそーかそーかそらたいしたもんだなの記事はさっさと読み飛ばし、全体の半分くらいを占める海外記事は読めるかなといった感じでごみ箱に捨てようとしたところ、5面の3/4を使って永沢光雄が亡くなったとの記事が。産経本紙で「生老病死」というコラムを去年7月から連載していたという。知らなかった。亡くなる一週間前に担当へ送られ、本来なら11/3の本紙に掲載されるはずだったというコラムが、この同日付の試読版EXPRESSに掲載されていた。

 けれども、わずか2時間でも眠ったおかげか、吐き気はなくなっていました。私は安堵し、秋の夕暮れの光が入ってき始めた寝室の天井を眺めました。そして、ふと気づいたのです。
 隣室に、『死』というものが潜んでいることに。しかし、私はその輪郭のはっきりとしない、ぼんやりとした『死』というものに脅えることはありませんでした。むしろ、慰められました。これで、やっと楽になれると。
 私に自死するつもりはありませんし、多分しないでしょう。けれども『死』が向こうからやってきたら甘んじて受けるつもりです。これからやりたい仕事はいろいろありますが、仕方ありません。ただ残した妻にいろいろな厄介をかけることだけに罪悪感を覚えています。

(一部抜粋)


 楽になれる、と思うほどの労苦や痛みを味合わされたということ。厄介をかけることに罪悪感を覚えるほどの誰かが存在するということ。「甘んじて受ける」「仕方ありません」。はからずも絶筆という扱いで掲載された文章に、こういった言葉が記されていることにショックを覚える。しかも誰かに宛てた私信ではなく、物書きとして表に出すことを前提にした文章で。備忘録を編纂する縁者が故人に思いをはせて想像を交えてつむいだ言葉ではなく、当人が記した言葉として追悼の記事と共に出てしまうことに。