「薩南示現流①②」(作画・とみ新蔵、原作・津本陽)SPコミックス

 疲れた日は、マンガでも読んでさっさと寝てしまうのがよいはずなのだが、昨日の世棄犬つながりでエロマンガばかり手にとって読みふけってしまい、先週出た甘詰留太の新刊「きもちイイコト」の感想でも書こうかと思い立って、最近は青年誌に進出した「年上ノ彼女」の甘々路線がカラーとして定着しそうになっているけれど、やっぱり甘詰留太は、地位もカネも腕力もない男が「娼婦」的立ち位置の女の子に惚れて助けようとするも、相手の心は掴めても社会や身分や家系やなんだかよく分からない制度が邪魔したり、メイドや亜人種やサセ子(なんか古……)のその娘と肉体関係でやりまくりになっても互いに心の奥底は打ち明けられないままだったりと、無力感と挫折を味わいながらフェードアウトしていく青臭い語り口が絶妙だなと、今回の新刊に収録されてる「忘れられない」を読んで再度確認したり、既刊の「キミの名を呼べば」収録のタイトル作(前・中・後編)と「エンジェリック・ハウル」、A・浪漫・我慢名義の「くわがた」なんかも“しかり”だよな、因習めいた世界観サイコーとか、そういうことで締めようと思っていたのだが、2日続けてエロというのもなんなので、それなら甘詰留太つながりでヤングアニマルボーイな人にオススメのマンガをひとつ紹介してみようかと転換して、今日はカレーの日ならぬ「薩南示現流」(とみ新蔵)の日。


 まぁ、誤解を恐れずに言えば、剣劇版「ホーリーランド」だ。

 「チェストー!」の掛け声で有名な、示現流(自顕流)の開祖、東郷重位(とうごう・ちゅうい)の話。
 右ひじを外に突き出し上段に構えた剣にたいして、体の中心線でひじを固定した左手を添えるトンボの構えで、初太刀にすべてをのせて切り込み、2の太刀、3の太刀も最短距離で無駄なく切断。「左肱切断」(左肱は切られたように動かさない)が心得。
 このあたりの基本知識をしっかり紹介しつつ、訓練のシーンや斬り合いのシーンの随所に盛り込まれた細かい注釈が一番の肝。体移動、足捌き、そのときの刀身の向き、受けの意味にほぼ逐一解説が入る。止め絵の決めポーズでぐっと引き付けながら、単なる説明セリフに貶められていない解説が、侍たちのなめらかな動きを想起させる。ある面、士郎政宗の欄外解説とも似ているかもしれない。力の溜めとスピードを強調するため、格闘シーンに入る最初のコマでよく足の踏み込みが描かれるのも共通している。
 同じ作者の「柳生連也武芸帖」(全5巻)は、型があって型がない柳生新陰流の使い手が主人公で、斬り合いのシーンは「薩南〜」よりもバリーエーションが広く、逐一解説もそれにともなってさらに面白くなる。十文字槍を使う僧兵5人組みと砂浜で一昼夜戦ったり、山林を森、谷、川と駆け巡って野党百数十人と斬りあったりするんだよ? ストリートファイトへの応用はほぼ不可能だろうれど、それでも、格闘うんちく好きののアニマル読者ならず時代劇ファン、「シグルイ」(山口貴由)ファンの人あたりには、一度は読んでみて欲しい。


薩南示現流 1 (1) (SPコミックス)

薩南示現流 1 (1) (SPコミックス)

 
薩南示現流 2 (SPコミックス)

薩南示現流 2 (SPコミックス)

柳生連也武芸帖 1 (SPコミックス)

柳生連也武芸帖 1 (SPコミックス)