「皇国の守護者①」(作画:伊藤悠、原作:佐藤大輔)YJCウルトラ

 最初に断っておくと、原作はまったくの未読。


 なんといっても、絵がうまい。ミリペンっぽい描線はあまり好みではないんだけれど、A5の単行本サイズでまとめて読むと、まったく気にならない。すべての人物の顔が判りやすくかき分けられてるのも、UJのマンガのなかでは珍しい。
 
 いわゆる架空戦記モノの妙である、科学技術の設定も面白い(これは原作のものだけど)。
 先込銃、大砲、騎馬隊が主力で自動小銃はまだない。撤退支援部隊は帆船で、最新技術の蒸気船がまだ試作段階。歴史上ではおそらく20年程度しか存在しなかったはざかい期の技術レベルの戦場。具体的に言うと日清戦争あたりか? 蒸気船は実用されてたけれども。
 この年代の戦争をフィクションで読んだり見たりするのは、のらくろ上等兵以来。スピリッツでやってる江川達也のは、読んでないんで。

 サーベルタイガー、天竜との「大協約」、導術師といった魅力的な要素は、完全にファンタジーのパーツなんだが(指輪物語ならオークが乗りこなしてた獣、エントとの共闘に置き換えられる)、和製ファンタジーで手垢のつきまくった設定を実歴史に組み込んでみると、こうも新鮮かという意外性。無線の電信技術を、代替がききにくい人間=導術師に置き換えているのも、ドラマ性を高めるのに一役買ってる。

 主人公であるところの新城中尉の、職業軍人としての合理的判断のみで、誰かのためにという要素のない行動倫理は、小気味よい反面、主人公の性格としては諦観が過ぎる印象もあるが、これは好みの問題か。1巻の収録話数分では、帝国、皇国の大局的な狙いも描かれていないし、2巻以降ではもっと俯瞰した視点は欲しいか。(え、原作読めって?)


 佐藤氏の原作は読んでないし、原作の既刊分には当分追いつきそうもない=オリジナル展開はなさそうなんだけれども、できるならば「道原銀英伝」よりは「板垣餓狼伝」のような作品になっていって欲しい。夢枕獏に作品の寿命を延ばさせたと言わしめた餓狼伝のように。




皇国の守護者 1 (ヤングジャンプコミックス)

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