「火吹山」は子どもの本だ

 扶桑社版で復刊した「火吹山の魔法使い」はお布施しなかった。800円は高い。

 小学生のときに何度も何度も読み返し、それからも遊びはしなくとも数年おきにペラペラとめくっては読み返した本だから、新味がないといのはある。

 ほぼ忠実に、社会思想社版「火吹山の魔法使い ファイティング・ファンタジー (現代教養文庫)」まんまの文庫スタイルで復刊したことは賞賛できる。大きさ、紙質、さわり心地をほぼ完璧に再現している。独特の厚みがあった冒険記録用紙が添付されてないのは残念だが、まあ許容範囲。
 創土社の復刊シリーズを比べて、1段組みである点も評価できる。創土社の本が豪華で立派で頑丈になったのは認める。けれども、2段組は本当にいただけない。2段組になることで、次のパラグラフを探してページをめくる手間が2分の1になったり、はしない。指でめくって探す手間が、眼め追って探す手間に代わるだけ。見開きに2倍のパラグラフが入ってるわけだから。先に待ち構えている未知の冒険(の文章)を、見ないようにする手間も2倍だ。
 

 でも、文庫で出す400パラグラフ程度のゲームブックが500円を超えてはいかんと思うのですよ。んー、ギリギリで550円くらいまで? つーか、当時のとおり480円で。
 売り文句で、本国イギリスでは2002年の復刊スタートから累計70数万部突破の人気作!とか煽っているけれど、じゃあ本国イギリスでは一冊いくらで売ってるのか。本国でも懐かしさで買って実際には遊びもしないロートルばかりを相手にして、70万部を超えたのか。
 ゲームブックを遊ぶのにもっとも適してる文庫でわざわざ復刊しといて、800円の値段をつけるなんて、新規開拓をするつもりはないのか。自分のような懐古趣味の人間がメインターゲットなのか。それは寂しい。

 秋葉原書泉では、エスカレーターをのぼった正面の棚で6冊分の面陳、平積みもそこここに数段ずつあるという力のいれようで、相当量を入荷していた。
 それは頼もしいんだけれど、でもこれは、扶桑社の仕掛けでできた特集コーナーじゃないだろう。創土社の剣社通信の人が地道に通って、お願いしてできあがったゲームブックコーナーを利用しているだけだ。持ちつ持たれつという側面はあるにしても。
 復刊企画にゴーサインが出てない段階で、翻訳権を買い取った結果が、この値段なのか。


 創土社の復刊、新作を「パンタクル」除いてすべてお布施してきた自分に、800円は高くはない。高くはないが、文庫のゲームブックが800円では、ダメだよ。

 ブーム当時の人気を支えただろう、ある現実的な面を指摘しておくと、ファミコンゲームウォッチも買ってもらえなかった子供が、友達が自慢げに語る「ドラクエ」のRPGの世界を、なけなしの小遣いをはたくことで何度も繰り返し読めて遊べる、そういうコストパフォーマンスの高さはあったはずなんだよ。
 
 

 ……とまぁ、ここまで書いてきて、実際に今自分が小学3、4年生くらいで「火吹山」を渡されて楽しめるかといったら、サウンドノベルやネットゲームのほうがはるかに楽しいとは思うんだけれど。つーか、逆に数冊くらい買い込んで、近所の子供に無理やりやらせてみたいわ。ホント。